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 望愛の言葉の意味を理解するのに、さして時間はかからなかった。が、あまりにも唐突すぎたため、すぐに返答できなかった。

「……おい、望愛」

 直人が少し控えめに声をかける。直人が言いたいことなど分かっているのであろう。望愛はちらりと視線だけやって続ける。

「さっきの先輩とのやり取りでわかっちゃったでしょうけど、うちって基本スカウト制なの。基準を言うなら、使えそうな能力を持っているかどうか」

「それで望愛は、僕の能力が使えると判断した……?」

「そう。渚みたいな能力の人、今のところうちにはいないから」

「渚の能力って、結局のところなんなんだ? ……心理系、みたいな気がするけど」

 直人が尋ねる。

「心理系……に当てはまるのかな。僕の能力は相手の考えていることが頭の中に直接流れ込んでくるって感じ」

「へぇ……興味深いわね」

「でも、相手が自分の感情とかしっかりガードしてたら全然わからないし……。それにさっきみたいに、あまりに考えていることが強すぎると、誰彼構わず情報入ってくるからきついし」

「え、さっき俺らの考えてたことだだ漏れだったってことか!?」

「あ、でも僕の場合複数人の思考が聞こえても、全部同じ声で頭の中に入ってくるから、内容で判断できても基本的に個人は判定できないんだ。さっきもどれが誰とかわかんないところいっぱいあったし……」

 あわてる直人に、渚もちょっと焦りながら伝えた。

 そしてフェアじゃないからと、望愛と直人も自分の能力について教えてくれた。

「私はさっきも言った通り、嘘を見破る能力。相手の目を見ながら質問することで、相手の答えが色によってわかるの」

「俺は、その人が能力者かどうか区別する能力。俺は知りたいって強く思えば、望愛みたいに色でそれがわかる。その色で、使える能力の系統が大体わかる」

「私と直人は色で見えるけど、渚の場合は言葉……音声なのかしら。能力者についての研究や疑問は近年急速に解明しようと動いてはいるけれど……。たとえ同じ系統でも、やはり感じ方は人によるのね……」

 ブツブツと解析し始めた望愛に、直人は肩をすくめる。

「ほっとけばいずれ戻ってくる。こいつの悪い癖だ。自分の興味あることになるとすぐこうなる」


 その言葉通り、しばらくして望愛ははっとしたように戻ってきた。

「ごめんなさい。自分の世界に入ってたわ。……さてと、話を戻すけど。でも、そろそろ時間も時間だから、お開きにしたほうがいいかしら?」

 そういわれて時計を見ると、もう18時を回っていた。窓の外は、もう完全に日が沈み、薄暗くなっていた。

「そうだな……今日のところは帰ろうぜ。なんか疲れた」

「そうね。私も明日小テストがあるから、帰って勉強したいわ。渚、詳しい話は後日……そうね、明後日土曜日とか空いてる?」

「土曜……うん、空いてる」

「じゃあ、その時に。それまで今日の話は他言無用よ? 時間はあとで連絡するわ」

「わかった」

 荷物を取りに教室へと戻っていった望愛を待つべく、2人は下駄箱へと向かう。

「なんか本当……いろいろ巻き込んですまん」

 望愛を待ちながら、直人が申し訳なさそうに言う。

「直人が謝ることないよ。タイミングが悪かっただけだと思うから……」

 いろいろとあり、渚も正直疲れていた。

 それから10分程度で望愛が荷物を抱え戻ってきた。

「そういえば渚。私あなたの連絡先知らないことにさっき気づいたの。教えてくれる?」

「うんいいよ。……あ、ごめん。今日携帯忘れてきたんだ」

「じゃあ後で俺のほうから望愛のアドレス送るか? それで望愛に教えてやってくれよ」

「そうね、お願い、渚」

 今日の出来事を忘れたかのように、3人は他愛ない話をしながら校舎を後にした。


*  *  *  *  *  *


 そんな3人組を見送る影。物陰に隠れるように、彼らを見ていた男は、携帯で電話をかけ始める。

「……あ、俺俺。……おい、切るんじゃねぇよ。誰がオレオレ詐欺だ。てか何度このやり取りすりゃいいんだよ。…………はいはい、定期報告。首尾は順調、かな? ……そこまではまだしらねぇ。あいつが忘れなきゃ、明日明後日にはもう少し詳しい情報入ると思うけど。……そうか。わかった。……おう、了ー解。そっちはそっちで頼むわ。…………おう、お疲れ」

 そうい言って、もう見えなくなった3人組の去った方向をじっと見つめる。

「さて、カウントダウンの始まりか」

 ニヤリと笑った男は、そのまま逆方向へと歩いて行った。


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