第10話 真相

 土曜日を迎えた由姫は、以前から約束をしていたショッピングに美緒、真澄とともに行く支度をしていた。

 約束は十時にショッピングモールのある最寄り駅前とのことだったので、遅れないように早めに行くことに決めていた。


 服装は白に花柄をあしらったワンピースと上にニットカーディガンを着ることにした。

 そんなルンルン気分の由姫を足元では、尻尾を振りながらサクラが見上げていた。


「由姫ー。時間は大丈夫なの?」

 一階からは母の声が聞こえてくる。

 由姫は腕時計で時間を確認する。

「もうそろそろ出かける。」

 由姫はそう言うと、足元にいたサクラを抱えるとリビングに向かった。


 リビングには父がソファーに座って新聞を読んでいた。

「由姫、もう出るのか? お父さん送っていくぞ?」

 父が由姫に聞いてくる。


「大丈夫だよ。一人で行けるから。」

 そう言った由姫だったが、父は由姫を見て心配になってくる。

「だが、変な男に声を掛けられたりしたら。」


 由姫が制服ではなく私服姿で、しかも薄着で無防備な様子に心配になってくる父。

「もう、お父さん心配し過ぎ。友達もいるし大丈夫だから。そもそも男になんか興味無いんだし。」

 由姫はとりつく島もないように答えた。


 キッチンからは母がやって来た。

「あら、よく似合うじゃないの。ようやく女の子の自覚が出てきたのかしら? この間一貴君が家に来て二人っきりになって意識しはじめたの?」

 母の言葉に父が反応する。

「どういうことだ母さん。男なんかを家に上げたのか? しかも二人っきりだと!」


 父が母にまんまとからかわれている様子に、由姫はため息をついて言った。

「だから一貴くんは幼なじみでそんなんじゃないでしょ。お父さんも一貴くんは子供の頃からよく家に遊びに来てたじゃない。今さらなんでそんな反応するのよ。」


「いや、だがあれは勇樹と遊びに来ていて、由姫も一緒に遊んでいただけじゃないか?」

 父が抵抗をする。

「一貴くんは私たち兄妹の幼なじみなんだからね。」

 由姫の宣言に言葉が出てこない父だった。


 そんなことをしている内に、約束の時間が近づいてくる。

「あーもう、そんなこと言ってたら時間が無くなっちゃうじゃない。」

 由姫はそう言うと玄関へと向かう。


「それじゃあ行ってきます。サクラ~、後で友達連れて来るから、いい子でお留守番していてね。」

 由姫がサクラに頬擦りをすると、玄関に来ていた母にサクラを託す。

「はい、行ってらっしゃい。お父さんじゃないけど男にはくれぐれも気を付けるのよ。貴方は女の子なんですからね。」

 由姫は「分かってる。」と言うと玄関から出ていった。


 駅についた由姫は、学校とは反対の電車に乗ると目的の駅に向かう。

 時計を見ると九時十分となっていて、少し早すぎかなとも思ったが遅れるよりいいかと思い直す。

 しばらく電車に揺られながら窓の外を眺める由姫。


 友達と出掛けるなど、中学卒業前以来だなと思い出した。

(そう言えば広海たちはどうしてるかな? 相変わらず遥斗の事をからかっているのかな。)

 昔の事を懐かしく思い出して、つい笑みがこぼれる。


 その様子を他の乗客たちが、こっそりと注目していたことなど気づかない由姫であった。

 やがて、電車は目的の駅へと到着する。

 電車を降りるとショッピングモールのある南口へと向かう。


 まだ時間まではしばらくあり、案の定二人は来ていなかった。

 柱のところで時計を見ながら待っていた由姫。

 すると、そんな由姫のところへチャラそうな茶髪の男が近づいてきた。


「かーのじょ、どうしたのかなこんなところで一人なんて? もしかしてデートの待ち合わせ? 止めときなよ、君みたいな可愛い子を待たせる男なんてさ。それよりも俺と遊びにいかない? 今日は俺が奢るからさ。」

