6話 仲間がほしい

 長時間立っていたせいかハクトの足はパンパンになっていて、マッサージしても全く形状に変化は見られない。

「疲れたようだな」

 ドアを開けてエルが顔を出す。安全眼鏡を外し、手袋をゴミ箱に捨てる。

「うん、運動不足で」

 ハクトは尚も一生懸命マッサージを続ける。

「私もだ。最近は兵器の操縦ばかりしていたからな。体の節々が痛い」

 エルは息を深く吐きながらベッドに腰を下ろした。

「風呂にでも入って体を休めるか?今日はこれ以上実験はしないが」

 エルが肩を回しながら言う。

「いや、いいよ。このまま昼寝しようと思う」

 ハクトはそのままベッドに横になった。エルはそんなハクトを温かい目で見ている。

 エルはポシェットから金色のペンダントを取り出した。ボタンを押すとカチャッと音を出して開いた。そこには銀髪の男女の結婚式と思しき写真が入っている。

「お父さんお母さん?」

 寝たはずのハクトがいつのまにかエルの後ろにいて、エルに尋ねる。

 エルは特に驚いた風でもなく頷く。

「ああ。一度しか会ったことはないがな」

「一度しか?」

 ハクトは顎が外れんばかりに驚いた。

「大袈裟に言ってるんじゃないぞ。実質の回数だ」

「え?何?聞いちゃいけない感じのこと?」

 もしそれだったら聞くのはよそうとハクトは尋ねる。

「いいや、そこまで言うほどのことではない。昨日、機械で子供に教育することは話したな?だから、私の星では生まれた後、成人するまでは十歳記念日の日以外は親と顔を合わせないんだ」

「全員?」

「全員だ」

 エルは何事もないように話しているが、実際は恐ろしいことである。それは洗脳と言っても過言ではないのではとさえ思う。

「親は3D映像に組み込まれて教育の合間合間に親からのメッセージなどが流される。子供はそれを親だと思って生きていくのだ。それが親ではないと気付くのは十歳記念日だ」

「それはいいことなのかな」

「わからん。しかし、私の星はそれで世界が成り立ってしまっている。だから問題視されず、ずるずると時だけが過ぎていく」

 エルは少し俯く。星を離れてもそこはエルの母星だ。自分の星の未来を案じているのだろう。

 しかし、ふとエルが顔を上げ、ハクトの方を見る。

「そういえば、お前に相談があるんだが」

「相談?」

 年頃の女の子の相談といえばやはり恋愛相談だろうかとハクトは気持ちを切り替える。

「私はもちろん、兵器を作るわけだが、その兵器は私たちの分しか作らないと決めているんだ」

 折角気持ちを切り替えたハクトだったが、全く別の話題だったものだから気持ちを切り替えなおす。

 切り替えなおしたところで、エルの言葉のおかしな点に気付く。

「その『私たち』って軍隊全部?それとも...」

「言葉通り、私たちだけだ」

 ということは...。

「僕たちが戦うの?」

「ああ、そうだが何か?」

 無茶苦茶だ。ハクトは素直にそう思った。

 戦闘経験もなく、運動神経も悪いハクトがそうやすやすと戦えるわけがない。

 エルはそのことを察したのか、ため息をついて続ける。

「大丈夫だ。兵器の説明もきちんとするし、練習だって数やれば上手くなる。操作は簡単だし案ずることはない」

 私の作る兵器は性能も高く扱いやすいぞ、とエルは続ける。

「そこで、だ。やはり二人だけでは敵の兵器群に打ち勝つのは難しい。かといって信頼関係の欠片もない軍のやつらに兵器を使わせるのも癪だ。だから、ここで一緒に暮らす仲間を見つけようと思っている。その仲間探しをハクト、お前に頼みたいのだ」

 それが相談の要所ということだろう。エルは返答を求めてハクトの方をじっと見つめている。

「いいよ。僕はいいんだけど、どういう人を連れてくればいいのか...」

「三人連れてきてほしい。今からその三人の条件を言うが、長いからメモした方がいいぞ」

 エルの言うとおり、ハクトは棚からメモ帳とペンを一本取り出した。

「いいよ」

「まず一人目、金髪でツインテール、喋り方が敬語調で弓道に没頭する女の子」

「条件多いな...。しかも女の子?」

「私の兵器を使えば男女など関係ない」

 エルは自信ありげに頷く。

「次、二人目、茶髪でショートカット、バレーの得意な元気で男勝りな女の子」

「また女の子?」

「『男勝りな』女の子だぞ」

 エルは「ノンノン」と人差し指を横に振る。

「三人目、黒髪でロングヘア、今風な格好で無口、そしてコンピュータに強い女の子」

「全員女の子ジャン」

 すかさずハクトは突っ込みを入れる。運動神経の悪いハクトが言えることではないが果たして戦力になるのだろうか。

「私も女の子だからな。同性の人たちとつるみたいのだよ」

「それとこれとは別っ」

 再びハクトが突っ込む。

(わざとやってないか?)

「私の兵器を使えば男女関係ないといっているだろう」

 ハクトも理屈は分かるのだが、「はい分かりました」とは素直に頷けない。何と言うか、一般常識がハクトの思考を操作している、といった感じだ。

「しかもその条件に合う人が百パーいるとは限らないよ」

「その時はその時だ。早速明日から頼んだぞ」

 エルからの相談は最終的にはハクトが押し切られる形で終わったのだった。

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