第3話 中学卒業
退院した日から時は流れ、勇樹は由姫として父方の祖父母の家に引っ越しをして中学の残りの時間をそちらで過ごすことになった。
当初は、女性としての生活に戸惑いながらも、母や祖母の協力もあり大分女性らしく自然と由姫として振る舞えるようになった。
そして時は流れついに中学生活最終日の卒業式を迎えることとなった。
「由姫~、本当に帰っちゃうの?寂しいよ~。」
そう言って由姫に抱き着いてきたのは
「私も寂しいよ。でも、これでもう会えないわけじゃないし、たまには遊びに来るよ。」
「本当?絶対だからね!」
広海はそう言うと由姫と指きりをした。
「それに、どっかの誰かさんはきっと私よりも会いたいと思っているわよ?」
広海はある男の子の方を向くと、意味ありげな笑を受けべながらそう言った。
「はぁ、なに意味の分けのわかんねーこと言ってんだよ。」
短い髪のいかにもスポーツが好きそうな少年は、頬を染めながらそっぽを向くとそう言っていた。
「あれれー、別に遥斗のことを言ったつもりはないんだけどなー。」
広海に楽しそうにからかわれている少年は
(可哀想に。そんなに純情だからからかわれるんだよ。君も早く普通の女の子と恋愛ができるといいんだけど。)
由姫はまるで人事のようにその様子を見ていた。
あれから女の子として一年以上過ごしてきたが、未だに自分のことは男としか思えなかったため、男と恋愛とか鳥肌ものの由姫であった。まあ、幸い好きな女の子もできなかったのだが。
(まあ、人のこと心配している場合じゃないけど。このまま本当の由姫が戻らなかったら自分はどうなるんだろう?)
「なんだ?ま~た遥斗はからかわれてるのか。お前は本当にわかり易いやつだよな。まあ、由姫ちゃんみたいな可愛い子に惚れちゃうのはしょうがないと思うけどな」
話に割り込んできたのは
「勝、てめー。」
遥斗は勝に掴みかかろうとする。
「ちょっと、喧嘩するならよそでやってよね。ほんと、男の子はガサツでやだよね。」
広海は自分で撒いたことなのに、まるで関係ないふうに振舞っていた。
「いや、さすがにそれはひどいんじゃない?」
由姫が思わず少年たちを庇った。
「あっ、お母さんが呼んでるからもう行くね。」
由姫が校門の方を見ると母がこちらの方を見ていたことに気づき、みんなにそう告げた。
「汐崎、お前は結構隙が多いんだから向こうに行ったら気をつけろよ。」
遥斗が由姫にそう言ってきた。
「素直じゃないわね~。そこは他の男と仲良くするなよとか付き合ったりするなとか言いなさいよ。」
「うるせー。そんなんじゃねーよ。」
広海と遥斗の喧嘩がまた始まろうとしたところで、由姫が割り込んだ。
「私もう行くね、みんな元気でね。また一緒に遊ぼうね。」
由姫はみんなに別れの挨拶をして、母のもとへと向かった。
その場に残った三人は由姫がいなくなるのを見送っていた。
「本当に馬鹿なんだから。卒業までに告白しておけば安心できたものを。由姫は可愛いんだから高校生になったら告白の嵐で、彼氏なんて選り取りみどりになっちゃうわよ。後で後悔しても遅いんだからね。」
由姫が居なくなったあと、広海は真面目な表情で遥斗に告げていた。
「うるせー、わかってんだよ!」
そう言いながらも由姫が居なくなった方をいつまでも見つめていた。
「まあまあ、あんまり遥斗をいじめないでやってよ。これでもいろいろと悩んだりしていたんだから。」
勝がそう言って間に入っていた。
母と共に祖父の家に帰ってきた由姫は自宅に帰るための引越しの準備をしていた。
「由姫ちゃんはもう帰っちゃうんだね。さみしくなるねぇ。」
祖母がきて由姫にそう声をかけてきた。
「おばあちゃん、また遊びに来るから体には気を付けてね。」
そう言って由姫は祖母に抱きついた。
「由姫ちゃんも身体に気を付けて、変な男に騙されるんじゃないよ。」
「おばあちゃん、わたし男となんか付き合う気はないよ。」
由姫が祖母にそう言っていると、そこに割り込むように声がかかる。
「そうじゃ、由姫に男はまだ早い。」
声の主は祖父であった。
「おじいちゃん・・・。」
「ほれ、おじいちゃんともお別れの抱擁をしよう。」
祖父の言葉にやれやれと思いながらも、今までお世話になったことだしとお別れをすることにした。
「うおおお、由姫ー、やっぱり行かないでおくれぇ。」
祖父はそう言うと力いっぱい抱きついてきた。
「ほれ、おじいさん馬鹿なことをしていないで由姫ちゃんを離しなさい。」
祖母が祖父の頭を叩くと由姫の体は離された。
「おじいちゃんもまた会いに来るから元気でいてね。」
由姫がそう告げると、涙を流しながら祖父は祖母に連れて行かれていった。
その日の夜は卒業祝とお別れ会で、豪華な夕食が振舞われ家族五人で晩餐会が行われた。
その場でも祖父は泣き、祖母と父は呆れ顔をして、母も若干引きつった笑顔をしていた。
そうして次の日、由姫は住み慣れた我が家へと無事に帰ってくることが出来た。
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