第34話宮島の結衣

8-34    宮島の結衣

失意の底の哲二夫妻、哲二は一足早い夏の休暇を会社の重役に伝えて、自宅に籠もって悠斗の供養に没頭の日々に成っていた。

「あの子、通夜も葬儀にも来ませんでしたね」

「ああ、確かにあの子が着飾った時は綺麗だったから、その写真を哲斗が見て惚れたのだな、ほんとうに馬鹿な子だ」と大きな溜息を吐く哲二。


修平は警察に届けてはいたが、期待はしていないので、自分で探して日に何度か施設に連絡をしていた。

昼前に連絡した時に「修ちゃん、結衣ちゃんから荷物が今、届いたわ」

「えー、送った場所判りますか?」修平の声が上擦っていた。

「少し待って」順子は送り場所を見て中を開けてみる。

「あっ、喪服だわ」と呟くと住所を確認して「元住んでいた、岩国から喪服を送って来たわ」

「田舎に戻ったのか」修平は直ぐに新幹線の駅に向かった。

順子は「レンタルを覚えていたのね、意外と冷静だわ」と河野に話して「大丈夫よ、自殺はしないわ、運の強い子だから自分で命を絶つ事はないわ」と言ったが、でも携帯は電源が入っていない状態が続いて不安は続いていた。


結衣は翌日自分が住んでいた自宅の跡の場所に行って、前田の自宅に立ち寄ったが留守で、仕方無く宮島に向かったが、流石にこの距離は歩けないので電車の駅に向かった。

その電車の駅に神戸から新幹線を乗り継いでやって来た修平が、結衣の昔の自宅を求めて到着した。

向かいのホームの修平に気が付かない結衣が、上りの電車に乗り込んで二人は行き違いで会う事が無く、結衣は宮島口に向かった。

修平は地図を頼りに歩いて、結衣の自宅跡を探し歩いて「すみません、この辺りに昔、真中さんと云う家が有ったと思うのですが?」と尋ねたのは前田良子の母親だった。

丁度自宅に戻って来たのだ。

「どちらさまでしょうか?」

「僕は真中結衣さんと同じ施設で育った渋谷修平と申します、結衣さんを探しに来まして」

「ああ、真中さんの結衣ちゃんね、五月の始めに男性と一緒に来られましたよ」

「いえ、最近ここに来たと思うのですが?」

「いいえ、最近は見ていませんね」

「そうですか?昨日この近くから宅配便を送っていたので、この辺に来たのかと思ったのですが」

「お寺には立ち寄ったかも知れませんね」と前田は寺の場所を教えてくれた。


結衣は宮島口で電車を降りてフェリー乗り場に向かうと、遠くに鳥居が見えて五月に来た時に比べてくっきりと輪郭まで見えた。

麦わら帽子に布のバッグを提げて、髪を後ろで束ねる結衣の髪を夏の生暖かい風が身体を通りすぎて行く。

「今日は爽やかではないわ、一人は寂しいわ」と独り言を言いながら、二階のデッキから宮島を眺める結衣。

宮島に到着して厳島神社の方向に向かう結衣、数ヶ月前この場所に悠斗と来たのが嘘の様に感じる寂しい結衣、珍しく引き潮で大鳥居に歩ける。

結衣はサンダルで、砂浜と云うか石の混じった砂浜を鳥居に向かって歩くと、真下から見上げる大鳥居は大きく、自分が小さいと思い知らされる結衣だ。

携帯のカメラで撮影をする結衣、自殺の場所を探しているのに撮影をして居る自分が不思議に思うのだ。

厳島神社の回廊に入って、神社に参拝しておみくじを引いてみよう。

「きっと、大凶か凶に決まっている」そう思って開いたおみくじは大吉。

「変なの?」とても大吉の心境ではないのに「不思議」そう呟きながら、おみくじを結ぶ結衣が急に五月の事を思い出した。

。。。。。。。。。。 神殿にお参りして「おみくじを引く?」

「私は、辞めるは、今が大吉だから、これ以上は無いから」と微笑む結衣。

「じゃあ、僕は引くよ」と悠斗がおみくじを引いて、顔色が変わって「どうしたの?悪いの?見せて」と結衣が見に来ると「駄目!おみくじは見せたら駄目なのだよ」そう言ってポケットに入れてしまった。

結衣がお守りを買っていると「祈りを込めて結んでくる」と言って、回廊を駈けて行く悠斗を不思議そうに見送る結衣、お守りを買って歩き出すと、向こうから悠斗が戻って来て「取れない場所に結んできた」とご満悦の悠斗だ。

しばらく歩くと「ほら、あそこ」と指を指す方向を見ると、変わった結び方のおみくじが、回廊の脇に結ばれていた。。。。。。。。。

まだあのおみくじってそのまま有るのかな?変な場所だったからそのまま掃除されずに残っているかも?注意深く見ながら歩く結衣、人間の記憶は曖昧で、ここだと思った場所には何も無かった。

掃除されたのよと思いながら歩く結衣の目に、変わった結び方のおみくじが目に入った。

「あっ、あんな場所だった!」と声をあげると「取りましょうか?」背が高い男性が近くに居て結衣の言葉に反応して、そう言った。

「すみません、お願い出来ますか」男性は笑顔で変わったおみくじの結びを解いて、回廊の上の方から取り外して結衣に渡してくれた。

もう色が変わって、今にも破れそうなおみくじをゆっくりと開く結衣。

「大凶だ!交通事故に注意、もう死んじゃった注意してなかったのね、恋愛成就!してないよ、別れ多し!もう死んだよ、ラッキーアイテム、風?何よ!風って」独り言の様に言いながら、丁寧に読み続ける。

「子孫繁栄!肉親会えず、探し人見つからず、内臓弱し、金運悪い、仕事運他人頼み、大凶の筈だわ、子供が出来て恋愛が何とか成る以外は全滅ね」

結衣は財布におみくじを入れて回廊を出口に向かいながら「風?」と呟くそれは随分昔の事を急に思い出した。

そして悠斗の最後の言葉を思いだして「ゆ、い、、、えいが?」

「これって???」

それはまだ中学生の時

。。。。。。。。映画は何度も行こうと誘われたゴーストの映画だったが、以前の物とは異なって、恋人が亡くなって、ゴーストに成って現れる物語だった。

恋愛映画で、二人は見終わると早めの食事に行って「先程の映画良かった?」と聞く悠斗に「現実的ではないわ、死んだら終わりだもの、私のお兄ちゃんも、お母さんも、お父さんも一度も現れた事無いもの」と冷めた表現をした記憶が蘇ってその時「僕は、もしもあの映画の様に、出来るなら結衣の側で教えるよ、側に居るよってね」

「どうやって教えるの、話せない、姿は見えないでしょう、あれは映画だから見えたけれどね、霊が彷徨事何て、考えられないわ」と冷静な結衣。

「もしも、僕が先に死ぬ様な事が有れば、教えるよ、はいは右の耳に、いいえは左の耳に」

「何よ、それ?」と結衣が言うと、悠斗は結衣の右の耳に吐息を吹きかけた。

「いやーくすぐったいわ」と笑う結衣。

「判った!」

「判ったけれど、そんな事考えられないから、忘れましょう」。。。。。。。。。。。。

思い出したその時、結衣の顔から血の気が引いた。


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