第3話 「もう一つの世界」
気が付くと石畳でできた橋の上で仰向けになり寝ていた。
あたりを見渡しても電車の座席もなく、駅の看板もない。
あるのは中世ヨーロッパのような町並みと人の往来だけだ。行きかう人はみなこのヨーロッパの風景に溶け込むかのように掘り深く鼻も高い、いかにもといった典型的なアングロサクソン系の顔立ちをしている。
俺はこの状況を少しでも把握しておこうと思い、通りすがりの腕にバスケットを提げた女性に話しかけた。
「すみません。ここはどこですか?」
「フレードよ」
「フレード?」
女性が発した町の名前はまったくもって聞きなじみのない名前だった。
「そう言えば、あなたここら辺では見かけない顔だね」
「ありがとうございます」
「あっ、ちょっと」
俺は女性へ慌ててお礼を述べて忘れ走り出していた。
その途中に宿屋がありそのピカピカに磨き上げられた窓ガラスには自分の顔が映っている。よく知っている自分の顔だ。これほどまでに自分の顔を見て安堵したことはない。
「あっ、いたぞ」
声がするほうに目をやると軍服のようなものを身にまとったがたいの良い男が二人俺を囲んでいた。
「お前か通報のあった異邦人は」
「何なんですか一体!?」
「我々は監査局の者だ。お前はこの国のデータバンクに該当がない異邦人だ。今から一緒に来てもらおうか?」
俺は直感でこいつらに連れていかれたらよくない気がした。今までの経験が通じない時点で信じられるのは自分の直感だけだ。俺は答えるよりも早く逃げ出していた。
「あっ、こら待て!」
噴水のある大きな広場も抜け、路地裏のやばそうな闇市場もつっきって疾走した。
すると、この国の出入り口を示す大きな門があった。振り返るとそこにあったのは監察官ではなく二匹のドーベルマンだった。首輪には先ほど監察官の胸ポケットについていたワッペンと同じ紋章があったので関係する犬であることは容易に想像できた。俺の足に追いつけないと思って放ったのであろう。
考える間もなく、門の外へと出ていた。なぜかドーベルマンは俺を追ってはこず門の前で止まっていた。俺はこのチキンレースに勝利した。
門をくぐると蛇のように曲がる坂が続いており終着点には大きな森が待ち構えていた。
いつあいつらが追ってくるかわからないので覚悟を決めて森の中に入ることを決意した。今まで生活してきた中でも聞いたことのないような獣の声が森全体に響き渡っていた。
あたりをキョロキョロとしているとガサガサと叢が騒めくのが聞こえる。俺は恐る恐るその正体を確認しようと近づいた。
「グゥオオオオオ」
けたたましいうなり声とともに現れたのは体のあちこちに傷を負っている体長三メートルはありそうな大きなグリズリーだった。
俺の人生もここで終わり。
そう、腹をくくってその場でしゃがみ込み目を閉じた。
メタフィジクス・プロジェクト 羅威朔 @raisaku92
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