第31話届かないメール

18-31      届かないメール

「哲斗さんは帰られていますか?」

「知らないわ、それよりあの子は?」と怒る美代に「あの哲斗さんが真中さんを強姦しようとしたのですよ!」

「貴方、何を喋っているの?判っているの?悠斗は交友事故で亡くなったのよ!」

「悠斗君が、強姦を阻止したのですよ」

「何の話なの?訳が判らないわ、変な事を気が動転している時に言わないで」と頭を叩きながら怒る美代。

確かに今この様な話をしても信じ無いだろう、でももしあの時に結衣が携帯で悠斗の声を聞かなかったら、哲斗の部屋に連れ込まれていたのだろうと、修平は状況から判断して間違いないだろうと考えていた。

その後の哲斗の不可解な行動がその事実を物語っている。

事実弟が亡くなったのに、自宅にも戻って居ない事実がその事を証明していると確信した。

そこに哲二が来て「渋谷君、もう君の役目は無くなったよ、ご苦労さんだった」

「貴方、この渋谷君が、変な事を言うのよ、叱ってやって」

「何をだ!」

「哲斗が強姦するのを、悠斗が命を張って止めたと」

「何の話だ、意味が判らんが、あの馬鹿は戻ったのか?」

「いいいえ、戻っていません」

「渋谷君、変な事を言って、美代を混乱させないでくれ、葬儀が終わったら、君の役目も終わりだ、もう我が家とは関係が無いからな」

「はい、判っています」とお辞儀をして悠斗の遺体を見に向かう修平だった。

棺桶の中の悠斗の顔は眠る様な綺麗な顔で、とても交通事故で即死の姿には見えなかった。

「悠斗、お前が守った結衣さんは無事だよ、安らかに眠れよ、結衣さんを今も見守っているか?」と無言で語りかけていた。

明日、近くの葬儀場で通夜、翌日葬儀の日程に成っているのを確認した修平は、これ以上この家に居ても混乱を招くと考えて帰ろうとした時、棺桶の中に携帯を見つけて、判らない様に、花で隠して密かに持ち出した。

警察が最後まで握り締めていたと近藤夫婦に渡したから、一緒に葬ろうとしたのだ。

電車に乗った修平は携帯を見たが充電が切れて、何も見れないがこの携帯に何か事実が隠されていて、結衣の事が判るのではとの期待持って修平は握り締めていた。

施設に戻ると結衣が「葬式に行くわ、悠斗を見たい」と言いだしたが、今行くととんでもない修羅場が待っている気が修平にはした。

頭にあの鬼の形相の美代の顔が浮かんで、とても連れて行こうとは言えない修平だ。

携帯を密かに充電する修平、順子は通夜には行きたいと修平に語ったが、園長でも殴りかかるのでは?との危険を感じるのだ。

でも最後の姿は見せてやりたい気持ちも大いに有った修平の頼みの綱は、哲斗の自供かこの携帯の中身だった。

「私、喪服無いわ」と言い出す結衣、何か行動が変わった様に感じる修平。

「レンタルで借りれば良いわよ」順子が言うと「借りて下さい、通夜には行くから、悠斗にさよならを言わないと、そして待っていてねと言わないと、私の事忘れると困るから」

その言葉に自殺の危険性を感じた順子は、益々結衣から目を離せないと思う。

修平は充電をした携帯に自分が送ったメールが二通

(大阪駅前で、お前の兄貴と結衣さんが会うらしい)

(お前の兄貴は結衣さんと結婚したいと両親に頼んだらしい)

着信履歴が結衣と自分から何度か来ている。

発信もしているが話が出来なかったらしく、結衣からのメール(お兄さんが私達の結婚を応援してくれるの、今、相談の為大阪駅前ホテルに向かっているのよ、嬉しいわ)

(大阪駅前ホテルのロビーで会うのよ)の二つのメール。

(兄は危険だ、会わないで)の悠斗の送ったメールは結衣に届いていない履歴が残っていた。

そして、最後の発信が結衣に送った数秒の会話だが、何を話したのだろう?修平は早速結衣に「悠斗が最後に結衣に電話をしているのだけれど、何を話したの?」と尋ねたら「結衣って呼んでくれたのよ」

「他に何か言わなかった?」

「栄華って言いかけたけれど、終わった」

「結衣と呼びかけて、栄華?」

「それだけだった、もう私は気が動転してその言葉も忘れていた、今修平兄ちゃんが聞くまで忘れていたわ、死ぬ前に栄華って何なの?」

「結婚して栄華を築きたかった?そうかも知れないな、結衣ちゃんを幸せにしたかったと云う意味かも知れない」

「私はお金も贅沢も欲しくない、悠斗と仲良く生活出来たらそれで良かった。。。。」それだけ言うと会話を失ってしまって再び窓の外をぼんやりと見ているだけだった。

この携帯のメールを修平が見せると、結衣に哲斗の行動が判ってしまうから、見せる事が出来ない修平だ。

翌日夕方、修平、順子、結衣が葬儀場に行く事に成っていたが、修平は二人を残して、一足先に葬儀場に向かった。

哲二夫婦が結衣を見て興奮して混乱したら困るから、携帯に残った文章を見せて落ち着かせる為だった。

会場の中を探したが肝心の哲斗の姿が見当たらない。

「哲斗さんはいらっしゃらないのでしょうか?」と美代に聞くと「会ってないわ、自分の弟が亡くなったのに、葬儀にも居ないなんて、何を考えているのか、私にも判らないわ」

「実はこの携帯を見て頂きたいのですが?」と差し出した。

「それは悠斗の携帯、貴方!棺桶から抜き取ったの、何と云う事をするの!」と興奮する美代の声に驚いて哲二が「どうしたのだ!」と二人の処に来た。

「貴様!」

「待って下さい、哲斗さんが大阪のホテルで結衣さんを強姦しようとしたのです、それを阻止したのが悠斗君ですーーー」と叫んだ修平の言葉に「どう云う事なのだ」と恐い顔。

「お父様もご存じの様に哲斗さんは過去にも女性で問題を起こされています、その哲斗さんが結衣さんと結婚したいと言われたのはご存じの通りだと思いますが?」

「先日オーストラリアから帰国して聞いたばかりだ」

「哲斗さんは、結衣を呼び出して大阪駅前のホテルで強姦を考えていたのです、それを知った悠斗君が、結衣に連絡したのがこのメールです」と差し出した携帯を見る哲二の顔色が変わる。

先日の修平の話で、悠斗と結衣が白浜のホテルで愛し合った事実を知っていたから、自分の彼女が実の兄に強姦される事実を知れば、それは気が動転して駆け付ける筈だ。

哲二が目頭を押さえて、天井を見て涙を堪えていたのだ。

「どうしたのですか?貴方」と言う美代に携帯を渡す。

(兄は危険だ、会わないで)の文字で直ぐに気が付く美代。

「何て事なの。...」そう言うと号泣してしまった。

もう絶えられない哲二が美代の肩を抱いて、二人は揃って号泣していたのだ。

修平はそっと部屋を抜け出して、結衣の到着を待っていた。

二人共自分の子供で、兄が弟の恋人を略奪しようとしての事故、この出来事にあの夫婦は絶えられるだろうか?の心配にも成った。

悠斗と結衣の恋愛を素直に許してあげていたら、こんな悲惨な事件は起こらなかったと思うのだろうかと考えていた。

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