勧誘②
「突っ立てるのもあれだから、とりあえず座ろうか」
翔悟の提案により、近くにある公園内の屋根付きベンチへと移動した。
腰を落ち着けてすぐ、本題へと入った。
「改めて紹介するね。嵐のリーダー、三谷翔悟だ」
「同じく、副リーダーの安城望愛」
「同じく、高浜直人」
彼らの紹介を聞き、渚は正直驚いていた。望愛や直人も、それなりの立場だとは薄々察してはいたが、まさかそこまで組織の中心にいるとは思わなかったのだ。
渚も改めて自己紹介をした。
「学校であったことは聞いた。災難だったとしか言えないな。立ち会うなんて運が悪かったね。嵐の……組織の大雑把なところは望愛や直人から聞いてるんだっけ」
「……ある程度は」
「じゃあ、それを踏まえて改めて聞く。渚くん、嵐に入る気はない?」
一瞬、まだ少し冷たさを残す風が少し雑に髪をさらった。
少しおいて、渚は尋ねる。
「嵐の、君たちの目的って……何なの?」
その問いに、翔悟は柔らかく微笑む。
「簡単……というか、目的自体は単純だ。能力者中心の世に変えること」
とても大きなことのように感じるが、彼はそれを何でもないというように言い切る。その姿に渚は少し目を細めた。
「それって……日本って国自体を変えるってこと?」
「最終的にはそうなるかな」
「ずいぶんと大きなことのような気がするんだけど……」
純粋な渚の疑問に、望愛はそうと肯定した。
「私たちがやろうとしていることは、最終的には国をも動かす大きなこととなるわ。でもね渚、考えてみて。私たちのような能力者がいるということを」
ずいと、望愛が身を乗り出す。
「今じゃ、能力者は千人に1人はいると言われているのよ。日本で例えるなら、およそ7割の人間が何かしらの能力を持っていることになるわ。そのくらい、今や能力者の割合って増えているの。
それなのに、国はどうして能力者に対する政策を行っていないのか。……いいえ、やっていないわけじゃないわ。排除、それを国はやろうとしている。なんで私たちを認めないのかしら? 能力者がいることで世の中うまく回ることもあるわ。もちろん、それによるデメリットも。それならば、能力者たちに枷をつければいい。法を定めればいい。
なぜそれらをしようとしないの。なぜいる者たちをいないと思い込むのか。結局は国にとってマイナスとなるものを、不利益だと感じるものはいらないってことなのよ。それっておかしいことじゃない?
知ってる? 政府の人間の中にも能力者が数人いるのよ。それなのになぜ、彼らは自らの能力を否定するの? おかしいわ。今の世の中おかしいことばかり」
ずいぶんと熱く語っていたからか、気づいた望愛は一度大きく深呼吸をした。
「……ごめんなさい。翔悟が話してたのに」
「いいよ。それに嵐ができた大元の経緯だって、望愛があらかた話してくれたし」
翔悟は改めて渚と向き合う。
「俺たちは、今の国の在り方に疑問を持ってるんだ。嵐はその考えや疑問を持った者たちの集まりだ。そして、他の……主に革命派と呼ばれている他組織と、国への能力者の容認及びその法改正など、能力者が住みやすい世の中にしようと考えている」
「どうだろう、渚。君もそれを手伝ってはくれないか?」
渚はしばらく彼らの話してくれた内容を自分の中で反すうしていた。能力者たちの置かれている現状、それに伴う国の対応……。確かに多くの能力者たちが一度は疑問に抱くことだ。
数分後、渚は3人を順次に見る。
「ひとつ、聞きたいことがあるけど……」
「何かな」
「その過程で、誰かを虐げたり、一般人を巻き込んだりっていうのはないよね」
「当たり前だ。嵐は一般人を巻き込まないことをルールに課しているし、自分たちの能力を誇示して、己のためだけに使うことをしないと決めている。いかなる理由があろうとも」
もう一度、自分の中で考えを巡らせた後、渚は口を開いた。
「今の話で、嵐が目指している方向は分かった。でも僕は、正直今の段階で、君たちみたいにそう考えられるまで深く考えられない。けれど……皆が僕の能力を必要としてくれるなら。それに、実際にみんなを見て決めたい。自分がどうしたいのかを。だから――」
よろしくお願いします
そう言うと、3人の表情がふっと柔らかくなった。
「これからよろしく、渚くん」
差し出された手を握り返す。
「いや、なんか俺のほうが緊張してたわ」
「そういえば直人、ずっと静かだった」
「俺みたいなバカが口出すより、こいつらに任せた方がずっと話は進むだろ?」
「あら、バカなりに考えてたの?」
「自分でバカって認めてる辺り、バカだよな直人」
「……俺、けなされてない?」
先ほどの緊張感は抜け、和気藹々とした話になる。
「あ、あとさ、少し気になることが……」
「何かしら?」
「承諾しておいてなんだけど、どうして僕? 望愛は僕の能力は珍しいって言ってたけど……そんなに役に立つ能力じゃないわけだし……」
「どこがよ」
「どこがだよ」
望愛と直人の突っ込みがきれいにはもった。
「……あー、渚の能力便利そうじゃん。たとえスパイとか送り込まれても、見抜けそうだし」
「スパイって……。でも前にも言ったけど、まだ自分でうまくコントロールできないところがあるんだよね……」
「なら特訓しましょう。自論だけど、能力はもともと自分の個性のひとつだもの。鍛えることができるわ。鍛え方によっては、とても便利になるのよ。私や直人のように」
「そんなに気負う必要はない。大丈夫だ。きっとこれからの計画は、渚くんの能力を加味した上で決めると思う。それくらい君の能力は役に立つと思うんだ。じゃなきゃ、スカウトなんてしない」
三者三様で渚を励ます。その言葉を受け、渚も少し気が晴れこくりとうなずいた。
そんな彼らの頭上を、くるりと旋回するトンビ。3人以外に、
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