第20話悠斗の計画

18-20    悠斗の計画

成人式の彩子は、悠斗に会場の近くに来てくれる様に頼んでいた。

東京に帰りたかった悠斗だったが、母の頼みも有って付き合う事に成って、東京に帰る道中に立ち寄った。

彩子は自分の友達に自慢したくて悠斗を呼んだのだが、悠斗には迷惑そのものだった。

同じ大学の山本逸子もこの場に来ていたのは、悠斗には計算外だった。

数日後、聖璋女子大学で一気に噂に成って結衣の耳にも聞こえて、悠斗はピンチに追い遣られる事に成る。

彩子は成人式の後も友人との二次会、三次会と次々と行ったが、悠斗は二次会で、学校を理由にその場を逃げていた。


寮に活気が戻って、結衣の同室の翔子も北海道から帰ってきて「真中さん、正月もここに居たの?」と聞かれて「はい、そうですが?」

「貴女、ここに閉じ込められていると噂よ」とはっきりと言うのだ。

学校が始まると同じに、悠斗と彩子の婚約の話が徐々に広がって、二人のツーショットの写真も学校の冊子に載ってしまった。

何も知らない結衣は、将来の近藤工業社長夫人候補に内定、婚約を発表との記事に仰天した。

嘘だろうと思っても、ツーショットの写真が掲載されて、紛れもない事実と受け止める他無かった。

以前も二人の噂は聞いていた結衣は、そうよね!私が悠斗の奥さんには成れないわよね。

変な夢を見た私が馬鹿よ、お金持ちの子供が多いこの学校では、この様な目出度い話はよく話題にする。

自分は悠斗とは友達で良いわ、変に夢を見ると後で痛い目に遭うからねと、何度も何度も自分に言い聞かせる結衣だ。

何も知らない悠斗は電話をしてくるが、全く元気の無い結衣に「どうしたの?元気が無いね」と聞く。

「別に普通よ」と答えるが悠斗には手に取る様に判る。

「何か有ったのだね、実はもう少し後で言う予定だったのだけれど、来年から自由に外出出来るから、五月の連休に結衣の両親の墓参りに一緒に行こうと思っているのだよ」と話した。

「えー、墓参り?何故悠斗さんが、一緒に行ってくれるの?」

「結衣の両親にお願いに行くのだよ」

「何を?」

「僕達の結婚だよ」

「えーー」と声が変わる結衣。

「悠斗さんは彩子さんと婚約しているでしょう、何故私と結婚出来るの?学校の冊子に出ているのよ」

「えー、それ何?」今度は悠斗が驚きの声をあげる。

「あっ、彩子さんだね、それは違うよ、母と交換条件で作った話なのだ、結衣は僕の話だけを信じてくれたら良い」

「どういう事?」

「電話では長く成るから、今度話すよ、とにかく僕は結衣以外の女性とは絶対に結婚はしないよ、信じて」

「うん、判ったわ」と言うと結衣は既に泣き声に変わっていた。

この数日間の思いが涙に成って流れていた。

「何も言わないで、僕の言葉だけを信じてね、彩子さんの言葉も両親の話も信じないで」

「うん、悠斗だけを信じるわ、本当にお墓に行けるの?」

「施設の朝野さんにも確かめたよ、結衣のご両親は錦帯橋の近くのお寺の墓地で眠っておられる」

「悠斗が探してくれたの?」

「調べたよ、連休を楽しみにして、空けて置いてよ!三日間」

「ありがとう悠斗」

「愛しているよ!結衣」

もう少し時間が経過してから言う予定が、結衣の落ち込みで話した悠斗、誰にも知られずに行ける事を祈るだけだった。

両親と彩子に知られると統べてが、壊れそうだったから恐かった。


二月に成って哲斗はオーストラリアに帰りたく無いと、あれほど気に入っていた留学を急に帰りたく無いと両親に訴えたが、もう少しだから頑張れと見送られて渋々帰って行った。

「どうしたのでしょうね?」と美代が哲二に尋ねると「あいつの、気まぐれだ」と一言で終わった。

哲斗は、結衣の写真が忘れられず、留学をしたくなかったのだ。

元々勉強には全く興味がない哲斗だから、目的が出来たら一心不乱の行動は子供の時から同じだった。


悠斗は中国プロジェクトが安定するまでは、彩子の気持ちを壊してはいけないと、美代に言われて適当に時間を作って彩子の機嫌を定期的にとる。

結衣には、家庭の複雑な事情を説明して「悠斗を私は信じているから、安心して」と言われてお互いの愛を確認していた。


四月に成って悠斗は直ぐに美代に「約束を守ってよ、お母さん」と必要に訴えていた。

美代は仕方が無いので「貴方が、彼女を連れ歩かないのが条件よ」

「判っています、僕は結衣を自由にして、バイトの時間を多くしてあげたいだけだよ」

「ほんとうよね、彩子さんに気づかれてもめる事は無いわよね」と美代は渋々、悠斗が持参した承諾書にサインをした。

書類を受け取ると、直ぐに速達で結衣の寮に送って「結衣、お母さんが書類を書いてくれたよ、今送ったから」と喜びの声の電話をして「ありがと、悠斗」結衣は素直に喜びを表した。

口には出さなかったが、自分一人が寮に半隔離状態だったから、これから自由に出来ると喜んだ。

今後は食事の無有と寮を空ける日時を申請すれば、何日でも外泊も可能になる。

しかし結衣は、余程の用事がない限り、朝夕は寮で食事を食べる事を考えていたのだ。

一日二食の生活が続いていたから、食費は結衣の生活には大事な事なのだ。


オーストラリアの哲斗は両親に相談もなく、六月で卒業の手続きをしていた。

何処にいても勉強はしないので、両親の金で遊んでいるだけの生活、会社は弟が引き継ぐ事が殆ど決定だから、自分は好きな事をして遊ぼうと考えていたが、弟の友達結衣に写真で恋をしてしまったから、もう我慢が出来ない状態が続いていた。

両親には哲斗を今後どの様に会社で使うかを、時々話し会うのだが結論はいつも出ない。

それ程、二人には困った存在に成っていた。


結衣の楽しみは、五月に行く両親の墓参り、施設に入ってから始めて生まれた場所に行ける喜びは口では表せない。




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