44話 激闘の末
エルはビルの合間を低空飛行して少しずつ兵器へ近付いていた。ビルとビルの間からたまにチラチラと琴里とメッシャが見える。どうやらエルを信じてひたすら陽動に徹してくれているようだ。
――このような状況なのにも関わらず、眼下には大量の人々がごちゃ混ぜになっていた。逃げ惑うもの、エルを物珍しげに眺めるもの、携帯端末で兵器を撮影している者……この星の人間はあまりにも平和ボケが過ぎるようだ。もちろん平和ボケするほど平和だったことは何も悪いことではないが、しかし有事にこの有様では目も当てられない。
兵器に近付く度に、慎重さを増してさらに距離を詰める。すぐ奥で琴里のミサイルが爆発するのが見えた。兵器はすぐそばだ。
メッシャと琴里の攻撃が切れた瞬間を狙って、服が地面に擦れるぐらい低空飛行で兵器の懐へ飛び込む。どの方向からくる攻撃も防いでいた兵器だが、エルの飛び込んでくるのは見えていない。
動きから察するに、この兵器には人が乗っている。人が乗っている場合、正面のセンサー以外にもう一つレーダーを作動させることができる。背後からの攻撃を防ぐことができたのもそのためだろう。
このレーダーの照射範囲は地上3m以上だ。つまり、逆に言えば3mより低いところから近付けば死角になっているわけだ。正面のセンサーは地上まで全て見えているので、背後の低空から忍び込めば察知されないという寸法だ。
兵器の下に潜り込んで一息つく暇もなく、エルは剣を取り出し、アームと本体の接合部を斬った。アームと本体はそれ自体は硬すぎてビームソードなどなんの役にも立たないが、接合部が弱くなってしまうのはどの工業製品でも同じなのである。
アームを一本失った兵器はやっと異常を察知して原因を探そうと躍起になっているがもう遅い。エルは立て続けに二本目、三本目を斬り離し、もがくザマを見ながら少し息をついて、最後の一本も斬り落とした。
「こちらエル。兵器を行動不能に追い込んだ。後はトドメを刺すだけ……」
『ちょっと待ちな』
無線で琴里たちに最後の一撃を頼もうかと思ったのだが、兵器の方から声が聞こえてきた。どうやら兵器のスピーカー機能を使って搭乗者が話しているらしい。そしてすぐに兵器下部のハッチが開くと、見覚えのある男が這い出てきた。
「やあエル、久し振りだね」
「……」
その金髪の男は馴れ馴れしく話しかけてきた。いや、馴れ馴れしくというよりは、実際に馴れているのだが。
「エル、どうしたの?」
メッシャと琴里が慌てて近寄ってきた。美鈴の事もあり、心配そうな顔をしている。
「こいつが兵器を操縦していた男だ。捕らえるぞ」
そう言って、エルは回し蹴りをそいつの頭に入れ、倒れたところを組み伏せて手を縛った。
「ぐふっ……エル、何するんだい?痛いじゃないか」
「ねえエル、こいつと知り合いなの?」
エルは暫く返答に迷った。琴里とメッシャの二人はまだエルが宇宙人であることを知らない。しかし、これ以上は隠せない――そう思ったエルは本当のことを話すことにした。
「こいつは――私の兄だ」
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