 茶髪の男はそう言うと、由姫の腕を掴んで強引に誘ってくる。


「行きません。今日は友達と待ち合わせをしているんです。」

 由姫は抵抗するように、相手の手を振りほどこうとする。


「友達って女の子? それなら俺も混ぜてよ?」

 なおも食らい付く男に、頭に来た由姫は怒鳴り返そうとする。


「いい加減にしないか!」

「そうだ、彼女がいやがってるだろ。」

 そこに、高校生くらいの男の子二人が割り込んでくる。

「なんだてめえらは? お前らが待ち合わせの相手か?」


 一触即発の雰囲気に、他の周りの人たちも固唾を飲んで見ている。

「違うが彼女が嫌がっているんだから諦めろよ。」

 その言葉を聞き茶髪が怒り出す。

「関係ねえやつは引っ込んでいろ。」

 茶髪は高校生の一人を突き飛ばすと、再び由姫に近付く。


 由姫が身構えると、急に茶髪の男は宙を舞うと背中から地面へと落とされる。

「由姫さまに狼藉を働こうなどと無礼者が。」

 真澄はそう言うと、掌底を男の顔面へと打ち付けようとする。


「真澄ちゃん、待って!」

 慌てて止める由姫の声に、真澄は男の顔面すれすれでその手を止めた。

「さっさと消えなさい。次は容赦しませんよ。」

 真澄のその言葉に「ひいい。」と言いながら茶髪は何処かへと消えていった。


「由姫さま、怪我はありませんか? すみません、私がもう少し早く来ればこんなことには。」

「ううん、ありがとう真澄ちゃん。でも危ないからあまり無茶はしないで。」

 由姫は真澄にそう告げると、先ほど庇ってくれた男の子たちのところへと向かう。


「庇ってくれてありがとうございます。怪我とかはされませんでしたか?」

「い、いえ、大丈夫です。」

「当たり前の事をしただけですから。」

 そう言うと、男の子たちは頭をかきながら照れ臭そうに告げた。


「良かったです。本当にありがとうございました。」

 そう由姫が笑顔で言うと、男たちの顔がみるみると真っ赤になってしまう。


 そこへ美緒が到着すると、現場を見て「おお、また二人犠牲者が出たか。」と呟いていた。

 三人が揃ったので由姫たちは男の子たちに別れを告げると、ショッピングモールへと向かっていった。


「おい、何で誘わなかったんだ。」

「いや、しょうがないだろ。ハードル高すぎだよ。」

「まあな。でも可愛かったな。」

「ああ。」

 男たちはしばらくその場を立ち尽くしていた。


 そんなこんなで由姫たちはショッピングモールへとたどり着く。

「最初はどうする? 私おすすめの映画があるんだけど。」

「へー、じゃあ映画を見てから昼食にして、そのあとショッピングにしようか?」

「そうですね。」

 美緒の提案に、由姫が予定を話すと真澄が同意する。


 そうして、先ずは映画館へと向かった三人。

「それで、どんな映画なの?」

「うんとね、海難救助の話なんだけどシリーズもので私好きなんだ。」

「ああ、知ってる。もうやってたんだ。」

 美緒のおすすめの映画は、邦画の人気映画であった。由姫も結構気に入っているシリーズの最新作であった。


「ポップコーン一つとジュース三つで良いかな?」

 由姫が尋ねると二人も了承したので、割り勘で購入すると劇場内に向かう。

 由姫が真ん中に座り左右を真澄と美緒で固める。真澄から提案されてその席順に決まった。


 やがてブザーが鳴り、劇場内はライトが落とされていく。

(映画なんて久しぶりだな。今日は最初からなんかけちがついたけど、楽しまなくっちゃね。)


