第41話



 何やら悲しい夢で僕は目が覚めた。いつの間にか眠っていたらしい。モールの中は、まだ薄暗い。英ちゃんとカッコはまだ寝息を立てている。ふとサオリの寝ていたベッドを見ると、空っぽだった。僕はいやな予感がした。サオリはどこか遠くへ行ってしまったのではないか?いや、もしかしたらただ、トイレにでも行ったのかも。

 でもしばらく待ってみても、サオリは戻ってこない。僕は心配になってきた。2人を起こさないように、そっとベッドから出た。僕にはサオリのいるところの見当がついていた。

 僕は屋上につながる階段を、なるべく音を立てないように昇った。やっぱり屋上出口の扉は開いていた。なにか声が聞こえる。サオリの声だ。


 ・・ラウテトカミハノタモウ・・・ウツワレラガイノチチトセ・・・

 

 僕は気づかれないように出口の扉のかげからのぞいてみた。最初に会った日と同じ白のワンピースが暗闇の中でぼうっと光っている。僕は耳をすませた。でも、サオリの声はなんだか呪文のようにしか聞こえない。そのうちに、ようやく何を言っているのかが聞こえてきた。


 ――もう、終わりです。いえ、終わりにしましょう。わたしはもう耐えられません。


 いったいサオリは何を言っているのだろう。サオリの言葉が途切れると、突然ブゥーンと低い、ハチの羽音のような響きが辺りを包み込んだ。ぼくは思わず声を上げそうになったけれど、なんとかそれを飲み込んだ。


 ――わたしはやっとわかったんです。どれだけあの子達が家に帰りたいと願っているかを。あの孝くんのピアノがそれを教えてくれたんです。どのみち、あの三人が終われば、ここもなくなるでしょう。少しぐらい引き伸ばしても、同じ。わたしはあの子達を助けます。


 すると先ほどよりもさらに大きいブゥーンという音がして僕は思わず耳を押さえて

 「うわっ」

 と声を上げてしまった。

 「孝くん?!」

 サオリがこちら見た。とたんに音がやんだ。

 「サオリ・・・誰と話していたの?」 

 サオリは僕を見つめたまましばらく黙っていた。そして、何かを決意したようにゆっくりと話しだした。

 「・・・名前はないの。あったとしても、口には出せない。それは、この街をつくったもの。ううん、この街そのもの。この神社をとおして、わたしはそれと話をする」

 僕はサオリが何を言っているのかがよくわからなかった。

 「話をするって・・・じゃ、サオリはここがどういうところか始めから知っていて・・・」

 「そう。そのとおり。ごめんさない。でも、わたしはもう終わりにするつもり」

 「終わりって?」

 僕がそう言ったとたん、ずしんと大きな揺れがきた。僕らはよろめいた。

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