2-6

 放課後、翔悟と合流し、近くの公園で望愛の提案について話し合った。翔悟も望愛の案に賛成らしく、さすがに平日は無理があるだろうからと、休日に行うことが決定した。

 そして、平日は淡々と過ぎ去り、休日を迎える――。

「……眠い」

 現在朝8時をまわったところ。休日朝寝坊が楽しみの学生にとっては、少々きつい時間帯である。いちもの喫茶店前が待ち合わせとなっており、思いのほか早く着いてしまったからか、他の3人はまだ来ていないようだ。店の前で、ぼうっと目の前を通り過ぎる人の流れを眺める。休日の朝だというのに、行きかう人の数は多い。

「渚、お待たせ」

 見知った姿が近づいてきた。軽く手をあげ返事を返す。そして、望愛の格好を見て少し驚いた。

「僕、望愛の私服初めて見た」

 いつも土日に集まっても、制服姿が多いので、私服姿は新鮮だ。

「さすがに今日は制服では動きずらいでしょ。学校特定されても面倒だし」

「なるほど」

 店前で望愛と話していると、少ししてから直人と翔悟もやって来た。早速そろったところで、望愛は喫茶店のドアをノックする。ドアにはcloseと書かれたプレートが提げられていたが、少ししてからガチャっと鍵の開く音が聞こえた。

「失礼ですが、まだ開店前――……って、望愛ちゃんたちか」

「店長、少しだけ中借りてもいいですか? 多分10分くらい」

「まぁ……いいよ」

 そう言って、今泉は渚たちを店内へと入れた。

「何か飲む? 簡単なものになるけど」

「いりません。長居しないから」

 そう答え、入り口に一番近いテーブル席に座る。

「改めて、今日の手順の確認するわね。まず、直人に能力者かどうか判別してもらう。そして1人ずつその人たちに事情を話して仲間に引き込む。もちろん、拒否した人に対して深追いする必要はないわ。あくまで承諾してくれた人にだけ。もし何かあったら私か翔悟のところへ連れてきて」

 望愛中心に説明し、ところどころ翔悟が補足していった。

「1日中、街中ぶらつくとか……」

「何よ、直人得意でしょ。たくさん人集めなさいよ」

「得意じゃねぇし」

 いつものやり取りに、翔悟と渚はお互い顔を見合わせて微笑む。

「時間がもったいないわね。目標200」

「さすがに無理じゃね?」

「やってみないと分からないでしょう。みんな、携帯は随時確認してね。店長、ありがとう」

 そうして4人は喫茶店を出て、街中に繰り出した。




 手分けをして、待ちゆく人に声をかけてから数時間――。

 先ほど昼休憩を取り、午後の活動を始めたばかりである。

「なんか……疲れた」

 渚は思わず愚痴をこぼした。

 望愛が考えたこの作戦は、首尾上々……とは言えなかった。今現在、声をかけ承諾してくれたのは、署名だけを含めてもたったの4人。目標までかなり遠い数字である。

「渚!」

 少し離れたところにいた望愛がやって来た。

「今の人、どうだった?」

「署名だけしてくれたわ。これで5人目……。案外しんどいわね。思ったより能力者の人が出歩いていないって言うのと、やっぱりすぐに二つ返事で承諾してくれる人はいないわね」

 どうやら望愛の方もかなり苦戦しているようだ。

「ねぇ、いまさらの提案だけど、ネットを介した方が早かったりしないかな?」

「まぁ、そうね。その方が人は集まるでしょうね。でもね、ネットは顔が見えない分、その人が本気なのかどうかが分かりにくい。それにもしかしたらハヤブサの人が紛れるかもしれない。危険が増すの。そう考えたら、手間でも一人一人に会って話すべきだと思ったんだけど……」

 そういう顔はどことなく難しそうだ。

 渚も頑張って、直人が見つけた能力者の人へ接触を図ってみたものの、まだ1人も渚の話に耳を傾けてくれた人はいなかった。まだまだこれから、とは思っても、なかなかに骨の折れる作業である。

