10話 最後の一人は誰やろか
「ただいま」
昨日と同じように研究室へ入ってくると金属臭が鼻を突いた。
「帰ってきたか」
奥からマスクやら眼鏡やら付けたエルが歩いてきた。
「今、カルヴィロウム亜合金で兵器の型を取ったところだ。後は内部の精密機器を作るだけだな」
エルはマスクを取って近くのゴミ箱に投げ入れた。
「で、収穫はあったのか?」
「うん。メッシャ・マンペアーっていう選手だよ。お気に召した?」
「うむ、完璧だ」
エルの満足そうな顔を見てハクトは心の中でガッツポーズした。
「じゃあ、コーヒー淹れるね。エルも疲れてるだろうし」
「ああ、頼む」
エルは軽く手を挙げて奥の部屋へ戻っていった。
エルがいつも淹れるコロンビアをエスプレッソマシンで抽出する。そしてスーパーの店頭によく並んでいる青いパッケージの牛乳を注いでカフェラテにする。
コロンビア特有の甘い香りが漂う。
「おまたせ」
奥の部屋に戻るとエルは手を絡ませて真上に伸びをしていた。
ハクトはコーヒーの入った小さなカップをエルの目の前に置いた。
「早かったな」
エルはそれだけ言うとカップのコーヒーに口をつける。
「次のニュースです」
いつの間に置いてあったのか、テレビからアナウンサーの声が聞こえてくる。
「僕もテレビ見ていいの?」
ハクトが聞くとエルはコーヒーをふーふーしながら言った。
「別に禁止していたわけではないからな。見たって構わない」
ハクトがテレビを見たのは恐らく軍に入る前夜以来だろう。アナウンサーはその時と別の人になっていたが。
「さてと」
ハクトは早く明日の計画を立てなければいけない。すぐに自前のスマホを起動した。
しかし、調べ始めたはいいが今までのスポーツ系とは違ってコンピュータとなると大会などは早々見つからない。
「むむむ」
やっぱり今風の子となると「ぎろっぽん」とか「しもきた」とかそこらへんにいるのだろうか。
そんなふうに考えながらハクトが目を通していると、ニュース覧にある記事を見つけた。
『17歳JKキーボード早打ち世界一に』
お?
早速カーソルを文字の上に合わせ、トピックを開く。
『17歳JK、才場琴里さんが先日行われたキーボード早打ち世界大会で優勝した。才場さんはこれまでにも全国プログラミング選手権や自作コンピュータ選手権などでも優勝経験があり、これで5種目だそう。さらにコンピュータ以外でもRPG等、ゲームの大会でもすばらしい成績を持っている。素晴らしい現代の頭脳に賞賛を送りたい』なる内容だった。
これは調べてみるに値する。
さいばことり、検索。
すると出てくるわ出てくるわ個人情報。熱狂的なファンなども多いらしく個人情報を特定、散布する者がいるらしい。
そしてその中に彼女のやっているブログを発見した。
ブログはなんと一時間おきに更新されており、コメント数は大変な数だ。
それにしてもそのブログに書いてあることはゲームのことばかり。よほどのヘビーゲーマーと見られる。
そして一番最近更新されたもの(15分前のものだった)にこう書かれていた。
『秋葉二番ホームでケータイゲームなう』
これだ.....。
ハクトは定まっていなかった明日の訪問先を決めた。
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