第19話全く異なる兄弟
18-19 全く異なる兄弟
正午前に粗方の来客が集まって、勿論彩子も綺麗な着物を着飾って、淳三郎と兄淳一と一緒にやって来た。
今日は仕事関係の数十人の集まりで、この席で榊原が予てから頼んでいる孫娘彩子と悠斗の婚約発表、並びに中国への一代プロジェクトの発表をする予定に成っていた。
「今日は一段と鮮やかですな」と哲二が褒め称えると上機嫌の淳三郎が「宜しくお願いしますよ」と案に約束の発表を促した。
哲二はあの秋の食事会を思い出して、結衣にこの様な着物を着せて着飾ったらさぞ美しいだろうと別の事を考えていた。
悠斗も全く同じ事を考えて、今頃何をしているのだろう?レストランのバイトか?と考えていると、哲斗が慌てた様子で会場に入ってきた。
哲二が新年の挨拶が終わって「私事では有りますが、この度我が家の次男坊悠斗と榊原淳三郎氏の孫娘さんの彩子さんが、結婚を前提としてお付き合いをする事を発表します」と挨拶をして、悠斗と彩子が中央に出てお辞儀をした。
彩子は満面の笑みで、悠斗は渋い顔でお互いの気持ちを素直に表していた。
会食の間中、二人は寄り添い仲の良さを強調していたが、面白くないのは哲斗だった。
弟が事実上後継者の様な扱いで自分は退け者状態、楽しく無い時間を過ごして、夕方悠斗に「お前は、良いとこのお嬢様を射止めて良いなあ、長男の俺は蚊帳の外だ」とふて腐れて言った。
悠斗は「違うよ!兄さん、あの後発表が有っただろう、中国の話」
「何だ!それ?」全く聞いていない哲斗に説明をして「僕の彼女はこの人だよ」と結衣の秋の食事会の写真を見せた。
「おお、可愛い子だな、名前は?」と急に興味を持つ哲斗。
「真中結衣って言うのだよ.....」哲斗はもう悠斗の話を聞いていなかった。
哲斗の頭には悠斗の女友達に、綺麗な真中結衣と云う女性の存在だけが心に残っていた。
「悠斗、ご苦労さんだったわね」と美代は今日の悠斗の行動に喜んでいた。
哲二も「悠斗のお陰で、仕事が上手く進みそうだ」と感謝の気持ちを伝えたが「この後も仕事が軌道に乗るまで頼むよ」と付け加えて新年会が終わった。
「お母さん、約束忘れないでよ」
「判っています、二回生に成ったら手続きをしますから、悠斗も彩子さんを怒らせないでよ」美代も悠斗の対応に釘を刺した。
淳三郎と彩子は上機嫌で、今後はお互い親戚として発展させましようと帰って行った。
翌日朝から哲斗は何処かに出掛けて、居なくなったが誰も気にも留めていなかった。
しかし、哲斗は東京に向かって昨日の悠斗の持っていた写真だけを考えて、聖璋女子大学の寮に行ったのだ。
全く何も考えていない哲斗が、いきなり寮に入ろうとしてガードマンと口論に成って「ここに、真中結衣と云う女生徒が居ると聞いてきた」と話してガードマンと小競り合いの末、追い返されていた。
結衣はバイトに出掛けて留守だったが、事務所には近藤と云う男性が尋ねて来て困ったと報告はされていた。
バイトから戻った結衣にその事実は伝えられて、携帯電話で「何用事だったの?ガードマンともめなくても良かったのに」と連絡をすると「結衣、僕は実家に居て、東京には行ってない」と言われて結衣には不思議な話に成った。
結衣には哲斗の存在が頭に無かったので、全く不思議な事件だった。
哲斗はその日、東京の風俗に遊びに行って夜迄遊んで、夜は正月でも営業している飲み屋に行き、ホテルに宿泊して眠ってしまった。
翌朝目覚めたのは、もう昼近い十一時前でホテルを出ると、再び結衣の寮に押しかけて「隠しているのか?」と騒いで、再びガードマンと衝突していた。
勿論結衣はバイトのため留守で、帰宅した時ガードマンに呼び止められて、人相と近藤と云う名前を聞いたが「私の知っている近藤さんでは有りません、気持ちが悪いです」と答えて寮に消えていった。
哲二は諦め切れないが、この学校の寮に入る方法が無いか考えて、再び夕食後寮に来て、様子を伺っていた。
明日の早出の寮婦が一人夜やって来たので「ここの寮の学生は、全く見かけないのだが?」と尋ねると「誰も居ないわよ、三学期は七日位に成らないと帰って来ないわよ」言われて「そうか、今は冬休みなのか」外国で学校に通っている哲斗は全く判らず、始めてこの時冬休みを知って、恥ずかしく成って帰って行ったのだった。
勉強が出来なくて、高校から海外での生活で、全く常識もない哲斗はそのまま大阪に帰ったが、頭の中には結衣の写真が刻まれていたのはそのままだった。
悠斗は結衣が二回生に成ったら、結衣の両親の墓参りに連れて行って、告白して両親の前で二人の結婚の約束をしようと考えて計画をしていた。
五月の連休なら二泊三日で行けるから、お金を貯めて準備の予定を立てていた。
四日に施設に電話をして、結衣の昔住んでいた住所を確認した悠斗に順子が喜んで「本当に、結衣ちゃんと結婚してくれるの?」と尋ねると「はい、卒業したら結婚します」と答えると「ご両親がお許しをして下さったの?」と尋ねる。
「はい、二回生から母が親代わりに成ってくれますから、自由に外出も外泊も出来るので、両親の墓参りに連れて行ってあげようと思いまして、それで住所をお聞きしたくて」
「そうなの、私も嬉しいわ、結衣ちゃんも喜ぶわ」
「内緒にしていて下さいよ、脅かすのですから」
「はい、はい、山口県の岩国よ、近くには錦帯橋が有るわ」そう言って詳しい住所を教えてくれたが、お寺は知らないから現地で調べて欲しいと言われた。
悠斗は早く五月の連休が来ないかと待ち遠しい、それまでに結衣の両親の墓の場所を調べようと考えていた。
哲斗は自宅に戻ってきて、後日また学校に行こうと考えていたが、家の誰も哲斗の行動を感知していない。
悠斗の見せた写真、悠斗の婚約で捨てた女なら自分が頂こう、社長は悠斗が継ぐのだから、自分は楽しく生きなければと考える。
社長を継ぐ為に、あんなに綺麗な女を捨てる悠斗を理解出来ないと、勝手な解釈でのぼせる哲斗なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます