第28話それぞれの思惑
18-28 それぞれの思惑
翌日近藤の家は朝から「哲斗さんが帰られました」と家政婦が美代に驚きながら伝えに来た。
「何故?哲斗が戻ったの?」と美代が驚く。
しばらくして台所で「暑い!「日本は何故こんなに暑いのだ」と台所で缶ビールを開けて飲みながら哲斗が騒ぐ。
そこに美代がやって来て「哲斗、貴方が何故今頃ここに居るのです!」驚きながら言った。
「やあ!お袋さん、大学院は卒業してきたよ」と明るく言う。
「後一年最低でも行かなければと、言っていたのに」
「もう、飽きたのよ、これからは日本で嫁でも貰って地道に暮らすよ」
「えー、何を言っているの?子供でも出来たの?」
日頃の行動からオーストラリアに女でも出来て子供が宿ったのかと思う美代だ。
「誰か後から来るの?」恐る恐る聞く美代に「誰も来ないけど?何?」と変な顔をしながら二本目のビールを飲み始める哲斗だ。
台所から戻ろうとする美代に「お袋さん、折り入って話が有るのだけどな」
「お金は充分でしょう」
「違うのだよ、女の話でさ!」
「えー、私の部屋に来なさい」
お手伝いに聞かれたら困ると思った美代は哲斗を自分の部屋に呼んだ。
部屋に入ると同時に「お袋、俺結婚したい女が出来たのだよ」
「外人は駄目ですよ!」と恐い顔の美代に「日本人だよ、お袋もよく知っている女の子だ」
「えー、私が知っている?」
「誰?榊原の孫娘―!それは駄目よ、絶対に駄目、兄が弟の婚約者を、それは駄目です」と怒る美代に「違うよ、逆だよ」
「逆って?」と怪訝な顔の美代に「弟が捨てた女を俺が嫁に拾ってやるのだよ」と微笑む哲斗。
「それ誰の事なの?」直ぐには気づかない美代。
「悠斗が惚れていた女だよ、榊原の娘に鞍替えしただろう」
そう言われて始めて思い出した美代。
「施設の女の子?いつ知り合ったのよ?」
「知らないよ、顔も写真しか見ていないよ!可愛い女の子だから、俺が引き取ってやろうかと思って!」
「哲斗、会った事も無い女の子を嫁にするの?」と声が変わる美代。
いつもながらこの哲斗には脅かされると思う美代。
「相手の気持ちも聞かないで、勝手に決めて!」
「悠斗に捨てられて可哀想だから,喜ぶだろう、可愛がってやれば俺に惚れると思う」
聞いていて呆れる美代だが、哲斗の嫁なら?一度言いだしたら、最後まで走ってしまう子供の性格を知っていた美代も流石に考え込んでしまうのだ。
夕方渋谷修平が来るまでに,この話を哲二に聞かせた方が今後の為に成ると思った美代は、二時過ぎに会社に向かった。
哲斗はビールを飲んで、暑い暑いと言いながらクーラーの部屋で昼寝をしてしまった。
美代の話を聞いた哲二は余りの話に驚いたが、冷静に考えるとあの真中結衣と云う子は綺麗で頭も良い哲夕方渋谷が来た時に相談してみるのも良いな、あの女の子の事は修平がよく知っているだろう。
最近は悠斗とは会っていないとの報告も受けていた哲二には、意外な結婚かも知れない。
昔から哲二は言いだしたら止まらない息子哲斗には手を焼いていたからだった。
総ては夕方修平に聞いてから結論を出そうと、美代と二人の話は終わっていた。
哲二の自宅を早めに修平は訪れて、悠斗が居たら話をしてから哲二に話そうと思っていたのだ。
携帯に連絡すると、今日は会社の仕事で関連工場に行っていて、帰るのは遅いと言われて、取り敢えず自宅に入って哲二の帰りを待つ事にした修平だ。
悠斗の部屋に案内されて、本とかを見ていると扉を叩く音に「はい」と返事をすると「悠斗かと思ったよ、君は誰?」と哲斗が修平に尋ねた。
哲斗には良い相手かも知れないと思い始めていた。
「悠斗の友人で渋谷修平と申します,お兄さんですか?」
「勉強の出来る、施設のお兄さんか?真中結衣さんと同じ施設の?」哲斗は急に馴れ馴れしくなった。
この修平に気に入られたら、あの女性との結婚もスムーズに進むのでは?と思った。
「施設の子を嫁に貰うのには、家族の方は反対ですか?」修平は家の中の様子を聞こうと哲斗に尋ねた。
「そんな事は無い、俺が教えた通りに答えれば上手く行くよ」
「どの様に」
「それは、その時でなければ、色々変わるから聞かれたら、答え方教えるよ」
「ほんとうですか?助かります」修平は百万の味方を得た気分に成っていた。
「携帯の番号教えてくれたら、メールするよ」私の番号はこれですと教えると「君だけでは駄目だよ、あの子の番号も教えてくれなければアドバイス出来ないよ」
考えて見れば伝言ゲームでは無いから、直接聞かないと無理だよと思った修平は哲斗に結衣の番号を教えた。
「まあ、ゆっくりして、親父はもうすぐ帰る」哲斗は嬉しそうに部屋を出て行った。
修平は兄の応援が有れば、話が上手く行く可能性が出て来たと喜んで結衣にその話をしたのだ。
全く異なる考えの二人が、お互いの都合の良い様に考えての行動に成っていた。
しばらくして、哲斗は修平に聞いた携帯に電話をした
「悠斗の兄の哲斗です、始めまして」
「悠斗さんのお兄さんと言えば、オーストラリアに行かれていた?」
「そうです、先程渋谷さんから相談を受けて電話をしました」
「すみません、ありがとうございます」
「一度お話がしたいので、大阪まで出て来られませんか?駅前のホテルで食事でもしながら今後の事を相談しませんか?」
「何時でしょう?」
「七時に大阪駅前ホテルのロビーでお待ちしています」
「はい、判りました、窺います、宜しくお願いします」
修平が哲二の自宅に自分達の話をする為に行っている事は、順子に聞いて知っていた結衣だ。
結衣は悠斗には敢えて話をしていなかった。
「修ちゃんが二人の為に色々してくれているみたいよ」
「はい、彩子さんの事で拗れると仕事にも萍郷が有る様なので、待っています」
順子の話を聞いて今は修平に総てを託そうと考えるのだった。
哲斗は上機嫌で、服を着替えて出掛けて行った。
今夜は結衣を部屋に連れ込んで、自分の物にしてしまおう、これで結婚は近いと思う哲斗だ。
その哲斗と入れ違いに、近藤夫婦が自宅に戻って来た。
「哲斗は何処に行ったの?」と探す美代。
「哲斗様はお出かけに成られました、今夜は帰らないとおっしゃっていました」と梶が美代に伝えた。
「何を考えているの?我が子ながら恐いわ」と言いながら応接に向かう美代だ。
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