27話 洗いっこ(男女)
出撃スペース建設が着工された日にハクトとお風呂に入ることになっていたのは琴里だった。例の如く廊下で琴里の脱衣を待っていると、浴室の扉が開閉する音が聞こえてきた。
「入っていい?」
ハクトが訊ねるも返答はない。どうやら合図も何もせずにとっとと浴室に入ってしまったらしい。恐る恐る脱衣所の戸を開けてみると、案の定琴里の姿はない。
ハクトもいそいそと服を脱ぎ、腰にタオルを巻いて浴室へ入ると、琴里は浴槽に浸かり、その縁に腕を組んで顎を乗っけていた。ハクトはそれを横目にバスチェアに座ってシャワーのお湯を出す。
すると突然、湯船の方から「ザバアッ」と音が立ち、足跡がぴちゃぴちゃとハクトの背後に近付く。
「背中、流してあげよっか」
「そんなのいいって、自分でや――」
と言いかけて、ハクトが顔を上げると、半分くもった鏡には、ハクトの後ろに立つ、文字通り裸の琴里が立っていた。
「なっ!?なななんでタオル付けてないの!?」
「だってタオルとか邪魔じゃん。付けんのめんどくさい」
琴里はそう言いながらも、身体を流すスポンジに液体石鹸を付ける。
「だ、だから自分で洗うから!」
「いーのいーの。暫くじっとしてて」
「……ひぃっ」
急に冷たいスポンジを当てられ、ハクトは素っ頓狂な声を上げる。琴里はそのまま背中を泡だらけにしたが、それだけでは飽きたらずに、ハクトの両脇の下から腕を突っ込み、前も洗い始めた。
「もういい!いいって!」
「なんでよー、うちが折角洗ってやってんのにー」
そう言いながら、琴里は自身の胸をハクトの背中にくっつけた。ハクトは胸板を手で洗われ、背中に胸を押し付けられ、健全な男子として健全な反応を示していた。
「あれー?腰に巻いてるタオル、持ち上がってない?」
「ちょ、違っこれはっ……」
琴里はハクトの顔を見てニヤニヤとしながら、もぞもぞと動いているハクトのタオルに手を伸ばす。
「ダメ!それはまじでやめて!」
ハクトが顔面蒼白涙目になりながら、股間を両手で抑え込む。
「……仕方ないなー」
琴里は口をとがらせ、湯船のお湯を洗面器ですくってハクトに頭からぶっかけた。変な格好をしてたこともあり、鼻にお湯が入って「ガゴボッ」となっていた。
「ほーら、流すからじっとしてて。ちゃんと流さないと余計汚いんだから」
そう言いつつ、琴里はシャワーで勢いよく泡を流していく。
「はい、終わり」
「やっとか……」
ハクトはもう疲れきって顔をひくつかせている。しかし、落ち着こうにも琴里の裸が目に入って安心できない。
「そ・れ・じゃ、お返しにうちの背中流してよ」
「なんでそうなるの!?」
ハクトの疑問もガン無視され、琴里はハクトを椅子から引きずり下ろすと、自分がそこに座った。
「ほらー、洗ってあげたでしょ?」
「そ、そうは言っても……うっ」
反論しようとするも、鏡には琴里の裸がこれでもかと映っている。しかも、さっきまでは自分が前にいたからほとんどは隠れていたが、琴里が前にいると、胸から太ももから何から何まで完璧に映ってしまっている。
「はーやーくー!そんなに恥ずかしいわけー?」
恥ずかしいものは恥ずかしい。ハクトは琴里を見ないように浴室を出ようとするが、琴里に腕を掴まれて引き戻された。
「ちょっとー、まだ終わってないんだけど?うち、洗ってもらうまでここから出ないよ?」
本当なら「だからどうした」と振り払って出て行ってもいいのだが、それができないのがハクトがハクトである由縁である。渋々ボディスポンジを手にとって泡を立て、無防備な背中に手を伸ばした。
「しっかり洗ってよねー」
琴里はハクトに洗ってもらっている最中に伸びをしている。ハクトも、自らにただ洗っているだけだ、邪心を抱くな、と叱責し、途中からはごくごく普通に背中を流していた。
……と、その時だった。琴里が素早く背中に手を回し、ハクトの両腕を掴んだかと思うと、そのままわきの下を通してハクトの手のひらを自らの胸の膨らみへと持って行った。さらに、ハクトの手の甲を自らの手のひらで包み、上から胸を揉む動作をさせた。
何が起こったかわかっていないハクトは、琴里に無理矢理させられてるとはいえ、数秒琴里の胸を揉んでいた。
「!?うわぁい!?」
今日何度目か分からない変な声を上げながらハクトは万歳をして後ろに飛び退く。
「ちょっとー、うちも前まで洗ってあげたんだから、ハクトもちゃんと洗ってよー。もちろんおっぱいも」
琴里はそう言いつつ振り返って、自分の胸(まああまりないのだが)を自分で下から持ち上げて揺らした。完全に向かい合ってしまったことで、ハクトにはもう目を瞑っているしか自衛の方法がなくなっていた。
「かっ、勘弁して下さい!ほんとにこれ以上は無理です!」
情けないことに、相手が年下にも関わらず敬語を使って許しを乞うと、琴里はさっと泡だらけになっていた身体を洗い流して立ち上がった。
「今日はもう充分楽しんだし、許してあげるー」
それだけ言い残すと、琴里はまだ目を瞑っているハクト残したまま、バスタオルを手にとって浴室を後にした。
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