11話 ゲーマーの少女っていいよね

 つい先日出たばかりの山手線の新型車両に乗って秋葉原駅までやってきた。名ばかりは聞いたことがあったが実際に来るのは初めてだ。

 とはいうものの、電気街やオタク文化に触れるなどといった目的はなく、ただ駅の中をうろつくだけである。

 ひとまず彼女のブログにあった二番ホームへと移動した。

 大宮方面の京浜東北線と上野池袋方面の山手線が3分間隔で到着する。

 数年前近代化政策が進んだ際、日本の多くの都市が政府によって手を加えられた。

 秋葉原もその一つで、「オタク文化と近代科学の融合」と題してホログラムやらなんやらが道の真ん中に作られ、アニメキャラがそこらへんを歩き回っていた。

 ホームも例外ではなく、短いステッキを持った魔法少女が人々と握手して回っていた。

 さらに、近代化の一環として同時にバリアフリー化も急がれ、ホーム上に新たな休憩設備などが増設された。ハクトはばずその休憩設備へと向かった。

 ホーム上だというのに立派な噴水が聳え立ち、その周りを囲むように木目調のベンチが配置されていた。これを作るためにわざわざホームの幅を大幅に拡張したのだとか。

 ふう、とベンチに腰を下ろす。

 満員電車なんて学生時代に幾度か乗ったくらいで、精神的にも肉体的にも参ってしまった。

 ゲームをするなら座ってするだろうと予想して来たはいいが、それは単なる予想であって、当たる可能性だって高いわけでもない。

 それにそもそもここにいるかどうかだって怪しいものだ。考えて見れば嘘を書き込んでいる可能性も否めない、というか今となってはそちらのほうが濃いように思える。

 ハクトは自分の浅はかさを呪って深いため息をついた。

 隣に座っている女の子は一生懸命にケータイゲームに勤しんでいる。

 このくらい簡単に彼女が見つかれば苦労しないよなあ。

 ...ん?

 ハクトは恐る恐る目線を上の方へ上げていく。

 「Dark Angel]と書かれた派手なトップスよりさらに上、黒髪に包まれた顔は紛れもなく...。

「才場さんっっ!」

 電車を待つ何人かが一斉に振り向き、そしてすぐに散っていった。

 琴里は堂々とヘッドホンをつけてゲームをしている。

「あの、すいません。才場琴里さんですね?」

「ん?何ー?」

 琴里はダルそうにヘッドホンを外す。そしてポッケからココアシガレットを取り出すと口にくわえた。

「琴里さんですよね?」

「そうだけど何?」

 今一度確認をしたあと、ハクトは咳払いをして昨日作った名刺を取り出した。

「僕は軍のハクトといいます」

 琴里はさして驚く様子もなく先を促した。

「軍の勧誘のために来ました。軍に入っていただけませんか?」

 ハクトが単刀直入に切り出すと、琴里はくわえていたシガレットを口に頬張った。

「敵のロボットをハッキングして倒せと?」

 いとも簡単に言ってのけるところを見ると、本当にそのくらいはお茶の子さいさいなのだろう。

 しかし考えようにもハクトも詳細は聞いていない。

「僕も存じ上げません」

 琴里は信じているのか否か、携帯をいじりながら二本目のシガレットをくわえた。

「興味というか、入る気があったら土曜日8時に豊洲に来てください」

「了解、行けたら行くわ」

 まるで学校の打ち上げ程度のノリで琴里は答えると再びヘッドホンを耳に当てた。

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