第29話焦る二人

18-29     焦る二人

「待たせたな、渋谷君」

「いつもお世話に成っています」と丁寧にお辞儀をする修平、そこに美代が応接に入って来る。

会釈をする修平。

「あなた、ほんとうに困りものですよね、哲斗何処かに行ってしまいましたよ」

「自分の話を聞くのに何を考えているのだ」と怒る哲二。

「どうされたのですか?」

「長男がオーストラリアから帰国したのだが、驚く事を言い出して君に相談をしようと思っていたのだが居なくなった」

「先程お会いしました」

「そうか、一応挨拶だけはしたのか」と言う哲二。

「渋谷君は良く知っているから、聞きたいのだけれど結衣さんを息子のお嫁さんにどうでしょう?」美代が修平に尋ねたので、考え方が変わったのか?先日までは反対だったが、悠斗が説得したのか?

「えー」修平は自分が言おうとした事を相手から言われて、これは話が楽に成ったと思った。

「似合いのカップルだと思います」

「渋谷君世辞は要らんよ、正直一度会っただけでは判らないだろうが」そう言われて修平は始めて???と思った。

「結衣さんを哲斗の嫁に、本人がとても気に入っている様なので。。。」

「待って下さい」修平は話を遮って「今、何をおっしゃいました?お兄さんと結衣の結婚?」驚く修平。

「そうだが、悠斗は彩子さんと結婚するから。。。。」と言いだした哲二の前に片岡と彩子の密会の写真を並べる修平。

「これは、何だ!」

「これが彩子さんの正体です」二人は慌てて写真に目をやり、手に取って見る。

「悠斗さんと白浜に行かないで、京都にその男性と行っていたのです」

修平も冷静さを失って突然の兄と結衣の結婚話に興奮を抑えられなかった。

先程電話番号を教えたのは?慌てて修平は結衣に電話をしたが繋がらない。

両親が写真を見て「彼女と一緒に白浜に行ってないのなら、悠斗は誰と白浜に?」

「勿論、真中結衣さんと一緒ですよ!」

「えー」と両親の声が同時に驚いて出た。


そのころ、結衣は悠斗に電話で「悠斗、お兄さんが私達の結婚に力を貸して下さるのよ」

「何の話?今忙しいので後でかけるよ」

「はい、今会いに。。」で電話が切れた。


「二人は深い関係なのか?」

「はい、愛し合っています,二人を許して結婚をさせてやって欲しいのです」

懸命に頼む修平に困惑顔の二人。

「それじゃあ、兄弟で同じ女性を愛しているのか?」と言う哲二。

「それは、どう云う事ですか?」と尋ねる修平に美代が「哲斗が、結衣さんを好きだから結婚させてくれと、オーストラリアから帰国したのですよ」と修平に言うと「じゃあ、先程の結婚話は自分の事だったのですか?」驚く。

「それで、出掛けたの?」美代が言う。

「会いに行ったのか?」と哲二は慌てて家政婦に確認して今夜帰らないかもと話していたと修平に教えた。

そして、両親の説明で哲斗の今までの行いからして、真中結衣さんと関係を持とうとしている可能性が高い事を知った修平は、話を打ち切って家を飛び出した。

悠斗に電話をするが中々繋がらない。

工場の中に居て騒音で聞こえないのだ。

仕方が無いのでメールをする。

結衣にも連絡をするが電車の中のマナーモードで連絡が出来ない。

メールで何処に行く予定なのだと送るが返事は中々来ない。

焦る修平はとにかく施設に電話をすると順子が「大阪駅に行く」と言って出掛けたと教えてくれたので、急ぎ大阪に向かうが、気持ちは焦っていた。

悠斗にメールで(大阪駅前で、お前の兄貴と結衣さんが会うらしい)とメールで教える。

(お前の兄貴は結衣さんと結婚したいと両親に頼んだらしい)と再びメールを送る修平だ。

結衣も電話が繋がらないので(お兄さんが私達の結婚を応援してくれるの、今、相談の為大阪駅前ホテルに向かっているのよ、嬉しいわ)とメールを送った。

しばらくして、悠斗はメールを見て愕然として、慌てて電話をしたが結衣は出ない。

修平の電話が繋がって「兄貴は恐い男だ!結衣が危ない早く止めて、僕も直ぐに向かう」慌てる悠斗。

「場所は。場所は」と言う修平の言葉はもう聞かれていない。

オートバイに飛び乗る悠斗は一路大阪駅を目指して高速に向かった。

結衣は着信に気が付いて電話をかけた時、バイクの悠斗には聞こえない米原の高速の入り口に急ぐ悠斗だった。

電車の修平に連絡が出来なかったから、大阪駅前ホテルのロビーに到着寸前結衣は修平にメールで(大阪駅前ホテルのロビーで会うのよ)と連絡していた。

しばらくして、ホテルのロビーで、結衣には始めて会う哲斗が判らないが、哲斗は夢に出て来る程だから直ぐに見つけて「今晩は、近藤哲斗です。始めまして」と握手を求めて来た。

海外に長いからこの様にするのかと思いながら、握手をする結衣の手を汗が伝わった。

中々離さない哲斗、ようやく気づいて「今日は化粧が薄いですね」と殆ど化粧のない結衣の顔を見て言う哲斗。

「以前お会いしましたか?」

「いいえ、写真で拝見しました、食事でもしながら今後の事を考えましようか?」そう言いながらレストランに誘う哲斗。

「携帯はマナーモードにして下さいよ」と言う哲斗の言葉にバッグに入れる結衣。

バイクの悠斗がパーキングエリアで結衣の携帯に連絡をするが反応が無いので、益々焦る悠斗は再びバイクを走らせるが高速は渋滞で車の間を縫う様に走る。


哲斗はレストランで食事を始めて「悠斗とは何処まで進んでいて別れたの?」と意味不明の質問をし始めた。

「あの?別れていませんが」と答えると「愛人?」と質問してきて益々意味不明に成る結衣だ。

彩子と結婚をして、この結衣とは愛人で付き合うのか?

悠斗も中々出来るじゃないか?と考える哲斗が「愛人は駄目だ,結婚をしなければ駄目だよ」と突然言い出して「はい、私も愛人では困ります、結婚したいのです、お願いします」と頼み込む。

「そうだよな、女は結婚しなければ意味が無いよな」

「はい」二人の噛み合わない話が続く食事が終わってデザートが来た時、急に心臓を押さえて「うぅ」と言いだした哲斗。

「どうされたのですか?」と心配そうに聞く結衣に「心臓が悪いのですよ、薬がそのセカンドバッグに有ります、出して下さい」と指を指す。

探す結衣が「何も有りませんが?」と言うと「あっ、部屋に忘れたのか、これで取って来て欲しい、洗面台の処に有ります、歩けそうに無いのでお願いします」哲斗の常道手段で、この方法で何人もの女を襲っていた。

後ろに付いて行って、女性が部屋に入ると、合い鍵で直ぐに入って襲うのだ。


連絡の出来ない悠斗は渋滞の道路の脇を、猛スピードを出して走っていた。

突然前に大きなトラックが路側帯に出る為に左に飛び出した時、悠斗のバイクは止まれないで、避けられない。

トラックの後ろに激突して跳ね上がって、飛んでガードレールにぶち当たって止まった。

一斉に車から人々が降りて来て「救急車」「警察」と騒ぐ声が遠くに聞こえる。

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