46話 事後

「すまなかった」

 遺体安置所へ駆けつけた美鈴の祖母にエルは90度腰を折って礼をし、そのまま動かなくなった。もう罵声を浴びせられても殴られてもいいと思っていた。いっそのこと殴ってほしいとすら思っていた。そうでもしないと自分自身が罪悪感でどうにかなってしまいそうだったのだ。

 しかし、美鈴の祖母は白い布のかけられた美鈴を前にむせび泣くばかりで、エルを責めようとはしなかった。……いや違う、ただただ美鈴が死んだことに悲しみ、エルなど眼中になかったのだ。その無言がさらにエルの心を押し潰した。

「お孫さんのご遺体はとても損傷が激しく、顔もちゃんとは見えませんが、それでも最後の姿をご覧になりますか」

 担当の検死官ができるだけやんわりと、美鈴の遺体の損壊状況を伝えた。祖母は嗚咽して声が出せないながらも、首を上下に振った。

 検死官が白い布を剥ぎ取ると、異様な形をした物体がそこにあった。死後硬直後に検死官らが洋服を切り取ったが、それはもう何の説明もなしに見せられたら、ただの肉の塊にしか見えなかった。祖母は想像以上の様子に目を見開き、膝をついて大声で泣いた。その泣き声もエルの心を鋭い刃物で切り裂いた。

 ひとしきり泣いた後、祖母は検死官にのみ礼をし、始終腰を折って床を見ているエルには目もくれず、遺体安置所を後にした。入り口の扉を閉められた後も、エルはしばらく、しばらく床を見つめて動かなかった。


「お前たちに言っておかなければならないことがある」

 全員が部屋に戻り、エルの第一声がそれだった。琴里とメッシャは浮かない顔をし、ハクトはうなだれたままそれを聞いている。

「ハクトはもう知っているが、私はタラミリー――空王星の出身だ。つまり、お前たちから見ると私は宇宙人ということになる」

「なるほど、ね」

 エルの大胆な告白にも関わらず、あまり反応はなかった。――まあ、敵機に乗っていた者を「兄」と呼べばそのくらいは察しているか。

「騙していたわけではないが、混乱するだろうと思って今まで黙っていた。すまない」

 エルはここでも頭を下げた。元々背の小さいエルだったが、余計にその身体が小さくなったようだ。

「……別にエルがどこから来たかなんて興味ないよ。だって今はもう仲間なわけなんだし。謝る必要なんかない」

 琴里はやはり未だ感情が追いついていないような感じで、ゲームをしながらそう言う。エルの中では、こうして気を使わせるようなことさえも自身を追い込む原因になっていた。

「……ちょっと屋上出てくるわ。気分転換に」

 黙り込むエルを見かねて、琴里はベッドから立ち上がった。隣にいたメッシャも一緒に立ち上がり、二人は部屋を出て行った。

 うなだれたままのハクトと共に残されたエルは、そのまま黙りこくるしかなかった。

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