第21話初めての飛行機

 18-21    初めての飛行機

悠斗は五月の三日からの飛行機のチケットを用意して、結衣に連絡をした。

事前に結衣の予定を尋ねて、三、四、五が一番良いとの返事を貰っていたので、予約を入れていた。

羽田から岩国錦帯橋空港の航空券を購入して、空港からレンタカーを準備して結衣の学んでいた小学校を見せてあげようと考えていた。

修平が二人を監視している事を知っていた悠斗は「結衣を墓参りに連れて行こうと思っている、両親に内緒にしてくれませんか?」そう言われて修平は元々悠斗と結衣の味方だから「上手く誤魔化すよ、それより彩子さんは大丈夫か?」

「修平兄さんと遊びに行くと言うかな?」

「そうだな、久々に由奈に会いたいから、一緒に出掛けるか?」

「判った、僕が飛行機用意するよ」

「えー、構わないのか?」

「いいですよ、いつも世話に成っていますから」

「彩子さんには、何処に行く事にする?」

「お寺参りでもする事にしましょう、彩子は嫌いだから一緒に行くとは言わない」

「俺も両親の墓を探しに行く事にするか?」

「何処だった?」

「新潟だよ」

「それに決めよう」

修平には結衣と悠斗がこの旅行で結ばれて、結婚に向かうのだと思っていた。

日頃から悠斗の考えは何度も聞かされている修平だから、応援する事に躊躇いも無かった。


案の定彩子が修平に電話をしてきて、しばらくして今度は美代が電話で悠斗の行動の確認の電話をしてきたのだ。

二人共、彩子に聞いて確認の電話をしてきたと修平は思い、今後も中々二人の恋は難しいと感じたのだ。

帰った悠斗にその話をすると「新幹線の時間迄聞かれたよ」

「何て言ったの?」

「事前に調べていたから、助かったよ」と笑う悠斗だが、笑えない修平だった。


結衣は水上に「連休もバイトで明け暮れるわ、翔子さんは実家に帰るの?」

「金曜日の夕方から帰るのよ、結衣さんはいつも大変ね」と確認をしていた。

梶原には「始めて、外泊するけれど、寮に滞在する事にしてね、特に榊原さんが聞くと思うのでお願いします」

「判ったよ、お母さんに会っておいで」

そう言われると「ありがとうございます」と涙を流してお礼を言った。

予想通り彩子が確かめに来たと、金曜の夜遅く教えてくれた梶原だった。

金曜日には八割の生徒が寮から帰って行って悠斗が「大丈夫?見つからなかった?」と連絡してきて「大丈夫の様よ」と嬉しそうに答えたが、心はお互い興奮していた。


結衣は久々に秋に買って貰った服を出して、着ていく事にしていた。

羽田空港に十二時半待ち合わせなので、美容院に行ってから悠斗と会う事にする結衣、初めての旅行に興奮と期待をして寮を出て行った。

梶原が朝食の時、母親の様に気を使ってくれて「その服よく似合うよ」と褒め称えて見送ってくれた。

浜松町の美容院に入って、髪と化粧をしてもらって、美容院の人が「綺麗に成ったわね」と自画自賛していた。

浜松町の駅からモノレールに向かう切符の販売機の横で待つ結衣を、その場所を通る男性が見てから通り過ぎて行く程結衣の姿は目立っていた。

「お待たせ」と急に声をかけられて、振り向くと悠斗が反対側からやって来た。

「今日は綺麗だね、見違えたよ」

「この洋服しか無いので、久しぶりに着たのよ、似合う?」

「勿論だよ、行こう」

スイカで二人はモノレールの改札に入って行くANAの第二ターミナルに手を繋いで向かう。

お互いにバッグをひとつ持って「何か食べてから乗ろうか?」

「えー」

「もうお昼だよ」と悠斗が言うと「私、昼食べないから」

「そうなの、ダイエット?しなくても細いよ」と身体を見る悠斗、節約の為に昼を食べないとは言えない結衣に「簡単に食べよう」とそば屋に連れて入る悠斗。

天ぷらそばの悠斗にざるそばの結衣の横で、昼間から酔っ払いの二人が「お兄さん、別嬪さんだね」と結衣を見てからかった。

食事が終わって待合場所で「一時間半で到着だよ」

「私、恐いわだって飛行機初めてだもの」

「そうだね、飛行機初めてだね、大丈夫だよ」と安心させる様に言う悠斗、やがて案内が有って搭乗。

「他の飛行機より小さいね」結衣が小声で言うと「田舎の空港だからね、でも連休で満員だよ」窓側の席に結衣が座って、横に悠斗が座る。

「新幹線より相当狭いわ」と足元を見る結衣、これから飛ぶのだと思うと興奮をしていた。

やがて離陸に成ると「わー、凄い」と子供みたいに声を出す結衣に「ほら、東京の町が小さく成っただろう」と窓を指さす。

「ほんとうだ、どんどん小さく成って行くわ」と珍しそうに言う結衣。

「お寺は明日で、今日はホテルにレンタカーで行って終わりだよ」

「レンタカー借りているの?」

「学校とか、実家の場所に行くからね」

「そうか、もう覚えてないな、住んで居た場所判るかな」

「判るよ」

「近所の前田さんって家の、有紀さんって女の子と仲良しだったなあ」と急に結衣は昔を懐かしそうに思い出した様だ。

「飛行機は速いね」と飛行機に慣れたのか楽しそうな顔に成った結衣。

「遠くに行くのは始めてかな?」

「子供の時、何処かに連れて行って貰ったけれど、覚えてないわ」家は焼け落ちて、家族の写真も殆ど無い結衣にはもう家族の顔も朧気に成っていた。

二人で明日からの事を話していると、下降を始めて「山が見えるわ」と子供の様に喜ぶ結衣に目を細める悠斗だが、今夜の事が気に成るのだ。

しばらくして着陸態勢に成る飛行機に、異常に肩に力が入る結衣。

それを見て微笑む悠斗、飛行機はゆっくりと空港ビルに近づいて止まった。

「小さな飛行場ね」と安心した様に結衣が外を見て言う。

今日は五月晴れ時間は三時を少し過ぎていた。

空港を出るとレンタカーの場所を探す悠斗「あそこだ」と結衣の手を引っ張って向かう。

二日後の五日の三時までの予約をしてある。

車は中型のセダン、乗り込む二人。

「悠斗の車の運転初めてだね」

「時々運転しているよ、安心して」そう言って走り出した。

「今夜は何処に泊まるの?」

「岩国温泉、時間が有れば宮島にも行きたかったけれどね」

「大きな鳥居が海に有る処で鹿が一杯いる場所よね」

「よく知っているね」

「遠足で行ったわ」と遠い昔を思い出して言う結衣だ。

「今からね、小学校に行こうと思うのだよ」

「私の?」

「そうだよ」車は岩国の市内に入って「覚えている?」と尋ねる悠斗に「判らない」と寂しく答える結衣だ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る