協力者
渚が勧誘を受けてから約2週間が経った。
4月も終わり、GWもあけ、だんだんと学校中が活気に満ちあふれる時期。
今日も退屈な授業が終わり、放課後を迎えていた。
「渚ー、帰ろうぜ」
「あ、うん。その前に職員室寄ってもいい? さっきの古文の課題、出しに行かないと」
「おう、いいぜ」
俺もついて行く、と直人とともに職員室へと向かった。
2週間前、渚が勧誘を承諾した翌日から、ほぼ毎日のように嵐の活動に参加している。とはいってもそのほとんどを直人か望愛、時おり翔悟とともに、街中を一緒に歩き回っているだけだが。
職員室への用を済ませ、2人は学校を出る。直人と一緒の日はこのまま街に出て回るのだが、今日はどうやら違うらしい。この道のりは、近くの公園へと向かっている。こういう日は、主に望愛とともに回っており、彼らより一コマ多い望愛の授業が終わるのをここで待っているのだ。
彼らが公園についてから1時間するかしないかで、望愛がやって来た。
「遅くなってごめんなさい。授業で分からないところ聞いてたら、安住先生に長々とつかまっちゃったの」
「あぁ、あの先生そういうところあるからなー」
望愛と少し話し、直人は帰っていった。基本嵐は2人一組で組むことが多いらしく、3人一緒に回ったことはない。
「さぁ、渚。今日は数か所寄るところがあるから少し急ぎましょ」
そう言って、望愛を先頭に公園を出た。
もう少しで18時をまわる時間の街中は、帰宅する学生や会社員であふれていた。
一緒に街に繰り出した初日、渚はこれに何の意味があるのかと一緒に回っていた望愛に尋ねた。
『ひとつに、能力者たちによるいざこざや厄介ごとが起こっていないか見て回ってるの。もし一般人が巻き込まれてしまっていたら、大事になってしまうこともある。私たち能力者の立場って、社会的に厳しい位置にあるから。だから、できることならいざこざを起こさない。もし起きてしまっても、同じ能力者が客観的にそれを対処する。それらが迅速に行えるように、私たちは問題が起こっていないかを見て回っているの』
何パターンかある道順のひとつを30分ほど歩いていると、望愛はいつもの道から逸れ、一軒の店の前で足を止めた。
「入るわよ」
そこはアンティーク調の喫茶店だった。そのおしゃれな喫茶店の中に望愛は慣れた足で入っていく。こういう場にあまり来たことのない渚は、恐る恐る後に続いた。
カランと小気味よいベルの音と静かに流れるクラッシックが、この店の大人な感じを醸し出していた。
「店長、こんばんは」
「誰かと思えば望愛ちゃんか。久しぶりだね。春休み以来?」
「そうですね。それくらいですかね」
親しげに話す望愛の向こうの人に視線を向けると、バチッと目が合った。
「初顔だね。もしかして彼氏さん?」
「違いますよ。彼は白鳥渚。先月うちの高校に転校してきて、直人と同じクラス。渚、こちらはこの喫茶店の店長」
「はじめまして、店長の
「……白鳥渚、です」
すらりとしていて、かといって弱々しく見えない。黒ぶちのメガネの奥の目が、やさしく渚を見つめていた。
未だ彼らの関係性を見出せないでいる渚をよそに、望愛は近くのカウンター席に座る。
「今日もお客さんいないですね」
「望愛ちゃん、表のプレート見てきた? もう閉店時間ですよ」
「でも実際、ここ休日以外そんなに人来ないじゃないですか」
「いや、まぁ、そうだけど」
会話が続いている中、1人突っ立っているのも変だと思い、渚も望愛の隣に腰掛ける。
「それで? 何か用があったから来たんだよね?」
店長――今泉が閉店作業の続きだろうか、テーブル席をふきながら尋ねる。
「今週の土曜って、ここ使えますか?」
「今週……? 今のところ空いてるけど」
「なら、予約入れててください。会議を開くので」
「……あれ、まだ先の予定って言ってなかった?」
「急遽、変更することになったんです。計画自体早まりました。これから忙しくなります」
渚は彼らの会話についていけなかった。
望愛の言う”計画”という言葉は、彼女たちがたまに口にするので耳にしていたが、その中身までは詳しく知らない。
その困惑の様子に今泉が気づいてくれた。
「望愛ちゃん、彼ついてきてないけど。てか、彼まだ査定中でしょ? いいの、この話」
「大丈夫です。むしろ聞かせるために連れてきたんですから」
