77話 スパイの脅威
部屋に戻ってから、会話はなかった。
対飛隊の本拠地である実験室と居住スペースは兵器の潜った場所とはずれていたので、直接的な被害はなかった。しかし、ハルカが死んですぐに建物の補修工事が始まり、その音が地下階には響いていた。
エルは後片付けや報告に追われ、その他三人はそれぞれテレビを見、ゲームをし、ぼーっとしていた。――と、琴里が突然ゲームから顔を上げる。
「ねえ、ハクトはなんであの子のこと知ってたわけ?あの子、捕まった予告犯なんでしょ?」
琴里が遂に気になっていたであろうことを訊いてきた。多分、ハクトの落胆の様子を見て今まで自重していたのだろう。
「それなんだけどね、あの子は――ハルカはこっちの味方をしてくれてたんだよ」
「味方?」
琴里が不審そうな目を向けてくる。まあ、今まで黙ってたわけだし、そうなるのは当たり前だろう。
「予告犯、とか言われてるけど、実際は敵の情報をああやって渡してくれてたんだよ」
「なんでそれを隠す必要があったのさ」
琴里はさらに詰めよって来る、自分が蚊帳の外だったことが気に食わないのだろう。
「敵に知られないためさ」
答えたのは色々やってたった今帰ってきたエルだった。
「敵からすればあいつはスパイということになる。だからあくまで予告犯、敵の味方だとすることで敵を欺くつもりだったんだ」
「だからってあたしたちにくらい教えてくれたっていいじゃん」
「正直、どこに敵のスパイがいるか分からないからな。真実はできる限り隠しておいた方がいいと思ったんだ」
「何それ、あたしがスパイかもしれないとかって疑ってるわけ?」
完全にご機嫌斜めだ。まあ、誰だって疑われてると思ったらいい気はしない。
「そうではなくてな。例えばこの部屋に盗聴器が仕掛けられているとしたら……たとえ近くにスパイがいなくても情報が漏れてしまうからな」
「それにしたって、エルが知ってるのは分かるけどなんでハクトが知ってんの」
「いやあ、僕はその……巻き込まれたというか……たまたま向こうから僕に接触してきたんだよ。本来ならエルも僕にはそういうこと教えたくはなかったんじゃないかな。僕、口が堅いわけじゃないし」
ハクトができるだけやんわりと諭すように言うと、琴里は納得いっていないようではあるけれど、ぐっとこらえて黙った。
「……お風呂入って来る。メッシャ、いこ」
決まりが悪いと思ったのか、琴里はテレビを見ていたメッシャを無理やり引っ張って部屋を出て行った。
「……とりあえず、今回のことで分かったことがある」
二人だけになった部屋で、エルはそう口にする。
「なに?」
「地球防衛軍の中に、もっと言えばとても近くに、スパイが紛れ込んでいる、ということだ」
……それだとさっき琴里に説明したのと矛盾しているような……。
「琴里にああは言ったが、そもそも盗聴器を仕掛けるにもそこに出入りできる人間でなければならない。それに、今回の件に関しては私とハクトと少尉しか知らなかったはずだ。つまり、その三人のうち誰かと接点のある人がスパイだということだ」
いまさら、ハクトはスパイの存在に危機感を持った。何食わぬ顔をして仲良くしている人でも、情報を横流ししている敵かもしれないのだ。
「ハルカの死を無駄にしないためにも、これから一層気をつける必要があるぞ」
エルの言葉が、一文字一文字ハクトの心に重くのしかかった。
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