第37話

「カギがあるよ!南京錠ってヤツ!」

 「南京錠って何?」

 カッコが僕に聞いた。

 「ほら、四角い鉄のカタマリに下からカギを差してさ、開けるとUの字みたいになっているヤツ」

 「そうか!アレだ。よーし、早速下に行ってさがそう」

 英ちゃんはそう言うなり駆け出し、カッコもあとについて行く。僕も後を追おうとしたけれども、サオリはその場に立ったままだった。

 「あれ?サオリは来ないの?」

 僕は心配になってたずねた。

 「うん・・・なんだか急に疲れちゃって。ごめんね、先に行って。わたしはちょっとここで休んでる」

 「そうなんだ、じゃちょっと行ってくるよ。何か飲み物でも持ってこようか?」

 「ありがと。孝くんはやさしいね。だいじょうぶ。わたしね、さっきのピアノ、本当に感動した。あれ、なんて曲なの」

 「ああ、あれはベートーヴェンの月光だよ。すごい有名な曲なんだよ」

 「月光か・・・すてきな曲名。また聴きたいな」

 「いつでも弾いてあげるよ。でも、さっきみたいな演奏は二度とできないかもしれないけどね」

 ぼくはそう言うと工具売り場に向かった。エスカレーターを降りかけたその時、かすかに

 ――ラン、ラ、ラン・・・

 というサオリの歌声が聴こえてきた。僕は一瞬立ち止まってそのメロディを聴いた。『月光』だった。ぼくのピアノよりもその歌声はさらに美しかった。いつまでもそこで歌を聴いていたかったけれど、一刻も早く二人のところに行って帰る方法を考えなきゃならない。僕は思い切ってその場を立ち去った。

 

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