第24話安芸の宮島

18-24

「可愛いわ、蛇って恐かったけれど、この蛇は恐くない」と見入る結衣。

ロープウェイで岩国城に向かう待合に向かう。

山麓駅から山頂駅までの僅かな時間のロープウェィに揺られると「遠く迄見えるわ」手を握る結衣の力が強くなった。

山頂に到着して少し歩くと岩国城が有る。

関が原の役の後、1600年(慶長5年)出雲の国富田月山城から岩国に移った吉川広家は、ここ横山の山頂に天主を、山麓に居館を築くことにした。1601年(慶長6年)、城の縄張りを行い、山麓の「上の土居かみのどい」から工事が始められ、1603年(慶長8年)山頂で要害の起工式をあげ、1608年(慶長13年)に完成し、城番が置かれた。

 岩国城は、岩国では横山城と呼ばれ、200mの山の頂上に築かれた。築城に使われた石材は、この山の西南約1.5kmの峰に沿って標高250mの岩窟から運ばれた。

 山頂にそびえる白亜の天守は、桃山風南蛮造りの山城、3層4階の上に物見を置いている。

「桃山風」とは、初期の天守のことであり、「南蛮造り」とは、岩国城の場合、3層目に屋根廂ひさしを付けず、3階より4階の方が大きく張り出している独特の構造のことをいう。

