地球防衛軍※打ち切りました※

76話 犠牲

　実験の最中にけたたましい警報と館内放送が実験室に響いた。

『総員に告ぐ！現在この建物が巨大兵器に襲われている！一刻も早く非難せよ！対飛隊は出撃せよ』

　巨大兵器。それが意味するところはあの鋼鉄兵器であろう。そして、このタイミングで来たということはハルカを狙っているのだろう。恐れていた事態が起こったのだ。

　生活スペースから琴里ら二人が飛び出してきた瞬間、建物全体が大きく揺れる。恐らく兵器に攻撃を受けているのだ。鉄筋コンクリートがみしみしと音を立てている。

　支度を整え、出撃口から飛び出すと、既に本部の建物は一階部分を大きくえぐられ、地下に向かって穴が開けられていた。どうやらピンポイントでハルカのところへ向かったらしい。

　エルたちもすぐさまその穴へ飛び込む。予想通り、穴は地下四階、それもハルカの牢の真上に繋がっていた。

　地下牢はもういいようにあさられ、檻がぐちゃぐちゃに丸められている。例の巨体が狭い屋内で暴れたため、天井や床も穴が開いたり崩れ落ちたり、悲惨な状況だった。

　そんな中、廊下に近い方に兵器の背中が見えた。その奥にはハクトの姿も見える。あいつはまだ飛行ユニットも武器も身に着けていない。

「大丈夫かハクト」

「僕は大丈夫だけどハルカが！」

　ハクトの元に駆け寄ると、ハクトは逃げるよりも先に兵器の方を指差した。その指の先を見ると、ハルカが一本のアームにぐるぐる巻きにされていた。

　考える時間が無駄だ。すぐにエルは兵器の懐に飛び込み、サントラの時と同じ要領でアームを根元から削ぎ落す。向こうもパワーアップを図っている可能性があるので、出し惜しみをせず新型のビームソードを使う。ハルカの捕まっているアームも床に音を立てて落ちた。

「よっしゃ」

　ハクトが後ろでガッツポーズしているのが見える。後はゆっくりアームを分解すれば……。

『甘いな、エル』

　突然聞こえた男の声に、エルは即座に振り向いた。兵器から聞こえる声の主はエルもよく知っている人物だ。

『お前は知らないだろうが、いろいろとこの兵器も改良されているんだよ』

　エルは一言も発せずに、ただの球体と化した兵器を睨み続ける。

『まず一つ。俺はこいつに乗っちゃいない。遠隔操作できるように改造したんだ。俺たちもお前とサントラの件で学習したからな』

　なるほど。確かに人が乗れば機動性が増していたし、それが破壊されることが想定されていなかったので、遠隔操作は導入されていなかったが、次々と破壊されていく中で無人機ばかりを投入していたのでは意味がないとの判断なのだろう。

『そして次に……これもサントラの件で学んだことだ』

　そこで言葉は途切れた。その次の瞬間、まだアームに巻かれたままのハルカがうめき声を上げ始めた。見ると、本体から切り離されたアームがどんどんハルカの体を締め付けていくではないか。

『切られた時も考えて独立して動くようにしたんだ。お前でもアームを分解するのに数時間はかかるだろう？』

「……」

『ゆっくりじっくりいたぶって殺してやろう。裏切者』

　もうエルに為す術はない。もう、かつての戦友が苦しみながら死んでいくのをただ見ているしかできないのだ。

「エル！なんとかできないの！？エル！」

　ハクトが必死に縋り付いてくる。なんとかできる物ならばエルだってなんとかしたい。エルは力なく首を横に振った。

「うぐぅぁ……ハ、クト……エルを責めないでやって……こう、なることは、仕方がなかったんだ……」

「そんなこと言わないでよ！せっかく、せっかく会えたんだから！」

　ハクトは無理だというのにアームをこじ開けようとしている。エルは心を痛めながらも、友の最期を看取るために目を離さないでいた。

　途中から骨の折れる音か聞こえ、ハルカは悲鳴に近い声を上げた。内臓が破裂したのか口と鼻から血を吐き、アームの隙間からはとめどなく血が溢れ出した。最後にはアームが完全に締まり切り、気持ち悪い肉の潰れる音と共に両端からぐちゃぐちゃになった肉が押し出された。

　ハクトは途中で目を背け、嘔吐した。血の匂いに包まれた部屋の中で、琴里とメッシャはその様子を神妙な面持ちで眺めていた。