第16話困る近藤夫妻

18-16      困る近藤夫婦

結衣は悠斗が今夜来た意味が総て判って、敢えてその様に話していた。

両親が自分と悠斗の結婚に反対だと察したから、この学校に自分を入学させたのも、これ以上自分の息子悠斗に近づけない為だと判ったからだ。

でも理由はともあれこんな立派な大学に入学させてくれた事に、感謝しなければと思う結衣だ。

結衣は悠斗が彩子との将来の結婚の為に、実家に呼び戻された事に驚いて自分の処に来てくれた事はとても嬉しかったが、今それを言うと後には戻れないと知って冷たくしていた。

結衣はあの大きな家の奥様に成れる事は絶対に無いと、自分に対して戒めをしていた。

その様な夢の世界が現実成る事はないと歳を重ねる度に悠斗は好きだけれど、結婚は無理だと考える様に成っていた。

そばを食べ終わると時間が迫って、結衣は悠斗と寮の横の路地で再びキスをして「悠斗、ありがとう」と言って別れた。


別れてしばらくして、哲二が怒りの電話をかけてきて「急に、東京に帰ったのは何故だ」と怒鳴りつけた。

今月一杯自宅で過ごして来月帰ると考えて、もう一度今度は淳三郎も招いて食事をしようと考えていたからだ。

哲二は先日の美代との話に出た修平と結衣を交際させる話をする為に、盆休みを利用して東京に向かう事にしたのだ。


翌日早速、東京のマンションを訪れた哲二に「僕は結婚するなら、真中さんに決めているから、榊原さんを押しつけないでよ」と開口一番自分の気持ちをぶつける悠斗に「悠斗、考えてくれ、会社の体面、家の格も有るから、悠斗が真中さんを好きな事は知っているが結婚は別だ、結婚は家と家の結びつきだ、判るか」説得をする。

「結衣に家が無いから?」

「それも有る、榊原の家と我が家が親戚に成れば、今後の会社の経営にも大きなプラスだ、もし悠斗がどうしても真中さんと交際したいなら、愛人にしなさい」と哲二が言うと「お父さん、そんな事僕には考えられないよ、結衣を愛人にするなら、家を出る」と怒り出す悠斗に今度は驚く哲二。

家を出るとの言葉は哲二には大きな衝撃に成った。

悠斗はマンションを飛び出して行って、困り果てる哲二は取り敢えず修平に会って事情を聞かせて対策を考え様とした。

夕方、修平に会った哲二が事情を話すと「悠斗君、本気かも知れませんよ、結衣さんを心から愛していますから、僕の入り込む余地は無いと思います」

「家出までして、あの子について行くのか?」

「多分そうすると思います」

「益々困った、身分違いの結婚は不幸の始まりだ」と頭を抱える哲二。

「彼女が居なくなったら、悠斗はどうすると思うかね」

「それは、どう云う意味でしょう?」

「例えば、事故も有る、他の男性とあの子が交際して去って行くとか、有るだろう」

「結衣さんが他の男性を好きに成る事は無いと思いますよ、悠斗さんが居る限りは、事故とかで結衣さんがもしも亡くなったら、悠斗は生きて行けないから、後を追うかも知れませんよ」と言った修平の言葉に驚く。

「えー、悠斗が自殺をすると言うのかね」

「はい、それ程好きだと思います」その言葉に哲二は自分が考えていた作戦を口に出すのを躊躇った。

哲二は修平と別れて、悠斗に与えたおもちゃのつもりが、大きく心にのしかかって帰って行った。

修平は「もう少し時間が経過して、気持ちが変われば何か手立てが有るかも知れませんが、今は見守る以外に方法は無いと思いますよ」と哲二に言い放ったのだった。


自宅に重苦しい雰囲気で帰った哲二に、美代は「上手く話せた?」と聞いた。

暗い表情の哲二に察して「渋谷君が断ったの?」と言った。

「違う、悠斗が家を出ると言い出した」

その言葉を聞いて「えーー、それはどういう事なの?」

「あの子がそんなに好きなら愛人にしたらと言ったら怒って」

「貴方それは言い過ぎよ、まだ子供で一途な悠斗に愛人話は駄目でしょう」

「それで、渋谷君にも話が出来なかったよ」

「渋谷君はあの女の子の事は、どの様に?」

「二人は愛し合っているから、あの子が居る限りお互い離れないだろうと言っていたよ」

「じゃあ、真中さんを何処かに行かせれば良いのね」

「お母さん、それは違う、彼女が事故か何かで死んだりすれば、悠斗が自殺すると渋谷君が言うのだよ」

「それじゃ、何も出来ないの?二人を結婚?無理、無理」そう言うと頭を掻いて、髪の毛をかき上げて困った表情に成った。

結局二人は徐々に、別れさせる方法と彩子を悠斗に近づけて、悠斗が彩子に興味を持つ様に仕向けるしか手立てが無かった。


二学期に成って悠斗は、彩子に比べて化粧も服装も地味な感じだから、両親に良く思われないのでは?結衣に綺麗な服装をさせて、綺麗に化粧をさせて一度会わすのは良くないか?と考えていた。

自分も一度綺麗に着飾った結衣を見てみたい気持ちも有ったからだ。

悠斗は結衣を伴って、デパートに向かって「悠斗!何を買ってくれるの?」嬉しそうに尋ねる。

「秋の服だよ、殆ど持って無いだろう?」

「デパートは高いよ、安いお店に行けば沢山買えるわよ」と躊躇う結衣を連れて、秋物のワンピースを買って、ハイヒールを買う悠斗。

「悠斗のバイトのお金使っちゃうわよ、上等のヒールだから」

「実はね、二週間後に両親が東京に来るから、改めて会って欲しいのだよ」

「えー、何か有るの?」

「何も無いよ、綺麗な結衣が見たいからだよ」と言って笑う悠斗。

デパートでのデートを楽しんだ二人は、買い物袋をぶら下げて結衣の寮まで送って、夕方路地でキスをして別れた。

その様子を偶然彩子の友人に見られていたのを二人は知らなかった。

その日の内に彩子に伝えられて、彩子は自分の未来の旦那様を寝取られた心境に成って怒った。

彩子が最初に行った事は悠斗の母美代に大袈裟に話して、悠斗を牽制させる事、翌日結衣の寮の棟に来て結衣を呼び出した。

「真中さん、貴女昨日の夕方悠斗さんと一緒だったでしょう?」

「。。。。。。」

「私の友人が見たのよ、悠斗さんは私の許嫁なのよ、知っているの?」

「知りません」

「じゃあ、今言ったから今後は忘れないでよ、次回は許さないから、覚えておくのよ」

「。。。。。。。」彩子は捨て台詞を吐いて帰って行った。

自分は一度もキスをしてないのに、この女がキスをしていたと聞いて逆上していたが、お金持ちのお嬢様と自負しているから、それ以上の行動は慎んだのだ。

腹の中は憎悪で一杯に成っていた彩子なのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る