これが、同じ南蛮造りの様式をもつ小倉城(北九州市)では、4層目に屋根の廂がなく、5階が4階より外にはみ出している。

 岩国城は1608年に完成し、藩の象徴として仰がれていたが、7年後の1615年(元和元年)幕府の一国一城令により、山上の要害は惜しくも破却の運命に見舞われた。

 以来、山下の居館だけで藩の政治は行われ、明治維新を迎えた。

 昭和30年代になって、再建の動きが活発となり、1962年(昭和37年)古図面をもとに、模擬天守が外観復元された。

現在の天守の位置は、広家の創建当初、本丸の北隅にあったが、再建に当たっては、錦帯橋付近からの景観を考えて移された。

二人は最上階に上がって、眼下に蛇行した錦川、錦帯橋、城下町、遠く米軍基地や瀬戸の島々を眺めて「ほんとに遠く迄見えるわ」

「天気が良くて良かったね」

お昼を既に過ぎて居たが、結衣は全く気に成らない。

「お腹が空いたね」

「そうなの?」

「もう二時過ぎているよ」と時計を見て驚く悠斗、日頃から二食の結衣には全く気に成らないのだ。

「悠斗、あそこに菖蒲が一杯咲いているよ,行こうよ」

「待って、僕は何か食べたい」

携帯で次々と撮影する二人、楽しい!の一言の時間が過ぎて行く。

 城から降りて来ると、悠斗はもう食べ物屋に一直線。

「簡単な物を食べよう」とそばの看板の店の近くに来て「この店が武蔵で、あそこに小次郎って店有るよ」

「面白いわね、武蔵と小次郎なんて」

「どちらにする?」

「勝つのは武蔵だから武蔵にしよう」に入って行くとメニューを見ていると店員が「この辺りの名物の蓮根そばにしませんか?」と言うので「蓮根そば?」

「変わっていて楽しそう」と結衣が言うから「じゃあ、お勧めで」と直ぐさま注文をする。

しばらくして食べ始める二人は「美味しいわ」

「そばは色だけだね、うどんの様だ、旨い」お腹が空いていた悠斗は食べるのが早い。

結衣の食べ終わるのを待って、二人は店を出て散策を再開した。

「ここは、秋の紅葉の時が綺麗みたいだね」

「銀杏と紅葉が一杯在るわね、悠斗また秋に来たいな」

「そうだね!秋に宮島とここに来よう」

二人は、秋の紅葉に又ここに来たい、暖かい人に二人、いや三人に会ったからだ。

「菖蒲を見に行こう」うどんを食べて元気に成った悠斗は結衣の手を引っ張って菖蒲園の方に歩いて行った。

二人は夕方まで、菖蒲園から日本庭園、吉香神社、錦雲閣、吉川史料館、吉香公園、紅葉谷公園を散策して楽しい時間を過ごして、夕方旅館に戻った。

戻ると早速仲居の河野を探して,丁寧にお寺の事にお礼を述べた。

「今夜、一晩楽しんで帰ってね、カラオケスナックも館内に有るから」

「ありがとうございます。食事は七時でお願いします」二人は部屋に入ると早速露天風呂に入る。

昨日とは異なって,お互いの身体がはっきりと見えて「結衣、綺麗だね」とお風呂で抱き合っていた。

二度目の愛を確かめ合った二人は慣れも有って、すっかり新婚気分で食事処に向かった。

「真中さん、良い人見つけたわね、何処の大学生さん?」と河野が尋ねた。

学生同士で多少不安が有った河野は気に成っていた

「東大です,今三回生、将来は家業を継ぎます」と悠斗は河野の不安を感じて答えていた。

「えー、東大なの?頭が良いのね。真中さんも同じ?」

「いいえ、私はとても東大なんて行けません、聖璋女子です」

「えー、お嬢様学校の?」河野の驚き顔に「彼の両親に通わせて貰っています」と結衣が言ったので河野は意味が理解出来て「仲良しなのね」と笑って奥に消えた。


翌朝「真中さん、また来てね,二人でお墓参りに」と河野に見送られて「はい、今度は紅葉の時に来ようねって、彼と話していました。

今回は大変お世話に成りました。ありがとうございました」と二人は河野に深々とお辞儀をして旅館を後にした。

旅館を出て、宮島に向かう二人「少しだけ、見に行きたいのだよ、宮島を」

「私も殆ど覚えていないから、行きたい」

後部座席にお土産を乗せて,一路宮島へ「でも直ぐに帰らないと,飛行機三時だからね」宮島口の駐車場に車を止めて「ここから見えないわね、靄で」

「昨日まで良い天気だったのに、フェリーで行けば直ぐ近くだね」二人はフェリーに乗って十分の宮島に向かった。

途中で靄の中に大きな鳥居が見えて「あんなに大きかったのね」と結衣が懐かしそうに言うと悠斗が「デカイ、写真を写そう」と船の上から、結衣を、鳥居を背景に撮影して写して「中々良い」と自分で満足をしていた。

船が到着すると、手を繋いで船着き場から右に歩いて「鹿よ、ほら一杯居るよ」と嬉しそうに写真を写す悠斗。

「近くで見るとデカイなあ」と見上げる海上の大鳥居。

「あそこまで歩けるのよ」と結衣がいうと「嘘だろう、一杯水が有るのに」

近くの人が「二時間程で引き潮に成って歩けますよ」と教えてくれて「本当なのだ、歩きたいな」悠斗が言ったが「二時間以上先なら、間に合わないよ」結衣が飛行機の時間を教えて「じゃあ、厳島神社にお参りに行こう」朱塗りの回廊の綺麗な神社に入って行く悠斗だ。

次々と写真を撮影して、参拝客に二人の写真も撮影して貰って「ここで撮ろう」と大鳥居に二人で並んで海の鳥居を背景に写して貰う二人。

神殿にお参りして「おみくじを引く?」と尋ねる悠斗。

「私は辞めるわ、今が大吉だから、これ以上は無いから」と微笑む結衣。

「じゃあ、僕は引くよ」と悠斗がおみくじを引いて、顔色が変わって「どうしたの?悪いの?見せて」と結衣が見に来ると「駄目!おみくじは見せたら駄目なのだよ」そう言ってポケットに入れてしまった。

結衣がお守りを買っていると「祈りを込めて結んでくる」と言って、回廊を駈けて行く悠斗を不思議そうに見送る結衣。

お守りを買って歩き出すと、向こうから悠斗が戻って来て「取れない場所に結んできた」とご満悦の悠斗だ。

しばらく歩くと「ほら、あそこ」と指を指す方向を見ると、変わった結び方のおみくじが、回廊の脇に結ばれていた。

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