 中学の頃は田舎ということもあり、ナンパなんて経験はほとんどなかった由姫。

 警戒もしていたし、買い物や遊びは友達といつも一緒であった。

 本当は広海や遥斗が常に周囲を警戒してくれていたなどと、由姫は気付いていなかった。

 哀れな遥斗であった。


 映画はシリーズの中でも傑作と言ってよい出来で、感動のあまり由姫は涙を流しながら観ていた。

 エンドロールが流れ劇場が明るくなると、映画を観ていた人たちの多くも目を赤くしていた。


 美緒も少し目を赤くして、恥ずかしそうに良かったねと言っていた。

 真澄は、あまり変わった様子は見られなかった。

 三人は劇場を出ると昼食の店を選ぶために、レストランの集まるエリアへと向かった。


「どの店にしよっか?」

「私は由姫さまがよろしければ何処でも。」

 由姫の問に相変わらずの答えの真澄。

「そうねえ、あっ、あそこなんてどう?」

 美緒が指差す先にはパスタがメインの店で、デザートにケーキなどもあるところだった。


 特に拒否する理由もなかったので、由姫が賛成すると真澄も同意した。

「いらっしゃいませー。三名さまですか?」

 店員に案内されて席へ着く三人。

 それぞれ好きなものを頼むと、デザートのケーキを分け合おうと話して、ショートケーキ、チーズケーキ、ショコラケーキを注文する。


「この後どこを見る?」

 由姫が尋ねると美緒が答えた。

「う~ん。ちょっと服を見て回りたいかな。由姫と真澄は?」

「私もそれでいいけど、後でゲーム屋も見てみたいな。」

「私もそれで構いません。」

 こうして午後の予定が決まり、注文した料理を食べる三人。


「わ、このチーズケーキすごく美味しい!」

「本当、どれどれ」

 由姫の言葉に美緒が反応する。

「真澄ちゃんも食べてみて。」

「いただきます。」

 由姫が促すと真澄もチーズケーキを口にいれる。


「真澄ちゃんのも一口ちょうだい?」

「どうぞ由姫さま。」

 真澄の差し出したショートケーキを食べる由姫。

「う~ん。オーソドックスな味だけど、やっぱりケーキはショートケーキだよね。」

 由姫が幸せそうな顔をしてそう言う。


 そんな光景を見ていた周囲の客たち。

「おい、あの子すごく可愛くないか?」

「おお、周りの子もレベル高いな。」


「ちょっと、私が居ながら何他の女の子に見とれてるのよ!」

 ばし!

「ち、違うんだ、京子。」


(けっ!リア充が、ざま~。)


 男たちは由姫の笑顔にみとれ、それを見た恋人が怒るという光景が繰り広げられる。

 そして、その光景を暗い気持ちで見ていた非リア充たち。

 由姫たちのテーブル以外がカオスに包まれていた。


(ハハハ・・・。)

