24話 「大好き」を「攻撃」に

 今朝も、いつものようにハクトたちは服を練習用のものに着替え、飛行場に集まり、準備を始めたのだが、そこには何やら初めて見る機械が置いてあった。一つは弓と矢のような物、一つは近未来的な手袋のような物、そしてその横には本物の戦闘機が朝日に光っていた。

「これが我々の攻撃手段だ。それぞれの特技を活かした戦闘ができるようにしてある」

 そう言うと、エルは弓矢を美鈴に、手袋をメッシャに渡した。

「基本的に敵の兵器は鋼鉄型、多数型、生物型の三つに分かれる。鋼鉄型はカルヴィロウム亜合金などの物質によって装甲を着けているもの、多数型はその名の通り大量の小さく機動力の高い兵器、そして生物型は生物兵器だ。それぞれのタイプに対応できるように攻撃ユニットを作成した。まずは美鈴から試してみろ」

 お三方がエルのつらつらと並べた説明を理解しているのかは知らないが、とりあえずやってみようということなのだろう。

「あそこにコンクリートの的を用意してある。狙えるな?」

 見ると、50mほど先に6つのコンクリート壁が横並びに設置されている。

「は、はい!」

「じゃあまずは、その赤みがかった矢であれを射抜け」

 美鈴は言われた通り、二本の矢が入った籠から赤っぽい矢を取り出し、弓を構えた。しばし、風の音だけが耳に響く。

 ヒョウッ、という甲高い音と共に放たれた矢は真っ直ぐに的へ向かっていく。矢はそのコンクリート壁のド真ん中へ突き刺さると、そのまま高速で回転し始めた。そして、コンクリートが砕けて貫通したかと思えば、次の瞬間、爆発でコンクリート壁は砕け散っていた。

「今のが対鋼鉄型の矢だ。先端に特殊素材を用いた螺旋を施して、空気との摩擦で熱が生まれる、その熱が螺旋によって推進力に変わる。その繰り返しで徐々に回転速度を上げ、何かを貫通した瞬間に矢本体に仕込まれた爆薬が爆発する仕組みだ」

 相変わらずエルの説明は分からないが、これで本当にあの兵器を壊せるのだろうか。ハクトはその疑問をそのまま口に出してぶつけてみた。

「さっきも言ったように、あの兵器は実験で作ったカルヴィロウム亜合金でコーティングされている。つまり、熱を一定時間与え続ければそのコーティングは剥がれるわけだ。お前たちの前で兵器が壊れたとき、兵器の下に何か熱を発するものがあったのだろう」

「熱を発するもの……あっ」

 確か、上野で兵器が暴れていたとき、おじいさんが持っていた火炎放射器が放り出されて兵器に踏みつぶされていた。さらに、その後兵器は長時間そこから動くことをしなかった。

「恐らく、それがコーティングを剥がし、内部の電子機器を傷付け、わたs――いや、あの兵器が倒れされたんだ」

 私、と言いかけてエルは咳払いした。まだお三方には素性を明かしてはならないと思っているのだろう。何せ、先日まで世界中の人間を殺し回っていたのだから。

「さて、この話はこれで終わりにして、次に黄色い矢を放ってみろ」

 完全にエルとハクトの会話になってしまい、お三方が置いてけぼりになってしまっていたので、エルが軌道修正する。

 美鈴は今度も、エルの言う通り、たった今砕け散った壁の隣の壁を狙って矢を放つ。

 矢は今度も真っ直ぐに壁に向かって突き進んでいたが、途中で二つに分離し、二つが四つ、四つが八つと増え、最終的に32本の細い矢となって壁に無数の穴を開けた。全弾命中で小さくもたくさんの穴を開けられた壁は、そのまま亀裂が入ってボロボロと崩れてしまった。

「これが小型兵器用の矢だ。一本一本は細いが、金属を貫く程度の強度はある。小賢しく動き回る兵器もこれなら一度に大量に仕留めることができる。生物兵器も場合によるが、これを使ってもいいだろう」

 エルは一通り説明し終わると、メッシャの方を向き直った。

「次はメッシャの手袋だが……手にはめてスパイクを打つ動作をすると、手袋がボールを自動精製して飛んでいく。物は試しだ。コンクリート壁に向かって打ってみろ」

 エルが指差す先には、たった今美鈴が的にしたものより近いところ――10mほどの距離に同じような壁が設置してある。

「わかったヨ!やったことないけどやってみるネ!」

 そう言うと、メッシャは少し下がり、助走をつけて踏み切った。空中で身体を反りながら右肘をおもいっきり引く。そして、手首のスナップを効かせると、その瞬間にボールが精製され、猛スピードで打ち出された。

 ボールは赤、時々青白く揺らめくものを纏って壁にぶつかる。ぶつかった瞬間にボールは潰れて壁にくっつき、そのままじりじりと燃え続けた。くっつかれたコンクリートはみるみる黒くなっていき、ボールのくっついた部分に丸い穴が開いた。

「まあ、見てもらった通りだ。方法は違えど、美鈴の矢と同じようにコーティングを剥がすのに特化した攻撃になっている。その右の手袋のダイヤルでいくつかのモードを使え、今のもの、普通にボールによる打撃で攻撃するもの、分裂するものの三種類が使える。あと一回練習ができるから、打っておくといい」

