第5話大きな近藤工業
18-5 大企業近藤工業
結衣が高校生に成ると、悠斗は受験勉強で忙しく成る。
修平の様にいつもトップでは無い悠斗、でも両親は結衣に会ってはいけないとは言わない。
それは悠斗にそれを言えば、受験勉強も止めてしまう可能性が有ったからだ。
哲二は順子に有る提案をしていた。
それは信じられない内容で順子は驚いて、何度も近藤に確かめたのだ。
結衣を夏休みにアルバイトで、近藤工業に来て欲しいという内容だったのだ。
勿論近藤の自宅に住み込みで、勉強も悠斗と一緒にして欲しいと云った内容だった。
部屋は勿論別々で間違いの無い様に、監視監督をすると申し出られたのだ。
元々施設の子供達は高校生に成ったら、バイトをしても良いと許可は出ていたから支障は無いのだが、流石に順子は驚いたのだ。
そして哲二は悠斗の嫁に将来は結衣さんを貰いたいのだとも付け加えていた。
順子は嫁の話は信じられないので結衣には出来なかったが、二人が付き合っていて、夏休みに遠く迄バイクで来るとその時間も勉強のロスに成って、受験に影響が有ると考えての苦肉の策だと思った。
将来二人を結婚させようと言う両親の言葉に負けて、順子は結衣が承諾すれば許可をすると答えていた。
悠斗は早速結衣に電話で、バイトの事を話すと「嘘!」と喜びを声で表したのだ。
順子が結衣に話すと、勿論二つ返事で承諾に成って、夏休みが待ち遠しい二人に成っていた。
勉強も一緒に夜出来て、昼間は事務の仕事の手伝いと結衣には最高のバイト先に成るのだ。
夏休みに成って、当面の服とか身の回りの物を宅配便で送り、結衣は電車で悠斗の自宅に向かった。
初めて行く悠斗の自宅、何度も会っているが悠斗の自宅も会社も知らない結衣。
貰った住所を頼ってバスを乗り継いで、暑い夏の日差しを浴びながら、ようやく目的の場所に到着した。
大きな会社の正門に圧倒されて「すみません、近藤工業さんってここでしょうか?」と入り口の横の守衛に尋ねる。
「そうですよ、お嬢さんは何をしに来たのかな?」六十歳前後に見える守衛が尋ねた。
「ここでアルバイトで明日から働く真中結衣と申します。事務所に今日来る様に言われましたので」と言うと「えー、君はまだ高校生でしょう?この会社では高校生のバイトは使わないよ、何かの間違いでは?」と冷たい態度。
自動車の部品を製造している近藤工業は業界でも有名で規模は大きく、殆どの自動車メーカーがこの近藤工業とは取引が有った。
臨時社員は採用していたが、バイトは殆ど来る事は無くて、それも女子の事務員のバイトは過去に一度も無かったので知るはずも無かった。
「車の出入りも多いから、早く帰った方が良いよ」不安に成った結衣は「この辺りに、近藤工業って会社他に有りますか?」
「無いと思うよ、浜松と九州には工場が有るけれどね」と愛想のない話し方。
「すみません、じゃあ近藤悠斗さんってご存じでしょうか?」益々不安な結衣。
「知らないね、社長は哲二さんだな、海外に居る息子は確か哲斗さんだったな」
「次男の方は?」結衣が微笑んで言うと「次男か?今度東大に行くとか噂のか?」と言った。
「そう、そうです、その人です」と頷く結衣。
「名前は思い出さないな」と首を傾げる守衛。
「事務所に連絡して貰っても良いですか?」
「無駄だと思うよ、ここでは無いよ、他を探したら良いのに」と独り言を言いながら内線で聞く守衛が急に電話を置くと「お嬢様、聞いております、私の間違いでございました、直ぐに迎えの者が参りますので、しばらくお待ち下さい」と急に丁寧な言葉に成った。
しばらくして、二人の女子事務員が走ってやって来て「真中さんですか?」と尋ねた。
「はい」とお辞儀をすると「課長が今、出ていまして、しばらくして戻りますので、応接でお待ち下さい」と案内をして、連れて行った。
守衛室で「どうしたのだよ、小娘に低姿勢で」と聞く同僚に「今の娘さんは、社長の息子の彼女でもう奥さん決定らしい」と話した。
「えー、高校生だろう?」
「二番目の頭の良い息子さんの彼女で社長は二人の結婚を許しているらしいわ」
「恐いね、高校生で結婚話か?」と二人は大いに驚いていた。
事務所に案内された結衣は、向こうが見えない位の広さに驚くと、軽く会釈をして応接に通されて、早速冷たい麦茶が持参された。
各自が品定めに来た感じだと結衣は思っていたが、こんな大きな会社の社長さんが足長おじさんだった事に驚きを感じていた。
悠斗は会社に行きたかったが、両親が会社に顔だすとバイトの話は無しにしますと言われて我慢していたのだ。
本当は哲二自ら行きたいのだが、バイトの紹介に社長が出て行く訳にも行かず、社長室でやきもきしていたのだ。
総務の課長が戻ってきて応接で話をして、バイトで働く場所の主任を呼んで挨拶をして、明日からの出社で一応終わった。
福田課長は早速、社長に呼ばれて結衣の印象を聞かれて「可愛くて中々利発そうな女の子でしたね」と答えると「世辞は要らんぞ、世辞は」と言う哲二に「世辞では有りません、本当です、今、事務をしている女の子よりもしっかりしていますよ」と言うと「そうか、そうか、勉強も出来る子だからな」と嬉しそうな顔に成る哲二だった。
挨拶が終わって、帰る結衣が守衛室の前で会釈をして通ると「おい、俺達に会釈して帰ったぞ、中々出来た娘さんだ」と自分が始めて会った事を自慢げに話した。
結衣は自宅に向かう為に再びバスに乗って移動をする。
車内は涼しいが、バスを降りると真夏の太陽が燦々と照りつけて、汗が噴き出してくる。
バス停から、十分程の高台に目的の家がそびえ立っていた。
「ここ!会社も凄いけれど、自宅もでかいわ」と独り言を言いながら門の前のチャイムを鳴らす。
「やー結衣」と悠斗の声「悠斗、来ちゃった」と話すと直ぐに中庭を走る音が聞こえて「いらっしゃい」と門を開けた。
「凄い家ね、驚いたわ!始めて来たけれど、こんなに大きなお家とは知らなかったわ」
「早く入って暑いでしょう」と母屋に招き入れた。
「家政婦さん、ジュースお願いします」と元気な声で叫ぶ悠斗、もう結衣が家に来てくれて最高の気分。直接は聞いてはいないが、将来は結婚も許されていると噂で聞いて悠斗は有頂天だ。
先日母の美代から、結衣さんが高校を卒業するまでは肉体関係は厳禁ですよと言われていた。
もしも約束を破ったら、結婚は有りませんからね!と強く言われていた。
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