第十二話
木曜日、先生は時間通りに館を出て、散歩に繰り出した。
私はその姿を二階の廊下から確認し、一度三階の自室に戻る。
朝から机の上に並べておいた新品のノートと、削りたての鉛筆、そして先生を開けるための鍵となる辞書を手に持つ。
心臓が一つ、とくん、と鳴る。
私が、今までの人生で入ることがなかった世界にこれから立ち向かおうとしている。
そこには何があるかはわからない、何が隠されているかは、わからない。
ただ、先生が生きるために必要なものも、私が生きるために必要なものも、そこに詰まっているような予感がある。
この静かで、穏やかで、柔らかな村の館から、まったく違う世界に飛び込む。
自室を出て、階段を一段一段降りていく。
雑巾でよく磨かれた階段の手すりは上品に光る。
よく掃除機をかけられたカーペットも、長く伸びる廊下に端正に横たわっている。
天井に吊るされた派手な電飾も、薄暗いながらも煌びやかにその姿を誇示している。
書斎に続く廊下に立ち並ぶものがすべて私を祝福している。
私の表情は自然と綻ぶ。
長くもあり、短くもあった道のりを経て、書斎へと到着する。
いつもとは違う、その扉。
一つ大きく息を吸い、小さく、長く、静かに息を吐く。
目を一瞬だけ閉じ、もう一度見開く。
いつも通り扉を二回叩き、来ることはない反応を待つ手順をこなす。
扉をゆっくりと開け、書斎に入る。
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