 メッシャはエルの説明を受けながら手袋のダイヤルを弄り、もう一球打ち込んだ。それは美鈴の矢と同じように分裂し、コンクリート壁を粉々に打ち砕いた。

「……それはいいけど、うちは何をすればいいわけ?」

 美鈴とメッシャが自分専用の兵器で盛り上がっている中、お三方の中で一人蚊帳の外の琴里がたまりかねて声を挙げた。

「琴里の兵器はその衣装に組み込んである。飛行ユニットの時に使ったパネルをタッチしてみろ。新しい項目が追加されているはずだ」

 琴里は不審な顔をしながらもパネルをタッチする。すると、パネルに「垂直維持」「浮遊装置」の項目に加え、「立体映像」というボタンが表示され、それをタップする。

 すると、目の前に小さいテレビのような、半透明の画面が現れ、その下には同じく半透明のキーボードがあった。最新のOSの画面が表示され、キーボードを操作してログインすると、デスクトップには「kotori」という謎のファイルがあった。

 ホログラム自体は数十年前から進化を続け、スマホや時計などにも搭載されているが、キーボードが思いの外しっかり打てることに琴里は驚いていた。

 「kotori」を開くと、そこにはどこかのコックピットのようなものが映し出された。どこかの飛行場のようだ。いや、よく見たらこれは今立っているこの飛行場ではないか。

 琴里は流し目で近くに停まっている戦闘機を見る。

「もう分かっているようだが、そのソフトはあの戦闘機の操作設備と連動している。キー設定は好きにして構わない」

 エルが説明しているが、琴里はそっちのけでソフトを自分好みにカスタマイズしている。もちろん、キー設定の時点で「ミサイルA/B」などという物騒な文字は目に入っていた。

「要領はシューティングゲームと同じだ。得意分野だろう?」

「そーね。得意中の大得意だわ」

 そう言いながら琴里がキーボードを操作すると、戦闘機のエンジンが点火され、轟音が響き始めた。

 「Ready」の字が画面右上に表示されると、琴里はまたもキーボードを叩いて安全装置等の確認を行う。

「危ないから下がってて」

 琴里が涼しげな顔でそう言うので、琴里共々、滑走路から少し離れた芝生のところへ避難する。

「じゃ、飛ばすよ」

 琴里は本当にゲームのような感覚で行っているようだ。そのままキーを押しっぱなしにして、フルスロットルで発進させる。エンジン点火時の比にならない音が耳をつんざき、遅れて突風が体を持って行きかける。

 飛び上がった戦闘機は大きく旋回しながら高度を上げていく。琴里の見る画面には、もうすでに雲の中へ入りかけている戦闘機のコックピットが映されている。

「あー、やっぱラグがひどいねー。修正しないと」

 琴里は独り言を言いながらも、初めて動かすはずの機体を(しかも遠隔で)悠々と飛ばして見せている。

「そろそろ的を狙ってもいい頃じゃないか?」

「そーかもね。みんな耳塞いでー」

 琴里が気の抜けた声で忠告するので、ハクトたちは耳を思い思いに塞ぐ。

 すると、ジェットエンジンの「バリバリバリッ」という音がどんどんと近付いてきて、鼓膜が冗談抜きで破れそうなほどに震え、思わず目も塞ぐ。その轟音の中でも、更に爆発音のようなものが聞こえて目を開けると、コンクリート壁は下の地面もろとも吹っ飛んでいて、直径10mほどの大きな穴ができていた。

「威力に対して的小さすぎじゃない?」

「そうかもしれないな」

 琴里はエルに文句をつけながらも、戦闘機を宙返りさせて再び射出体勢に入った。一方のハクトたちは、戦闘機が遠ざかってからも鼓膜がぐわんぐわん鳴っていて、ミサイルどころではない。

「今ミサイルAってやつだったんだけど」

「ああ、Aは対鋼鉄型のものだ。原理は美鈴やメッシャのものとさほど変わりないが、何せ元の威力が大きいからな。別の用途でも使えるだろう」

「ふーん。で、Bは対複数ってとこ?搭載数はAとBそれぞれ四発の合わせて八発、そんでもって装弾数150発のマシンガン付きねー。破壊力はあるけど持久戦はきつそー」

 琴里は流石はプロゲーマーだけあって、リアルシューティングゲームなどもかじっているようだ。

「滞空時間はおよそ二時間強。決着を急ぐときにしか使えないだろうな」

 エルも琴里に同意する形で追加説明をする。

「んじゃ、Bよりもマシンガンのが興味あるから撃ってみるわー」

 琴里の呑気な声に合わせて再び轟音が鼓膜を震わす。そして、轟音に重なる轟音と共に、地面が壁の少し手前から連続的に掘り返され、そのまま壁に一直線に弾丸の雨が降り注ぎ、真っ二つに割れた。

 もうハクトたちは度重なる音の暴力に頭を押さえて悶絶している。

「今ので30発か……マシンガンは使えて五回くらいって感じかなー?」

「的もなくなったことだ、そろそろ演習はやめよう。戦闘機も降ろせ」

「あいよー」

 琴里の操作で、戦闘機は旋回、抑制を繰り返しながら高度を下げ、機首を上げながら滑走路へ進入してきた。操作、機体共に問題はなかったようだ。

「今日はこれで演習を終わる。各自部屋に戻れ」

 エルがそう指示するものの、まだ頭がぐゎんぐゎんと揺れているハクトたちの耳には入らなかった。正常の聴力に戻るまで2時間かかったという。

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