 美緒だけは周囲のそんな光景に気付きながらも、見て見ぬふりをする。

 そんなカオス空間の店を出た三人は、服を見るためにショッピングエリアに向かった。


 いろいろウィンドウショッピングをしていた三人。由姫は女の子になってから、それまであまり興味がなかった買い物も、あまり苦にならなくなっていた。

 気に入った何着かを購入すると次はゲーム売り場へ来た。

「うう、お小遣いが・・・。」

 由姫は、予定外に購入してしまった服を見ながらそう呟く。

「まあまあ、こんな時くらい良いじゃない? それよりゲームは見ないの?」

 美緒が慰める。


 美緒の言葉で気を取り直してゲームを見はじめた由姫。

「あっ、新作が出るんだ。」

 由姫はゲームの紹介するムービーが流れているところで、そう声を出した。


 由姫が見たゲームは国民的なRPGで、前作はオンラインという事で手が出なかったが、次回作はまたオフラインに戻るらしい。

 由姫が財布を確認するとため息をつく。

「うう、このままじゃ厳しいよ。やっぱりバイトくらいしないとダメかな?」

 由姫は、前から考えていたバイトについて真剣に考える。


「何、由姫。バイトでもするの?」

「由姫さま、もしよければ私がお貸ししましょうか?」

 美緒と真澄が聞いてくる。

「うん。色々と物入りだしね。それと真澄ちゃん。友達同士でもお金の貸し借りはダメだよ。」

 由姫はそう答える。お金については友達とはいえきちんとしておきたいと、由姫の譲れない気持ちを真澄に伝えると、「分かりました。」と言って引き下がる。


 結局見て回るだけでゲーム屋を後にした由姫たちは、サクラに会いたいという美緒の意見で由姫の自宅へ向かうことになった。

「二人はゲームとかやらないの?」

「私はたまに弟のゲーム借りてやってるよ。」

「私はゲーム機を持ってませんので。」

 美緒と真澄が答える。


「美緒って弟が居るんだ?」

「あれ、言ってなかったっけ? 二つ下の中学二年で最近生意気になってきてね。」

 そう言って笑う美緒。

(姉弟か。)

