第17話華麗なる変身

18-17   華麗なる変身

「悠斗とキスしているのを、彩子さんに見られたみたいよ、許嫁を横取りした様に叱られたわ」

「何を言っているのだろう、僕は一度も彼女を許嫁だと思った事はないよ」

携帯で先程の事を話す結衣、悠斗は両親にはっきりと次回会った時に言わなければいけないと思った。


数日後に取引業者の株主総会に哲二夫婦がやって来る日に、都内のホテルで夕食を食べる事に成っていた。

悠斗は三人の席に結衣を着飾って連れて行く予定にしていたが、哲二夫婦も彩子を招待していた。

昼から悠斗に連れられて、美容院に向かう結衣、この様な本格的にメイクと髪をセットするのは生まれて始めての結衣。

行った美容院も大きくて高い印象で、結衣には夢の様な場所だった。

髪が綺麗にセットされて、メイクをされると鏡の中の自分が自分で無い様な気がしてきた結衣。

「出来ましたよ」とメイクの人が鏡を見せて「これ?私ですか?」と思わず口走った結衣だ。

待合室の悠斗に「お待たせ」と微笑む結衣を見て「ほんとう!本当に結衣なの?」と見とれる悠斗は「綺麗だよ」と声が上ずってしまった。

「ありがとう」微笑む結衣。

悠斗には先日実家で見た彩子が霞んでしまう程の感激を感じていた。

心の中でホームランだったのだ!結衣は着飾れば誰にも負けない美人なのだ「やったー」と叫んでいた。

「少し時間が有るから、散歩してから行こうか?」

「いいわ」悠斗は着飾った結衣を連れて歩くと、道行く人が結衣を見て振り返る仕草を楽しんでいる。

悠斗も美男子だから、美男美女のカップルを本当に廻りの人達が振り向いて見たのだ。


予定の時間に二人が手を繋いでホテルのレストランに行くと、遠くから悠斗と結衣が会釈をして、哲二夫妻が会釈をしながら「あれ、誰だ?」

「知らない人だわ」

「聞いていたか?」

「知りません」とお互いが小声で話し合った。

同じ時に彩子が派手な服装でやって来て「叔父様、叔母様こんばんは」と言って「悠斗さん」と見た時、誰を連れて来たの?と怪訝な顔に成った。

「何方を連れて来たの?」と不思議そうに尋ねる美代に「おかあさん、真中結衣さんだよ、忘れたの?」と悠斗が言って「貴女があの真中さんなの?」と美代が二度驚いたのだ。

哲二が「判らなかったよ、驚いた」と哲二が笑ったが彩子は余りの驚きで声が出なかった。

その場の空気を考えて哲二が「みんな、座ろう」と五人が揃って椅子に腰掛けて「みんな、集まってくれて、ありがとう」と料理を注文して、その場を取り繕った。

食事の間も、何度も顔を見る哲二夫妻、彩子と見比べて清楚で綺麗だな、彩子が下品に見えるなと何度も頷くので「貴方、今日は変ですよ」と美代に窘められる哲二だ。

ホテルで小言も何も言えないので、和やかに食事が終わって「もう時間だから帰らないと」と結衣が悠斗に話すと「悠斗、二人を送って差し上げなさい」と美代が悠斗に命じて「はい、判りました」とタクシーの手配を頼んで「ご馳走さまでした」と深々とお辞儀をして結衣は帰っていった。

「叔父様、叔母様それじゃあ、また」と彩子は親しそうに帰って行った。

三人が帰って「驚いたよ」と哲二が言うと「私も驚いたわ」と溜息をついて「どちらが、お金持ちの娘か判らなかったな」

「ほんとうね、帰る時も丁寧に挨拶して帰ったからとても上品だったわ」

「あんなに、綺麗な娘だったか?」

「顔立ちは良かったと思っていたけれど、あれほど化けるとは思いませんでしたわ」

「私は思わず、彩子さんと見比べてしまったよ」

「貴方はジロジロ見過ぎで恥ずかしかったわ」二人の驚きは、帰りの新幹線の中まで続いていた。

一方タクシーの中では、三人は殆ど会話が無いまま寮に到着した。

「今日会ったのは偶然だから、気にしないで、喧嘩しないで下さい」と最後に険悪なムードの中悠斗が喋ってタクシーを二人は降りた。

しばらく、タクシーは停車して、悠斗が結衣に電話をするのを待っていた。

「何も無かった?彩子さんに意地悪されなかった?」

「何も言わないで、自分の棟に帰って行ったわ」

「そう、良かった、まさか彩子さんが来ていたとは知らなかった、ごめんね」

「良いのよ、今日は沢山お金使ったね、ありがとう悠斗」

「愛しているよ、今夜の結衣は綺麗だったよ、おやすみ」

「おやすみなさい、悠斗好きよ」でタクシーは走り去った。


彩子が今夜は完全にダウン状態だった。

「何故?あんなに綺麗なのよ」

「負けたわ」と独り言を言って拗ねていた。


人の考えは直ぐに変わる。

昨日まで猛反対の哲二が翌日から態度が変わって「美人の嫁も悪くはないな」と言いだしたのだ。

「貴方まで鼻の下を伸ばして、変ですよ」と美代に窘められて「あの彩子さんが、下品に見えたのには驚いたよ」哲二が言うと「どんなに綺麗でも、結婚は難しいですよ」と美代が確認の様に話した。

この日から少しは結衣に対する父哲二の考えが多少和らいだのは確かで、悠斗の目論見が一応は成功した事に成った。


彩子には大きなショックで、子供だと思っていた結衣が自分の本格的なライバルに成った事を痛感して、これまで感知していなかった結衣の行動の監視を、知り合い数人に頼んだのだ。

バイト先のレストラン、寮、家庭教師、彩子は数日後から結衣の行動を逐一知る事が出来た。

悠斗との携帯の会話は判らないが、それ以外の行動は監視されていた。

結衣の服装も髪型も化粧も直ぐに元に戻って、殆どの人の目に綺麗で清純な結衣の姿が見られる事は無かった。

気恥ずかしさで、食事から帰ると直ぐに、洗い落としてしまったから、唯、梶原は偶然食事から戻った結衣を見ていた。

あの子、今夜は何か有ったの?素敵な服装に化粧もしていたわ、本当に着飾ったら綺麗ね。

こっそり、夕食が必要ならと別に取ってあったので、帰ったのを聞いて棟に来て見たのだ。

結衣には服も靴もバッグも宝物で、直ぐにしまってその日から着る事はなかった。

自分のバイト代の数ヶ月分の品物だったから~~

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