25話 お嬢様は一人でトイレに行けない

 演習が終わり、生活スペースに戻ってエルの用意した昼食を食べる。サラダも小皿によそってあって、栄養のバランスも良さそうだ。

「ハクト、お前だけ後で実験室の方に来い」

 食事中にエルがそう言うので、ハクトはお皿を片付けた後に実験室の方へ向かった。理科室にあるような机の黒い板の上に、サイリウムのようなものと、明らかな拳銃が置いてあった。

「ハクトには特技といった特技はないからな、ノーマルな軍事兵器を持って行動しろ。こっちがいわゆるビームソード、こっちがレーザー銃だ」

 そう言ってエルはその二つをハクトに渡す。どちらもそこそこ重い。

「まずはビームソードの説明だが……手元のスイッチを上に押し上げると伸び、下に押すと収納される。やってみろ」

 言われるがままに円柱状の物体を持ち、スイッチを押すと先端の半球のようなものが浮き上がり、70cmほど伸びて止まった。本体から半球まで、まばゆく赤色のレーザーのようなものが光っている。

「本来なら永遠に伸ばし続けることができるが、安全面を考慮してリミッターを設けた。基本は透明防壁と同じような仕組みで、細かな粒子が先端と本体を絶えず行き来して、その摩擦で物が切れるという仕組みだ」

 よく分からないが、どうやらこのレーザーのようなものは、目には見えない細かい粒子がずっと流れているものらしい。

「銃の方もこのソードの刃の部分と同じ物質を使っていて、打つと粒子が一瞬で突き抜ける。……危ないから緊急時以外は使うなよ」

 エルが脅してくるのでハクトは冷や汗をかきながらうんうんと頷いた。

「ま、ざっと説明はこんなものだ。明日からはお前もこれを扱う練習を始めるんだな」

 エルはそう言って、ハクトに部屋に戻るよう促した。


 今日はハクトは一人で入る日だったので、エルの譲ってくれた昨日同様に足を伸ばしてゆっくりくつろいだ。

 今夜、同じベッドで寝るのは美鈴だった。布団に入り、電気が消えるのを待っていると、背中に何か温かいものがくっついた。

「あ、あの、怖いのでこうして寝てもいいですか?」

 そういえば美鈴は怖がりなんだった。初日に「電気を少しだけ点けておいてほしい」と懇願していたっけか。

 体勢的に振り返ることはできないが、美鈴が上目遣いでお願いしている様子はすぐに想像できる。美鈴は答えを待ちながらも、さらに二つの果実をハクトの背中に押しつけてくる。

「そのくらい大丈夫だけど」

 ハクトがそう答えると、美鈴は安心したような声で「ありがとうございます」と囁いた。


「……さん、ハクトさん」

 耳元で囁く声で鳥肌を立てて起き上がると、小さなオレンジ色の室内灯に照らされた美鈴の顔が目の前にあった。美鈴は怯えた顔で暗い部屋の中をキョロキョロと見回している。枕元の目覚まし時計は午前3時を指している。

「んー……どしたの?」

 眠い目を擦りながらハクトが訊ねると、美鈴は急にもじもじしだした。

「その……一人じゃ怖いのでお手洗いについていってもらえますか?」

 なるほど、美鈴は怖がりだった……廊下には電気がついているはずなのだが、それでも美鈴にとっては怖いようだ。昔の妹を思い出す。

 もちろん、拒否するわけにはいかないので、ハクトは美鈴を連れて明るい廊下へ出て、トイレへ向かった。トイレと言っても実は個室のトイレはなく、浴室のシャワーの隣に便器がある。お風呂に入るときは間のカーテンを閉めている。

「こ、ここにいてくださいね!絶対ですよ!」

 美鈴はハクトに帰らないように念を押すと、電気をつけ、浴室の戸を開けて中へ入った。。美鈴の怖がりようは本当に幼稚園の女児のそれだ。

「……ハクトさん、いますよね?」

「いるよー」

 入ってからも何度もハクトがいるか確認してくる。妹を夜トイレに連れて行ったときも、こんな風に何度も何度も確認してきた。

 美鈴が三回くらい話しかけてきたところでちょろちょろちょろ……と音が聞こえてくる。ハクトは一瞬中の様子を想像してしまい、一人で赤くなって頭を横に振った。

「ハクトさん、何してるんですか?」

 いつの間に出てきたのやら、美鈴は自らの欲に耐えるハクトの隣にいた。

「なっなっなっ、なんでもないよ!何も想像してないから!本当に!」

 ハクトの弁明は墓穴を掘っているような気もするが、美鈴はあまり気にしていないようで、浴室の電気をきちんと消して寝室へ戻った。

 そして再び、美鈴の胸を押しつけられながら、ハクトは夜を明かしたのだった。

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