 近況報告をしあう2人の携帯がなった。直人から能力者の人の特徴が書かれたメールが届いた。

 その人がいる場所の近くのお店の特徴を探し、目星をつける。

「多分、あの人ね。私が行くわ。渚は……多分、あの赤い帽子の人かしら。お願い」

「分かった」

 望愛の指さす方向に、直人のメールの特徴にあった人がいた。だがちょうどたくさんの人が行きかう中にいるため、すぐ見失いそうになる。頑張って、しばらくは赤い帽子から目を離さず、距離を縮めようと近づいてはいたが、人の流れが壁となり、なかなか距離が縮まらない。そしてとうとう信号により離されてしまい、姿を見失ってしまった。

 信号が変わってから、渚はいったん横断歩道を渡り人ごみから外れる。休日のお昼過ぎだからか、午前中より人が一層増えてきた。これはチャンスでもあるのだろうが、直人がいなければ、能力者かどうかなど見分けることはできない。

 渚は小さくため息をついた。するとすぐ隣でも同じタイミングでため息をつくのが聞こえ、思わず横を見てしまった。

 大学生くらいだろうか。赤茶に染められた少し長い髪を遊ばせ、おしゃれな服装をうまく着こなしている。あまりに不躾に見てしまったからか、その人がこちらを向いた。

「何か?」

「あ、すいません……」

 慌てて彼から視線を逸らす。そして直人からメールが来ていないか携帯を確認した。

「ねぇ、君」

 すると今度は、隣の彼が声をかけてきた。

「はい……」

「この店知らない? 俺ここ初めてでさ、全然わかんなくて」

 そう言って見せられた紙に書いてある店名は、あいにく渚も知らないところだった。

「すみません……僕も春からここに住み始めたのでまだ……」

「あ、そうなんだ。困ったなぁ……」

と彼は言うが、その顔は全然困っているようには見えなかった。

「あ、近くに友だちがいるので聞いてきましょうか?」

「んー、いいよ。そこまで急いでないし。君たちも忙しんでしょ」

 そう言ってこちらを見る彼の視線に、渚は何故か既視感を覚えた。

「じゃーね。何とかするわ」

「あ、この先まっすぐ駅のほう行くと交番あるので。そこに行けば分かるかも」

「交番ね……あんま好きじゃないけど行ってみるよ。教えてくれてありがと、ナギサくん」

 軽く手を振り立ち去る彼に手を振り返しながら、ふと名前を教えたっけと疑問に思った。思い出そうとしていると「渚ー!」と直人の声が聞こえてきた。

「直人!」

「あ、いたいた。今、渚の隣にいた人!」

「え? あぁ、うん、道聞かれて……」

「その人能力者!」

「えっ!?」

「どこ行った、その人」

「ど、どこ? ……一応交番近くにあるから道分からないなら聞くといいかもって言ったけど……」

「まだそんなにたってないよな? 追いつけるかもしんないな」

 すぐに2人で駅近くの交番方向へ小走りに、周囲の人をよく見ながら進む。10分しないで交番前についたが、先ほどの彼を見つけれることはできなかった。一応、交番にいた人に聞いたが、今日は誰も立ち寄っていないという。

「迷いはしないよな……」

「もしかしたら、他の人に聞いて行ったのかも……」

「くそーっ。チャンスだと思ったのに」

 それから渚は直人とともに何人かに当たってみたが、成果は上げられず、気づけば空は暗くなり始め、街灯もつき始めていた。

 望愛からの電話で、喫茶店前に集合することになった。

「成果は……まぁこんなものなのかなぁ……」

 今日1日で、承諾してくれたのは12人。同じように約1か月行ったとして、休日だけで同じように集めても100人すら集まらない。

「保留って答えが多いよな。やっぱ俺らの勧誘って怪しいか?」

「仕方ないさ。いきなりこんな話振られても」

「けどよ……1か月であとどんだけ集まんだよ」

「でもやらないと数は集まらないわ。他のグループの状況も確認しながら、もう少しこっちも続けましょう。明日も同じようにやってみて、それでも集まりが悪そうなら別の手段を考えるわ」

 どうやら、同志を集めるというのは、かなり難しいようだ。

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