28話 初めての戦闘

 それから日中はとにかく練習を続けた。それぞれの武器に慣れ、不測の事態に備えた。また、ビームソードやレーザーガンはハクトだけでなく、美鈴達にも近接戦闘用にそれぞれ手渡された。

 一週間も経つと各々意のままに操れるようになり、ハクトもエルの猛烈な剣での打撃(それでも30%らしいが)を受け止められるほどにはビームソードを使えるようになっていた。


 そんなある日のことだった。練習を終え、シャワーも浴び終えて余暇を思い思いに過ごしていると、突然、壁に設置された赤色灯がけたたましい音を立てて発光し始めた。ベッドでゴロゴロしていたハクトも、久々に聞いた警報音で飛び起きた。

 対して、何も知らない少女三人組はそれぞれ困惑している。

「出撃命令だ、行くぞ」

 エルは廊下から入ってくるや否やそう言って、そのまま研究室の方へ歩いていく。

「ちょ、ちょっと待ってよ」

 ハクトも慌ててその後についていって、更にその後ろにお三方が続く。

「出撃口は左からそれぞれハクト、美鈴、琴里、メッシャだ。中に飛行ユニットが入っているから、着替えて上空で待ち合わせだ」

 エルが指差すところには、先日完成したばかりの出撃口に繋がるドアが五個並んでいた。ハクトたちはそれぞれ指定されたドアを開けて中に入る。

 中は二畳ほどの広さで、飛行ユニットと、戦闘時に着る服(とはいえ、見た目は普段着と同じなのだが)が用意されており、上を見上げると地上まで吹き抜けになっていて、空が見える。わざわざ、出撃のためだけに地上から地下三階まで穴を掘ったらしい。

 いろいろ見ていたいハクトだったが、緊急事態にそんなことをしている余裕もなく、できるだけ早く着替えを済ませ、飛行ユニットを起動してそのまま地上まで一気に抜け出た。そこまでまごまごしていたつもりはなかったのだが、もう既に他の四人は空中で待機していた。地上に置いてあったT-gamも琴里の後ろにくっついて、いよいよ準備完了となった。

『敵兵器の飛来場所は神奈川県横浜市南東部湾岸エリア、全速で九時の方向へ飛ぶ、四人共しっかり付いて来るように』

 肩越しのエルの顔を見て頷くと、エルは身体を傾け、速度を上げていく。ハクト達四人も足首を限界まで伸ばし、全速力でエルの後を追った。

 やがて見えてきたのは開発し尽くしたと言っていいほどビル、住宅、遊園地がせめぎ合うみなとみらい地区でアームを振り回している、例の球体兵器だった。しかも、今回は二体いる。

 エルが減速するので、ハクトたちもスピードを緩め、兵器の暴れる上空に留まった。

『メッシャ、美鈴は兵器への攻撃を頼む。琴里は兵器の足止め、ハクトと私は逃げ遅れた人の救助だ』

 そう言うや否や、エルは急降下して一般市民を探し始めた。ハクトもそれに倣って地面近くまで降りる。

 兵器が暴れているのは臨海公園で、ビルが崩れたりなどの被害は今のところ見受けられない。

「じゃあさっさとやりやしょー。ターゲット補足」

 琴里が左右のパネルを操作すると、上空を旋回していた無人戦闘機が下降してきた。

「……投下」

 琴里がエンターキーを押すと、戦闘機から爆弾のようなものが投下される。琴里の操作の精度の高さにより、それは一直線に、ピンポイントに兵器に向かっていった。

 と、次の瞬間、それははじけて巨大な鋼色の網となり、兵器を飲み込んだ。兵器は抜け出そうともがくが、アームの先の爪に網が引っかかり、動きが制限されているようだ。もちろん、この網が金属であるはずもなく、兵器の力には耐えうるよう設計されている。

 そうこうしているうちにもう一体も琴里が仕留め、後はトドメを指すのみとなった。

「いきます!」

 美鈴は矢袋から矢を一本取り出し、一度目を瞑って弓を構えたのち、キリキリと矢を引いて矢をひょうっと放った。放たれた矢は彫られた螺旋により回転を加速させ、巨大な的に命中した。ぶつかってからも更に加速を続け、兵器の表面を溶かしていく。

「私も行くヨ!」

 メッシャは特に構えるでもなく、空中でステップを踏んで身体を反ったかと思えば、振り下ろした右手からは光る球が飛び出し、美鈴が矢放った兵器ではない方に着弾した。こちらも回転速度を上げ、先程の矢と同様に摩擦で兵器を溶かしていく。

 ……攻撃部隊も避難誘導に加わり、全員手持ち無沙汰になってきた頃に、兵器は内部で爆発を起こし、炎を吹き上げてその巨体を横たえたのだった。

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