2.

 渚の能力。

 それが、この状況において望愛が知りたい事だった。

「僕の……能力?」

 きょとんとした表情の渚。あまりにも場違いなその表情に、望愛の気も思わず抜けそうになる。

「僕の能力についてって……望愛もう知ってるでしょ」

「えぇ、そうね。相手の思考を読み取る能力」

「なら、どうして聞くの?」

「その能力だけじゃ、今この現状の説明がつかないから」

 望愛はふと頭に浮かんだことを言う。

「渚じゃなく、あの男の能力とも考えたわ。でも彼の能力はきっと違う。さっき1、2分くらいだけど彼の焦点が私たちからそれた。……彼の意識がどこか別の場所へ飛んでた」

「……わぉ、よく見てんね望愛ちゃん」

 感心している男に向かって、望愛はにらみつける。

「今ここ周辺に、私たち以外に人はいない。だとすると考えられるのは渚の能力だということ。……なのだけど」

「だけど?」

「……だとすると、ありえないことになる。だって、そんな……いるわけないじゃない」

 結論としての答えは、望愛の中にある。だがそれはあくまで可能性の話であり、現実性がないため、望愛自身も確証できずにいる。

 だけど渚は、望愛の考えをあっさりと肯定した。

「いるよ、望愛の目の前に」

「ありえないわ。能力は個人の優れたところの延長戦であって。もちろん能力は人それぞれだわ。その能力1つを制御するのって、実はかなり大変なのよ。それなのに2つの能力が身体にあるとしたら、なんらかの異常を起こしてしまっても問題ないと思う。それに自然的に能力が2つもあるなんて、今まで聞いたことないわ。そんなこと……」

「その答えとして、前の望愛、僕に話してくれたじゃん」

「何を……」

 そう呟いて、望愛は渚との会話を思い返す。

 そして一つだけ、心当たりのある会話にたどり着いた。

 あの日、全体会議で望愛が1人高架下にいた時に渚が追いかけてきて、その時に話した内容。

「……政府が能力者たちについての研究をしてるっていう」

「そうそう、そんな感じの話」

「で、でもあれは、とある筋から聞いた話で、確証まではないともいったはずよ」

 だんだんと語尾が尻すぼみになっていく。確証はないと言ったが、もし目の前の人物がそうなら、それはもう噂ではなく本当の話となる。

 真実を知りたいと思っていた。自らが用いるこの能力について。その為なら、計画の実行後、最悪ハヤブサに拘束されてもいいから、その真意を知りたいとさえ思っていた。

 けれどそれはあくまで計画が遂行されてから。こんな状況になってしまっては、落ち着いて真実を知りたいという気が起きない。

「彼女、おそろしく頭良くない?」

「陽が馬鹿なだけじゃない?」

 望愛の心情なんか知らず、男2人はのんきに会話をしている。

「じゃあ渚は……私が知ってる能力の他に、もう一つ持ってるってことなのね……」

「そういうことになるのかな」

「けれどそれは……」

 言いかけて口をつぐむ。

 望愛の推測が正しければ、渚は……彼らは……。

「そうだよ。きっと望愛が思ってる通り」

 望愛の推測の答えを、渚は平然と告げる。隣の彼は興味なさそうな顔で聞いている。

「望愛の言う通り、矛盾してるよね。能力者何かいない世の中にしたいとか言ってるのに、能力者たちが怖いからって僕たちを作った」

「……お前たちみたいに、能力者中心の世の中作ろうだとか、変なこと考える輩がいなかったら、俺らだってこんなことしてねぇよ」

「……私たちみたいな存在は、あなたたちにしてみたらすべての元凶ともいえるのね」

 このお互いの憤りは、どこへぶつけるのがいいのだろうか。

 結局のところ、渚たちハヤブサは望愛たちのような革命派の誕生とともに、政府の都合で作られ、必要なくなった瞬間切られる道具なのだろう。

 やはり変えるべきは政府の在り方であって、そこが変わらない限り、革命派もハヤブサも平穏な生活なんて訪れないのかもしれない。

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