メタフィジクス・プロジェクト
羅威朔
第0話 「悪魔との契約」
私が彼と出会ったのは、忘れもしない三〇歳の一〇月のことだ。
もしかすると出会ったという表現は間違いなのかもしれない。なぜなら、彼は元々私の中に存在していたのだから。
私はその日、娘の部屋の前で呆然と立ち尽くしていた。もう何時間も息をしていない彼女をずっと眺めていた。最初は涙が滝のように触れてきたがそれも収まって、同時に出た鼻水も干からびてカチカチに固まっていた。
机に置かれた遺書と呼ぶには不相応な一枚のルーズリーフにはこう書かれていた。
「お父さん、ごめんなさい」
彼女は昔からそうだ。
自分のことはいつも二番目で常に相手のことを思っている。なんでそんな子が命を絶たなければならないのか。彼女は生まれたときからもう罰は受けているというのに神様はさらに彼女を追い込もうというのか。
気づいたら我を忘れて部屋にあった教科書や参考書、電気スタンドを投げつけていた。
こんなに感情を撒き散らしたのは後にも先にも今日だけだ。
『気は済んだか?』
「誰だ」
とても低くてどす黒い声が私の耳に入ってきた。あたりを見渡すが誰もいない。慌てて窓の外も確認したが変化はない。
『探しても無駄だ。お前の心に語りかけているのだから』
「お前は何者だ?」
『我はヴォルテール。思考を渡り歩く実体のない存在』
「お前は悪魔なのか?」
『ん、悪魔? ふっ・・・・・・はははは我を悪魔とはよく言った』
「何がおかしい?」
『まぁ、いい。同じようなものだ。お前に折り入って相談がある』
「私が悪魔の相談に乗るとでも?」
『お前の亡くした娘が蘇るとしてもか?』
「何!?」
私はこの時にもう少し悩むべきだったのだ。得体の知れない男の声を疑っていれば・・・・・・。
「お前の相談というのは何だ!?」
『私とお前で新しい世界を創ってみないか?』
「新しい世界?」
『お前の小説にもそんな話があったろう?』
「なぜそれを!?」
私は三〇歳まではサラリーマンをしていたが、営業の能力がなかったのか昇進の機会は訪れず、一生ひらでこき使われるかと思っていたが、趣味で書いていた小説が賞を取りそこからとんとん拍子で売れっ子小説家の地位まで上り詰めた。
『お前のことならなんでも知っているさ。今までずっとお前の頭の中で生活してきたのだからな』
これで、私はますます彼の言うことを信じざるを得なくなった。
『さぁ、創造するんだ皆が等しく平等に暮らせる世界を』
こうして、私は悪魔ことヴォルテールと契約を結んだ。
「メタフィジクス・プロジェクト」を完遂させるために。
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