そう言い、望愛はくるりと椅子を回転させ渚と対面する。
「合格よ、渚。改めて、今日から正式に嵐の一員として迎えるわ」
渚は望愛の言葉の意味がよく分からず驚き、尋ねる。
「……えっと、合格って?」
「査定してたの。前にあぁは言ったけど、もしもの可能性を考えないといけないわ。あ、もしもって渚が私たちに害を及ぼす側かどうかってことね。だけどそれはないって分かったから、合格。正式に嵐にようこそってわけ」
「……今までのは?」
「今まで? あぁ、この2週間のこと? まぁ研修期間みたいなものね。私たちの仲間がそれぞれの能力を使って、この人は本当に仲間に入れても大丈夫かってのを見極めてたの。今まで街中に繰り出していたのは、渚が仲間になっても問題ないか、他のメンバーや組織に査定してもらっていたの。そして、みんな問題なしってことで認めたわけ」
「そ、そうなんだ」
自分の知らぬ間にそんなことがあったのかと思うと、何かやらかしてなかったかななんてこの2週間を振り返ってしまう。
渚のそんな考えなど無視し、すぐに本題の”計画”についての話へと進んだ。
「ざっくりいうとね、政府に私たち能力者の存在価値を分からせるの」
そう言ってにぃっと笑う望愛は、さながら悪役のボスのようだ。これで足を組んでたら、さぞかしそう思えただろう。
「……ずいぶん大きい計画だね。これを嵐がやるの?」
「そうよ。でも私たちだけじゃない。同じような革命派と呼ばれているグループと合同で行うの。今回は手始めに、都内の能力者たちと結託して抗議するつもり」
そのための会議を土曜日にここでやるのだという。その会場確保のため、今泉さんに確認をし、ついでに渚の紹介もしようと連れてきたらしい。
「その……計画の話とはずれるんだけど、今泉さんも能力者なんですか?」
その問いに今泉は違うと笑顔で答えた。
「普通に一般人。でも国の能力者たちに対する扱いについては、望愛ちゃんたちのような人たちと考え方は似てるかな」
「店長は同じ革命派を名乗ってる能力者の人から紹介してもらったの。ちょうど会議とか話し合いするときに安心して話せる場所がなくて、そういう場所を探してる時だったから。喫茶店経営してるって聞いて、じゃあここでいいかなって」
「それから俺は基本的に、場所を提供してるだけ。活動自体には関わってないよ」
渚は二人の話を聞きながら、能力者にしろ一般人にしろ、考え方は人それぞれあるのだなと思った。
それから数十分、雑談と時おり計画について交えながら話し、今日のところは解散ということになった。
「ごめんなさいね。本当はもう2件ほど回って、渚のこと紹介したかったけど、思いのほか店長と話し込んじゃったみたい。これからでもいいんだけど、2人とも用事が入っちゃって今日は無理みたい。土曜日の会議には来るから、その時に改めて紹介するわ」
喫茶店を出ながら、望愛はそう言った。そしてその場で望愛と別れた。
すっかり夜の顔となった街中を歩いて帰る。居酒屋やカラオケ店のキャッチが客をつかもうと通行人に声をかけている。その中を通り抜けながら、賑わいから離れていく。
ようやく街の中心地から離れ、薄暗い街灯の中を歩く。この通りに来ると、人通りが一気に少なくなる。
しばらく歩いていると、ふと誰かに見られているような錯覚を覚えた。ぱっと後ろを振り返っても、少し後ろを走っている自転車が1台見えるだけ。他に怪しい人影など見当たらなかった。
後ろを走っていた自転車が渚を通り越すまでその場で待っていた。通り過ぎてしばらくしてから、再び歩き出す。けれど見られている感覚はいまだ続いている。
その状態のまま、帰路をたどる。時おり後ろを振り返るが、やはり怪しいものなど見当たらない。
あと家まで5分ほど。その頃になって、このまま家に帰るか、少し遠回りをしながら相手をまくか悩んだ。
少し遠回りをしようかと結論が出たころ、すっと感じていた視線がなくなった。渚はもう一度、今度は八方をぐるりと見まわす。が、やはり何も異常は見当たらない。ストーカーだとしても、家の近くで急にいなくなるものなのだろうか。
不思議に思ったが、こちらに被害があるわけでもなかったので、渚は気にすることなく家へと一直線に向かった
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