ハヤブサ③
渚の能力。
それが、この状況において望愛が疑問に思い、知りたい事だった。
「僕の……能力?」
きょとんとした表情の渚。あまりにも場違いなその表情に、望愛の気も思わず抜けそうになる。
「僕の能力についてって……望愛もう知ってるでしょ」
「えぇ、そうね。相手の思考を読み取る能力」
「なら、どうして聞くの?」
「その能力だけじゃ、今この現状の説明がつかないから」
望愛はふと頭に浮かんだことを言う。
「渚じゃなく、あの男の能力とも考えたわ。でも彼の能力はきっと違う。さっき1、2分くらいだけど彼の焦点が私たちからそれた。……彼の意識がどこか別の場所へ飛んでた」
「……わぉ、よく見てるね望愛ちゃん」
感心している男に向かって、望愛はにらみつける。
「今ここ周辺に、私たち以外に人はいない。だとすると考えられるのは渚の能力だということ……なのだけど」
「だけど?」
「……だとすると、ありえないことになる。だって、そんな……いるわけないじゃない」
結論としての答えは、望愛の中にある。だがそれはあくまで可能性の話であり、現実性がないため、望愛自身も確証できずにいる。
だけど渚は、望愛の考えをあっさりと肯定した。
「いるよ、望愛の目の前に2人も」
「ありえないわ! 能力は個人の優れたところの延長戦であって。もちろん能力は人それぞれだ。その能力を制御するのって、実はかなり大変なのよ。それなのに2つの能力が身体にあるとしたら、なんらかの異常を起こしてしまっても問題ないと思う。それに自然的に能力が2つもあるなんて、今まで聞いたことないわ。そんなこと……」
「その答えとして、前に望愛、僕に話してくれたよね」
「何を……」
そう呟いて、望愛は渚との会話を思い返す。
そして1つだけ、心当たりのある会話にたどり着いた。
以前、全体会議で望愛が1人高架下にいた時に渚が追いかけてきて、その時に話した内容。
「……政府が能力者たちについての研究をしてるっていう」
「そうそう、そんな感じの話」
「で、でもあれは、とある筋から聞いた話で、確証まではないともいったはずよ……」
だんだんと語尾が尻すぼみになっていく。確証はないと言ったが、もし目の前の人物がそうなら、それはもう噂ではなく本当の話となる。
真実を知りたいと思っていた。自らが用いるこの能力について。その為なら、計画の実行後、最悪ハヤブサに拘束されてもいいからその真意を知りたいとさえひそかに思っていた。
けれどそれはあくまで計画が遂行されてから。こんな状況になってしまっては、落ち着いて真実を知りたいという気が起きない。
「彼女、おそろしく頭良くない?」
「陽が馬鹿なだけじゃない?」
望愛の心情なんか知らず、男2人はのんきに会話をしている。
「じゃあ渚は……私が知ってる能力の他に、もう1つ持ってるってことなのね……」
「そういうことになるのかな」
「けれどそれは……」
言いかけて口をつぐむ。
望愛の推測が正しければ、渚は……彼らは……。
「そうだよ。きっと望愛が思ってる通り」
望愛の推測の答えを、渚は平然と告げる。隣の彼は興味なさそうな顔で聞いている。
「望愛の言う通り、矛盾してるよね。能力者何かいない世の中にしたいとか言ってるのに、能力者たちが怖いからって僕たちを作った」
「……お前たちみたいに、能力者中心の世の中作ろうだとか、変なこと考える輩がいなかったら、俺らだってこんなことしてねぇよ」
「……私たちみたいな存在は、あなたたちにしてみたらすべての元凶ともいえるのね」
このお互いの憤りは、どこへぶつけるのがいいのだろうか。
結局のところ、渚たちハヤブサは望愛たちのような革命派の誕生とともに、政府の都合で作られ、必要なくなった瞬間切られる道具なのだろう。
やはり変えるべきは政府の在り方であって、そこが変わらない限り、革命派もハヤブサも平穏な生活なんて訪れないのかもしれない。
遠くで鳴り始めたサイレンの音を聞きながら、望愛はそう思った。
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