第8話ある計画

 18-8       計画

再三に渡る説得に順子も、ようやく近藤の要求を飲む事にしたのは年末だった。

クリスマスに両親が来て、結衣の事を真剣に考えているから、東京の大学に行かせて欲しいと懇願したのだ。

結衣自身は勉強も出来たので、東大は無理でも公立の大学には楽々合格する学力を持っていたから、本人は行きたいと順子に伝えていた。

順子の承諾は直ぐさま悠斗に連絡されて、結衣が東京に来るとの話は悠斗の勉強に一層の拍車がかかった。

今年合格しなければ、総ての話は消えるとも悠斗には哲二は話していたのだ。

近藤の示した条件は結衣の学校は公立ではなく、私立の有名な女子大学で寮に入れると云う事だったが、その事は来年の受験の前まで、結衣本人には言わないで欲しいと言われていた。

近藤の言い分は、自由に東京で生活させると結婚迄に妊娠と云う不細工な事を避けるのが目的で、二人には卒業後結婚をすると決めたら結婚させれば良い。

まだまだ時間が有るから気が変わる事も考えられるので、慎重を期す為だと説明をしていた。

順子にはとても二人の気が変わるとは思えなかったが、哲二の意見はもっともの事だと納得していた。

順子には二人の交際は前世からの、何か言葉では言い表せない何かが有る様な気持ちさえしていた。

とにかく仲が良い、始めて悠斗がクリスマスに来てから二人をいつも見ていて順子には、二人が別れる事は考えられなかった。


年が変わると直ぐに受験がまっていた。

今年の悠斗は両親の勧めも有って私立の大学も受験をした。

去年は一本で、緊張してしまって失敗をしたと話したのが影響して、私立も受験をしたのだ。

楽々と合格に両親は気分を良くして、今年は確実だと思って修平に尋ねると「完璧です」との答えにもう祝賀モードの両親だった。

修平の予想通り見事合格、いの一番に結衣に連絡する悠斗、両親は二の次だ。

これで、来年から結衣と東京で学生生活が楽しめると喜ぶ悠斗だ。

もう近藤夫婦は大喜びで、我が子を称賛して、社内でも親馬鹿ぶりを発揮して、重役達にからかわれて楽しい哲二だった。

春休みには悠斗は時間を作って、結衣の施設を訪れて晴れて楽しい日々を過ごして、始めて本格的なキスをしていた。

いつもは額とか、頬に簡単なキスはしていた二人だったが、この日の二人は愛を確かめる様なキスをして「結衣、愛しているよ」「私も悠斗が大好きよ」と見つめ合っていた。

悠斗には、来年結衣が東京にやって来て、大学に通う日々を夢見る毎日に成った。

修平は今年四回生来年には就職の予定が、哲二の計らいで大学院を目指す事に成った。

それは、修平に結衣と悠斗の仲が進まない様に、監視役も同時に担っていた。

二人に間違いが有って、勉学に支障をきたしては成らないが言い分だったが、哲二夫婦にはもうそろそろ、二人が別れて欲しい気持ちも有った。

子供の気分を損ねない様に、大学に合格したのだから、近藤家に相応しい嫁を将来は迎えたい気持ちが大いに有ったのだ。

予てからの業界内で有名なタイヤメーカーの会長の孫娘榊原彩子、美人で頭が良くて会合の席で時々、哲二は榊原淳三郎から「将来は孫娘を、君の息子の嫁に貰って欲しいよ」と前回の新年会の時にも言われていたが「まだ東大受験の浪人ですから、合格してからゆっくりと話しますよ」と言葉を濁していた。

彩子は悠斗とは一歳下で今年東京の私立大学に合格していた。

哲二が結衣に行かせようとしている有名なお嬢様大学と同じ大学なのだ。

哲二夫婦がこの大学を選んだのには理由がもう一つ有って、結衣に自分と悠斗は異なる世界の人間だと思い知らしめる事が有った。

もう、悠斗の心から結衣を消す事を考える夫婦、自分の慈善行為で我が子が本気で施設の子供を好きに成る事は予想外の出来事だったのだ。

唯、その結衣と渋谷修平のお陰で東大に入学出来たのも事実、その為に二人には過分の待遇、お礼も充分に尽くしたと夫婦は思っていた。

もう二人の役目は終わって、二人を悠斗から引き離す算段を始めていた。

しかし、悠斗の気が変わらない限り機嫌良く東大で勉学をして貰わねば成らないから、両にらみの作戦だった。


秋に成って順子が結衣に、東京の私立の女子大学に入学する様にと話した。

結衣は聞く日まで東京の公立の大学を目指して勉強をしていたので、順子の言った女子大学は全く考えていなかった。

寮生活で、お嬢様学校、お金持ちの頭の良い女性が行く処だと思っていたから、結衣には遙かに高い高嶺の花だった。

その大学なら結衣の実力だと推薦で入学出来る事を、近藤から知らされて結衣に伝えたのだ。

高額の学費の問題だが、近藤が出すなら学校の推薦は直ぐにして貰えるのだ。

そう言われても思案の結衣は電話で悠斗に相談をすると、悠斗は簡単に「親父の好意だから気にしなくて良いよ」と答えていた。

数日後結衣は順子に「ご厚意に甘えさせて頂きます」と返事をした。

将来義理の父に成る哲二の機嫌を損ねたら良くないとの思いが、結衣の不安と遠慮を超えていた。

その話を悠斗にすると「もう決まりだね、結衣の実力なら楽々合格だ、良かったね」と喜んだ。

悠斗の気懸かりが、この聖璋女子大学が全寮制の厳しい学校で男が出入り出来ない事だった。

親父は結衣の勉強と生活の為に、この大学を選んでくれたと考えていたが実家の無い結衣には牢獄と同じだったのだ。

そんな事を全く考えていない結衣、私立の女子大学では有名なお嬢様学校だと云う事しか考えていなかった。

休みの日に外出しても夕食時に帰らなければ、寮に入れないとか、規則が多く休みに実家に帰るには申請が必要で帰宅時間も制限されていた。

結衣は実家が無いから、外出しても夕方には寮に戻らなければならないのだ。

哲二夫婦はこの厳しい大学に入学させて、修平に監視させれば、結衣の行動は制限される。

悠斗の交際も大きく制限されるから安心だ。

そこに悠斗に新しい女性を紹介すれば、結衣を徐々に忘れるだろうと考えていた。



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