 由姫は昔を思い出していた。


 そして、三人は由姫の家に着く。

「すごく立派な家だね。由姫の家って結構お金持ち?」

「そんな事ないよ、普通の家。それより上がって。ただいま~。」

 そう言うと玄関を開ける。


「お帰りなさい。早かったのね。あら、お友達?」

「ただいま。うん、同じクラスの友達の美緒と真澄ちゃん。」

「はじめまして。中島美緒です。」

「はじめまして。私は犬塚真澄と言います。お邪魔いたします。」


「いらっしゃい、由姫の母です。ゆっくりしていってね。」

 そう言うとリビングへ案内する。

「お帰り由姫。お友達かい?」

「ただいま、お父さん。友達の美緒と真澄ちゃん。二人ともこの人が私のお父さん。」

『お邪魔してます。』

 二人は父に挨拶をする。


 由姫は父と一緒にいたサクラを抱く。

「二人ともこの子がサクラ。サクラ、この二人は私のお友達なの。仲良くしてね。」

 サクラはしっぽを振りながら鳴いていた。


「わー、この子がサクラちゃん? すごい、ちっちゃくて可愛い。」

「本当に可愛らしいですね。」

 二人とも微笑みながらサクラの頭や体を撫ではじめる。


「由姫、ちょっとお母さんお父さんと一緒に買い物に行くから留守番頼んでも良い?」

「うん。」

 母の言葉に答える由姫。


「紅茶とお茶菓子はキッチンにあるからね。」

「分かった。」

 そう言うと母は父と車で出掛けていった。


「二人とも、二階に私の部屋があるから行こう。」

 そう言うとサクラを抱えたまま、二階の部屋へと案内をする。

 由姫の部屋に入ると、二人をクッションのある場所に座ってもらう。


「へー、ここが由姫の部屋か。イメージ通り可愛い部屋だね。ちょっと変わったぬいぐるみがあるけど。」

 美緒は、昔一貴にプレゼントされたぬいぐるみを指してそう言った。

「あははは、まあね。」

 由姫が苦笑してそう答える。


「今紅茶とお茶菓子持ってくるから、サクラの事を見ていて。」

 由姫が部屋を出ていく。


「ねえねえ、真澄っち? 隣の部屋のドアに勇樹って名前のプレートが掛けられていたの気付いた? 由姫の兄妹かな? 由姫に聞いて挨拶しといたほうがいいかな?」

 そう美緒が言うと真澄が叫ぶ。

「ダメです! 由姫さまにその事を言ってはいけません。」


 真澄が急にあげた声に美緒が驚く。

「な、何よ。そんなに必死に言うことじゃないでしょ?」

「とにかく、由姫さまには余計なことを言わないで下さい。」

 あまりの雰囲気に美緒は訝しがる。


「何よ、さっきからあなたおかしいわよ? なにか知っているの? そう言えばあなた、由姫に初めてあったときからおかしかったわよね。一体由姫とどういう関係なの。」

「それは・・・・・・。」

 真澄が黙り込んでしまう。


「分かったわ。あなたがなにも言わないのなら、私も由姫に聞くから。」

 そう美緒が言うと、真澄がやがて話はじめる。


「隣の部屋の持ち主は、由姫さまのご兄妹の方です。そして、その方はもうこの世には居ません。」

 あまりの事実に美緒も沈黙してしまう。

 そこへ部屋の扉が開かれると、そこには由姫がいた。

「由姫さま!」

「ごめんなさい、立ち聞きするつもりはなかったんだけど、入ろうとしたら声が聞こえてきたから。真澄ちゃん、あなた兄のことを知っていたの? でも、私たちは初対面のはずだったわよね? どうして知っていたの? お願い全部話して。」


 由姫の真剣な表情に、真澄は頭を下げるとやがて話はじめた。


「私が由姫さまに初めて会ったのは、一年半前のあの通り魔事件の時です。」

 真澄の話に由姫は驚愕し、美緒も過去にそんな事件で騒がれていた事実を思い出していた。


「あの日、私は友達の家で一緒にテスト勉強をするためにあの道を通っていました。その頃の私は、家の道場の稽古では門下生に対しては男女問わずに一人を除いては負けなしでした。そんなこともあり、自分は強いとの思いから他の門下生に対しては少し見下すような子供でした。」

 真澄がポツリポツリと説明をはじめる。


「そしてあの事件が起きました。目の前で次々とナイフで刺されていく人たちを見て、私は動くことができなかった。普段あんなに人を見下していたくせに、あの場では恐怖で身がすくんでしまった。そんな時、由姫さまと勇樹さまが私たちの方に逃げて来られました。そして、私の目の前で勇樹さまが由姫さまを庇われると、通り魔と刺し違えました。由姫さまのお兄様が亡くなられたことは、その後のニュースで知りました。」

 由姫はただじっと真澄の告白を聞いていた。


「私は自分がなにもできなかったことが情けなくて、そして後悔の念に襲われました。その日から私は祖父に言って、今までの驕りを払うように稽古に明け暮れました。そして、今まで一度も勝てなかった門下生にも勝つことができるまでになりました。でも、そんなことをしても心が晴れることはありませんでした。自分の犯した過ちが覆ることなどなかったからです。」

 真澄の目からは涙がこぼれはじめた。


「そんな虚しさに支配されていた自分の前に、あの時の少女が現れました。一目見て気付きました。あの時の光景は、私の中では決して消えることがなかったから。そして、神に感謝しました。あの時の償いが出来ると、今度こそこの人を守ってみせると。」

 真澄は心の丈をすべて話終えた。そして、深々と頭を下げる。


「申し訳ありませんでした。今まで黙っていたこと、あの時なにもできなかったこと。どんなお叱りも受ける所存です。でもどうか私に償いの機会を下さい。お願いします。」

 真澄の懇願を受けた由姫は真澄の元に近付く。


 すぐ近くに由姫が来たことがわかり、真澄の体は一瞬震えた。

 そして、次の瞬間に真澄の体を由姫は優しく包み込んだ。


「真澄ちゃん。今まで辛かったね。ごめんね、気が付いて上げられなくて。あの時のことは真澄ちゃんのせいなんかじゃない。真澄ちゃんはまだ中学生の、しかも女の子だったんだよ。あんな事になれば動けなくて当たり前だよ。私も恐怖で何もできなかった。兄もきっと怖かったと思う。でも、私を護るためにその恐怖をはねのけて庇ってくれた。見知らぬ人のためだったら、きっとそんなことは出来なかったと思う。」

 由姫は当時のことを思い出してそう告げた。


「真澄ちゃん。もう自分を許してあげて。兄が死んだのは決してあなたのせいじゃないから。」

 由姫の言葉に真澄はついに感情が押さえられなくなった。


「ゆ、由姫さま。ごめんなさい・・・、うわあぁぁぁぁぁぁぁ・・・。」

 真澄は由姫にしがみつくと、子供のように泣きじゃくった。すべての感情を吐き出すように。

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