新たな計画


「どうやったんだ渚!」


 月曜日、教室に入るなり突然直人に迫られた。いったい何についてのことなのか分からず、ひとまず直人を落ち着かせる。


 少し落ち着いた直人は改めて問う。

「で、どうやったんだ?」

「直人、主語入れて話そう。話が全然分からない」

「望愛だよ、望愛! 一昨日、追っかけてったあと! その夜さ、俺と翔悟と三人で話し合う予定があったんだけどよ。望愛の奴、妙に機嫌が良すぎてさ」

「……いいことだよね? 機嫌直ったのなら」

「確かにいいことだけどさ。いつもならあのまま数日くらいは引きずってんだよ。なのに一昨日はいつも以上にきれいさっぱりしてたって言うか……あんな上機嫌なあいつ、めったに見れねぇよ」


 一昨日、別れ際の望愛は、話し合いの時より多少元気を取り戻しており、渚からしてみればいつも通りのようにみえた。けれど直人が言うには、機嫌がかなり良かったのだろう。

「いつも通りに戻ったなって思っただけだけど」

「いいや、物心ついたころから一緒にいる俺にはわかる。いつもはぶすーっと、ずーっとネチネチ文句言ってるくせに、あの日に限って機嫌がいいなんて――」

「いつもぶすーっと、ネチネチしててごめんなさいね」

 突如聞こえた低い望愛の声に、直人と渚は思わず悲鳴を上げるところだった。

「の、望愛……」

 その悲鳴を飲み込んで声のしたほうを向くと、見事なまでの無表情の望愛が仁王立ちで傍に立っていた。

「な、なんか用か? 朝っぱらから」

「ちょっと用事があったんだけど。いいわ。渚だけに話すから」

「ちょい待て。なんで渚だけ⁉ 渚だって話に混ざってたし!」

「私は直人の声しか聴いてないわ」

「タイミング悪っ!」

 いつもの直人と望愛のやり取りに、渚は思わず笑ってしまった。けれどすぐにぎろりと2人に見られたので、すぐに笑うのをやめた。

「……ともかく、ちょっと来てちょうだい」

 教室で話せないということは、おそらく嵐に関することなのだろう。そう思い、望愛の後について教室を出る。


 望愛は、人気のない特別棟の教室に入っていった。

「で? 何だよ」

 何事もなかったかのように一緒についてきた直人が先を促すように尋ねる。

 くるりと二人に向き直る望愛のその表情は、何か企んでいる時の顔だった。

「昨日、あれから考えたの。いったいどの方法が一番インパクトがあって、伝わりやすいか」

 望愛は真剣な表情で続ける。

「それでね、今圧倒的に私たちに足りてないのは、数と声だと思うの」

「数と……声?」

「そう。全員がそうだというつもりはないけど、少なからず不満を持っていたり、能力者たちの扱いに対して何かしら思っている人たちは私たち以外にもいるはずよ。今回、そんな人たちにも声をかけてみようと思うの」

 確かに、表立って不満をこぼしている人たちの多くは、望愛たちのように革命派の組織などに属している人たちがほとんどだ。けれどその数はさほど多くない。それ以外の人たちの多くは、今のこの日常を荒げたくないと思っている人たちだ。

 しかしその中にも、多少なりとも現在の能力者の対応について、思っているところがある人たちはいるだろう。望愛はそこをつつくといった。

「時に数が必要なときもあるわ。その数だけ、声が上がる。能力者と言っても国民よ。民の声を聞かない統治者がいるかしら?」

「でもさ、仮に今より多くの人数を引き込めたとしても、多くが騒ぎの中に入りたいと思っていない人たちなんだろ? うまく乗ってくれると思えねぇけど」

「そこは考えてるわ。表立ちたくない人たちに無理強いはしない。私たちには、まず声があればいいの」

「そこら辺は望愛や翔悟たちが考えてると思うけど……その多くの協力者ってどうやって探すの?」

「そうね……街中で粘って、一人に一人対応するとしても、1日に50人もいけるかしら……」


 思わず渚と直人は顔を見合わせる。どうやらお互い考えていることが一致しているようだ。

「まさかとは思うが……しらみつぶしに当たるのか?」

「当たり前でしょう? 大々的に募集したら、それこそハヤブサの連中にでもしょっぴかれるじゃない。まぁこっちは直人がいてくれるから、能力者の判別はそこまで苦労しないけど」

「ま、まじかよ……」

 これから始まるであろう苦労に、早くも気が遠くなりそうだ。

「あ、それと決行日が6月の最終日曜日に決まったわ。時間と場所は改めて連絡する。だから6月の中旬までには、より多くの人たちを集める必要がある。もしできるなら、その日に参加してくれる人も」

 今は5月中旬。時間はあるように見えて、きっとあっという間に過ぎていくのだろう。

「放課後、詳しく決めましょう。翔悟も含めて」

 そう言い、もう少しでSHLが始まるということで、解散になった。


 本格的に動き出している。渚はそう思った。

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