84話 生物兵器一号
海面に顔(手?)を出したその一瞬を逃さず、エルはビームソードでそいつを一刀両断した。千切れた赤い触手はうねうねと動き続けている。
すると、報復のためか、さらに三本の触手がエルに向かって伸びてきた。エルはそれを後ろにかわしつつ、回転しながら三本もろとも切り落とした。その間、ハクトたちはその様子を見ているだけである。
ことごとくやられた触手は逃げるように水底へと消えていく。――そして、遂にその触手の持ち主が砂浜に姿を現した。
結論から言って、それは巨大なイソギンチャクだった。毒々しい赤色をした触手に、まぶしいくらい黄色い胴体。胴体の直径は25mぐらいあるだろうか。
足元はなめくじのように波打って這って歩いている。頭から出ている無数の触手は、普通のイソギンチャクに比べて異様に長かった。こいつで地上の獲物を物色していたのだろう。
「気をつけろ。こいつの毒はかなり強い。触手には絶対触るな」
エルは自分を追いかけてくる触手たちの相手をしつつ、ハクトたちに忠告する。
「さっさと勝ってささと遊ぶヨ!」
メッシャは早々に本体目掛けて球を打ち込む。それは相手にぶつかると盛大に爆発を起こした。
イソギンチャクは金切り声のような音を立てると、身を縮ませ、触手だけがすごい速さでハクトたちに飛んできた。
絶対に触らないよう言われたので、三人は揃って飛行ユニットで飛び上がる。心なしか琴里がつまんなそうにしているのは気のせいか。
「にしても、今回あたしいる意味あるわけ?」
……そう、琴里には触手と戯れられないこと以外に、何も武器を持ってきていないというマイナスポイントがある。前者は我慢してもらうとして、後者は正直分からないでもない。
そうこうしている内に、エルがみるみる触手の数を減らしていき、メッシャの球も手伝って、かなりイソギンチャクは疲弊していた。あれだけ爆破されているのに爆散していないのはさすが生物兵器と言ったところか。
そして、結局ハクトと琴里は何もすることがなく、最後はエルが本体を真っ二つにして戦闘は終わったのだった。
イソギンチャクの死骸からは人の血のような赤い液体がどくどくとあふれ出ている。食事中に見たら戻しそうだ。
「中は肉が詰まってておいしそう」
隣で琴里がよだれを垂らしているがハクトには到底理解できそうにない。
「毒を抜く意味でもしばらく置いておいた方がいいだろうな。体液には触れるなよ」
エルはそうやって、実質自由行動宣言をして海の家に報告に行ってしまった。
――さて、どうしたものか。
ハクトは戦闘のときと同じように自分のやるべきことが見つけられず、最終的に仲睦まじく遊ぶ琴里とメッシャを眺めること以外、することがなかったのだった。
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