第1話 「失踪事件」

 フィンランドの小さな村の住民が一晩にして消えた。


 そんなショッキングなニュースからこの物語は始まる。


 村の名前はフィスカルス。


 ヘルシンキから西へ八五キロ進んだところにある森と湖のある自然豊かな村だ。

現在も詳しい原因など調査をフィンランド政府は進めているとのことだがわからない。

一度このような大きな事件が起きると、大小に関わらず世界中で起きている様々な失踪事件もこれに無理やり関連付けようとする。


 ここ日本でも同じように失踪事件が起きていた。


 もちろんフィンランドの事件と関連があるかは定かではないが・・・・・・・。

今までであればたくさんあるニュースのうちの一つとして処理していたが、そうはいかなくなっていた。


 何せ失踪したのは自分の幼馴染だったのだから。


 失踪した少女の名前は石川諒子いしかわりょうこ

俺と同じ私立東高校に通う二年生だ。バレーボール部に所属しており、一年次から才能を買われレギュラー入りを果たしていた。学業に関しては上から数えたほうが早いくらいの成績を常にキープしていた。


 俺と石川は家も数メートルしか離れていない近所で小学校からずっと一緒だ。

俺こと三浦直樹みうらなおきは今も国内で路面電車が走っている珍しい街、大戯たいき市の私立高校大戯東高校に通う高校一年生だ。


 通学の手段ももっぱらこの路面電車を利用している。彼女が事件に巻き込まれたのも帰り道の途中だった。


 部活からの帰りで途中の駅までは部活仲間が同乗していたので、彼女の存在は認識しているが、その後は彼女一人となりそこからの状況を立証するものは誰一人としていない。

最初こそ学校内ではこの話で持ちきりになり、心配する声も聞かれたがしばらくすると彼女のことは話題にも上らなくなった。


 俺はかなりの長い月日を彼女とともに過ごしており、忘れることは出来なかった。女性に対してあまり興味が持てなかった自分に「直樹は顔は悪くないんだから勿体無いよ」と言われていた事を思い出す。


 彼女は正義感が強く、曲がったことが嫌いな性格だ。友達付き合いもせず将来漫画家になりたくて漫画ばかりを描いていた僕にそれではダメと趣味が合いそうな男子生徒を紹介してくれてそこから親友とも呼べる友達も作ることができた。


 少なからず俺は彼女に対して好意を抱いていた事だけははっきりと分かった。


 彼女の家の前を通る時は立ち止まって部屋のある二階の窓を見上げて思いを馳せたりもしていた。

 俺はなぜか彼女が急に戻ってくるんじゃないかという事を心のどこかで思っていた。

ただ思うのは俺が彼女の事を忘れてしまったら、一生会えなくなるようなそんな気がした。


 ある日、昔の品を整理していたら中学生の時の卒業アルバムが出てきた。そこには卒業旅行で行った広島の時の写真もあり、厳島神社の大鳥居を前に笑顔でピースしている石川の写真を見つけどうしてか目頭が熱くなった。


 これが俺の中にあるを押した。


 俺は彼女を探し出すことを心の中で誓ったのだ。

警察が動いていて見つからないものをいち学生である俺ごときが見つけられるのかは不明だ。

ただ、このまま何もしないことはどうにも自分の中で納得がいかなかった。


 思い立ったら行動するのが自分の信条だ。

さっそく石川と仲のよかった女子生徒に接触することに成功した。彼女を探したいと言ったら二つ返事で快く協力してくれた。

協力してくれたのはクラスこそ違うが石川をバレー部に誘った張本人で一番仲が良かったという木村靖子きむらやすこという女子だった。

 当時の状況などを昼休憩の時間を使って聞けることになった。


教室から理科室がある棟へ向かう途中の渡り廊下を早足で渡っていると、ちょうど真ん中あたりまで差し掛かったときにある人物に声をかけられた。


「これ以上、彼女に関わらないほうがいい」


 すれ違いざまにささやきかけてきた。驚きのあまり振り返ると、そこには息を呑むほど美しく整った顔に心の奥底まで見透かされそうな双眸そうぼうが僕を見つめ、綺麗にブリーチされた真っ直ぐな亜麻色の髪が風にそよいでいた。

 服装は規則に逸脱し、ネクタイは外されシャツもスカートに収まっていなかった。何よりネクタイの代わりに首にかけている白銀色のロケットペンダントが印象的だった。


 俺は彼女を知っている


 彼女は満月悠みつきはるか。苗字のインパクトが強すぎて覚えていた。

 確か学年は二年で先輩にあたるはずだ。


「満月さん?」

「驚いた。私のこと分かるの?」

 まるで彼女は俺が幽霊でも見たかのように聞いてきた。無論、彼女ははっきりくっきりとこの目で認識できている。

「さっきのどういう意味?」

「あら、あなたの為に言ってあげてるのよ。石川諒子に関わるなと」

「だから何でさ」

「さぁね」

 そういって彼女は“プイ”と反対方向に振り返り立ち去ってしまった。移動教室まで時間がなく、俺はしぶしぶ彼女を追いかけることをあきらめた。

 満月とは特に直接関わったことはないが、噂ではいつも一人で友達を作るようなタイプではないと聞いていたが、その彼女から全くもって真逆の存在である石川の名前が出てくるのにもかなり驚いた。


 この時、もう少し真剣に彼女の言葉の意味を考えれば良かったのだと後悔している。


 そろそろ気づいたかもしれないがこれはリアルタイムで語っている話ではなく、あくまである時点での俺の回想なのだ。


 ここから物語は一気に非現実に向かって急降下し始めることになる。

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