閑話:仲間を迎えに


 渚たちが3日後の詳細を確認している数時間前、太陽が地平線に消えかかり始めようとしている頃。



 渚たちが暮らす街から西へ、電車で約40分のところ。

 駅前のベンチに座り、眼を閉じひとり座る制服姿の少女がいた。はたから見たら寝ているように見えなくもない彼女は、多くの人が行きかう中、聞きなれた足音が近くに向かっているのに気付き目を開ける。


「待たせたな」

「ううん。欲しいものは買えた?」

「なんとかな。これ、渡しといてくれよ」

「うん」

 赤茶髪の男性が、自身が買ってきたであろうものを少女に渡す。

「なんかいい匂いもするね」

「あぁ、俺おすすめのパン屋の。帰りながらでも食えよ」

「ありがとう」

 渡された紙袋を大事そうに抱え、少女は傍らに置いていた白いつえを手に取る。


「……やっぱ送ってくか?」

「大丈夫だって。送ってもらっちゃったら、私が見送る意味ないじゃん」

「いや、でもよ。何かあったら怒られんの俺なんだぜ?」

「みんなが過保護すぎるの。ここ近辺なら出歩くくらい、一人で大丈夫なのに」

 そう言う少女はぷくっと頬を膨らませる。それを見て男性は苦笑した。

 だんだんと帰宅する人たちで駅前がにぎやかになってくる。その合間を2人はぬうようにして、改札前へと移動した。


「……いよいよ、だね」


 ぽつり、少女がつぶやいた。周りの喧騒で消えてしまいそうなほど小さかったが、男性はその言葉を拾った。

「約2ヵ月か? ……今回は長かったよな」

「本当に大丈夫だよね?」

「自身持てって。お前の予知が外れたことはないだろ?」

「そうだけど……未来なんてひとりの動きや感情次第で簡単に覆っちゃうんだよ。当日にならないと、安心なんてできないよ」

「でも今のところ、報告と一致してんだろ?」

 大丈夫だ、と男性は少女の頭をぽんぽんとたたく。少女は反論したそうだったけれど、言っても返される言葉は同じと思ったのか、曖昧に笑ってうなずいた。


 駅のアナウンスが、これから男性が乗る電車が近づいてきたことを告げる。

「じゃ、行ってくるわ。いいか、マジでまっすぐ帰れよ? 何かあったら誰でもいいから絶対に連絡しろよ?」

「もう、心配しすぎだって。大丈夫だよ。……そっちも、気を付けてね?」

「おう。早いとこあいつを回収して帰ってくっから」

「うん、いってらっしゃい」


 少女は手を振る。男性は見えていないと分かりながらも、去り際に少女に手をあげて返事をする。

 これから迎えに行く、家族の顔を思い浮かべながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る