第14話誘惑

18-14     誘惑

一人寂しく寮に居る結衣に、梶原達が食べ物飲み物を持ち寄って、ささやかな宴会をしてくれた。

自分達も明日からお盆で帰るから、警備の人のみに成って二日間は朝夕の食事が無いのだが、七時に帰らないとガードマンが戸締まりをしてしまうのだ。

「これは、明日の朝と明後日の朝食べて」と梶原がパンと牛乳の袋を差し出した。

「叔母さん、コンビニで買うから、構わないのに」と遠慮する結衣。4

「朝は成るべく長く寝たいでしょう」

「そうよ、家の娘は昼近くまで寝ているよ」と前田と云う四十過ぎの女性が笑いながら話した。

食堂の片隅で結衣を囲んで八人程の叔母さんが、ビール、チューハイ、ウーロン茶と持って来て、食堂の残り物で色々な料理を作って食べるのだ。

「真中さんも飲んでみる?」とビールを差し出す。

「まだ、飲めないのですよ」

「構わないわよ、一杯位」とグラスを持たせて、ビールを注ぐ。

「じゃあ乾杯」と梶原の音頭でささやかな宴会が始まった。


一方近藤の家では食卓に豪華な料理が並んで、哲二が「悠斗ももう二十歳だ、さあ飲もう」とワインを持って注ごうとしている。

美代も同じ様に「彩子さんも飲みなさい、これは美味しいわよ」と勧める。

悠斗は「それじゃあ、一杯だけ」と哲二のワインを受ける。

「さあ、彩子さんもどうぞ」彩子は遠慮なくグラスを差し出す

「美味しそうですわ」と言いながらワインを注いで貰う。

彩子は始めから、泊まる予定で来ているのが時間と距離で判るのだ。

悠斗は先程のお手伝いの茂木の話は本当なのかも知れないなあ、両親は自分と結衣の結婚は望んでいないのかもと考えていた。

「乾杯」「乾杯」と飲み始める両親と彩子、悠斗だけが少し口をつけただけで、料理を食べながら考え込んでいた。

「悠斗、ワインは口に合わないのか?」と哲二が尋ねる。

「そうでもないよ」

「彩子さんのグラスもう空よ、貴方注いであげて」横から美代が言うと「彩子さんは飲めるのだね」と笑いながら二杯目を注ぐ哲二。

「見る度に綺麗に成るね」と褒める哲二に「お父様、恥ずかしいですわ」と照れ笑いの彩子。

確かに綺麗に化粧をして、高価な洋服に装飾品で着飾った彩子はお姫様の様に高い衣装が美しいのだ。

結衣は化粧もしない。

いや出来ない着飾る服も無い。

勿論装飾品も何も着けないから、目の前に居る彩子とは雲泥の差、子供と大人の様に思う悠斗だ。

栗色の髪を綺麗にセットしている彩子と、いつも黒髪を後ろで束ねるだけの結衣の違いは歴然としていた。

悠斗は、結衣もこの様な服装に化粧をしたらどれ位綺麗に成るのだろう?心が綺麗なのは判っていても、実際の着飾った美しさを見たいと思う悠斗だ。

「悠斗、何を見とれているの?彩子さんが綺麗からぼんやりとして」と母美代にどの様な行動をしても、彩子に結び付けている様に思える悠斗だ。

もう一人の家政婦の梶が、料理を運んで来て「お肉が焼き上がりました」と四人の前に並べる。

悠斗はその料理を見て、結衣の明日からの食事の事を不意に思い出していた。

「明日から二日間は、寮の食事が無いから、外食するのよ、一人で食事するのは、何を食べても美味しくないね、悠斗と食べると何でも美味しいのにね」と微笑んだ結衣の顔を思い出して微笑むと「悠斗さん、何か思い出したの?」と尽かさず話しかける彩子に「別に、何でもない」と答える。

「また、子供の事思い出したの?」と美代が嗜める様に言った。

「子供じゃ無いよ」と怒る悠斗。

「今、そんな話をしないで、楽しい食事にしよう、綺麗な彩子さんも食事が不味くなると。。。。。」哲二が二人を止める。

しばらく経過して彩子は二杯目、三杯目と飲み干す。

「本当に強いね」と哲二が言うと「ほんのり、頬が赤くなって、色っぽいわよ」と美代も褒め称える。

悠斗はワインを飲むのを中止して、ビールを飲み始めても、心の中は茂木の話した言葉と自分が呼び戻された理由が墓参りではなく、今夜の食事会だと決め付けていた。

両親は最初から最後まで彩子を褒め称える。

悠斗は美味しくない酒と料理を食べて、早くこの場を立ち去りたい気持ちで一杯だった。

長い、長い食事が終わって、立ち上がった彩子が酔っ払ってふらふらしていると「悠斗、彩子さんを部屋に案内してあげなさい」と美代が命じて悠斗は仕方無く身体を支える。

「ありがとう、悠斗さん、私酔ったみたい」と反対に抱きついた彩子に「しっかり、して下さい」と抱き起こす悠斗、その様子を両親は嬉しそうに眺めていた。

目が合うと「私も酔った、酔った」と惚ける哲二と美代、二人を残して食堂を出て行った。

彩子は完全に身体を悠斗に預けて、仕方無く背負う悠斗、背中に薄着の彩子の乳房の膨らみが当たる。

これも彩子の作戦で「だめー酔っちゃったわ」抱きつく。

「沢山飲むからですよ」そう言いながら、二階の客間に連れて行く悠斗。

「家政婦さん、お水下さい」と大きな声で叫ぶ悠斗だが、誰も返事はしないのだ。

彩子が悠斗を誘惑して、虜にしようと立てた作戦。

部屋に入ってベッドに彩子を背中か降ろす悠斗「苦しい」と言い出す彩子。

「おかしいな、家政婦さん水を持って来ないな」と扉に向かうと、嘔吐くマネを始める彩子だ。

「大丈夫」と背中を摩ると「胸が苦しいわ、背中のファスナーを下げて貰えない?」と言い出す彩子。

仕方無く少し下げる悠斗に「もっと、下まで降ろして」その言葉に勢いよく下げると、ブラジャーのホックの下まで下がってしまって「すみません」と急に謝る悠斗。

「楽に成ったわ」そう言って振り返ると胸が半分ブラジャー姿に成って艶めかしい。

悠斗は「水を貰って来ます」と抱きつこうとする彩子の手を振り解いて、慌てて扉を出て行った。

「ふふ」と含み笑いの彩子は、悠斗がまだ女性の経験が無いのだと感じ取っていた。

しばらくして水を持って悠斗が戻ると、彩子はベッドのシーツの中に居て「水飲んで酔いを醒まして下さい」と悠斗が近づくとシーツの中から手を出して「ありがとう」とコップを受け取った彩子の身体からシーツがスルリと落ちて、下着姿が悠斗の目に焼き付いた。

唖然と見る悠斗に「悠斗さん」と誘う仕草の彩子、急に我に返って「お休みなさい!」と叫ぶと悠斗は慌てて部屋を出て行った。

彩子が挑発はこれで充分だわ、自分の姿が脳裏に残って近い内に自分達は結ばれると思うのだった。

悠斗は自分の部屋に戻っても先程の光景が残って、結衣の身体を想像していた。

彩子の思惑とは些か異なった様だ。

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