第4話みんなの希望
18-4 みんなの希望の星
年が変わって受験の時期に成ると、修平は勉強以外に妹と別れる事を心配していた。
「大丈夫だよ.お兄ちゃんは頑張ればいいよ、私は施設のみんなと仲良く暮らすから安心して」
「お金が無いから、一度東京に行ったら、多分卒業迄、何度も帰れないからね、由奈は大学行くのか?」
「お兄ちゃんの様に頭良くないから、公立の近くの大学は無理だと思うわ、それにここも卒業だから、自分で生活するから働くわ」
「そうだな、この町で働いた方がみんなと会えるからな」
「そうよ、施設のみんなと離れられない」と言いながら泣き出した。
順子は修平が東京に行ったら、新しい子供を一人受け入れる予定で準備をしていた。
一番下が鈴木葵の六年生だから、みんな大きく成ったと感慨無量の順子だった。
これまでは渋谷修平がこの施設を引っ張って来てくれた。
今後は誰がその役を担うのだろうと心配に成る順子、今の人数に成って六年、転機が訪れようとしていた。
渋谷修平はみんなの期待通りに、東京大学に入学を果たした。
施設のみんなは歓喜に湧いて、ささやかな送別会が三月下旬の春休みに行われた。
勿論、近藤悠斗も駆けつけて、お祝いのお金を修平に渡して、施設は別れの悲しみと祝福で複雑な雰囲気だった。
悠斗が一緒に修平について行く予定に成っていた。
自分も将来同じ道を進みたかったから、雰囲気を見たいのだ。
施設から河野美加が母親代わりで入学式に参加する事に成っていて、三人で東京に向かって河野は東京に二泊の予定に成っている。
送別会の最後は万歳で修平を称えて、一人一人に握手をして、別れを惜しんでいた。
修平は両親の交通事故で兄妹が揃って孤児に成った。
交通事故、火事とこの施設の子供達は両親が不慮の事故で亡くなった子供が多かった。
月が変わって四月、施設に新しい仲間がやって来た。
松尾俊太小学二年生、北海道の少年で、結衣と同じく自宅が火災で偶然一人助かった少年で、身寄りが無く病院に二ヶ月程入院治療していた。
順子が引き取る条件で、病院住まいを怪我が治ってから、一ヶ月延長で置いて貰っていた。
河野と悠斗が修平と一緒に施設を後に東京に向かって、入れ違いで俊太がやって来た。
北海道の保護施設の人と一緒にやって来た俊太は、一緒に来た女性の後ろに隠れる様に恥ずかしがる。
施設の全員が自己紹介をして、俊太を新しい仲間、家族として受け入れようとした。
特に結衣には自分と全く同じ境遇、同じ年齢がとても気に成って、自分の当時の気持ちを思い出して接するのだった。
東京の下宿に到着した修平は建物の立派さと広さに驚いて「ここに、僕一人が住むの?」と驚きの声をあげた
「僕が一緒に住むから、親父が奮発したと思う、大学院まで行けと行っていたからね」
「俺は行かないよ、いや行けないよ、卒業して就職をして、由奈が結婚するまでに嫁入り道具買ってやらなければいけないからな」高校二年の妹の心配を常にする修平だ。
入学式の翌日まで三人はこのマンションに泊まって、河野と悠斗は帰って行った。
明日から、バイト探しと、学業に頑張ろうと気合いを入れた修平だった。
結衣は中学三年生、受験勉強に力を注がないと、公立高校以外は無いから、幸い結衣も勉強が良く出来て、時々来る悠斗から勉強も教えて貰う様に成る。
このままの成績なら、修平の高校に行けると担任に言われる程に成っていた。
年齢に連れて、顔も美人顔に成って、背丈も百六十三センチ程に成って女らしく変身をしていた。
それは秋に成って「結衣!お前最近綺麗に成ったな」と悠斗が言ったから、本人も意識をしていた。
同学年の正木美由も朱音達の通った高校には行ける様だった。
この施設の子供は相対的に修平の影響だろうか、勉強は良く出来たのだ。
最近来た俊太だけが大きく年齢が離れていたが、一番近い葵がよく遊び相手を務めていた。
来年小玉朱音がここを出ればまた新しい子供を入園させる予定の順子だから、春に成れば今度は俊太が同じ様な友達が出来ると思っている順子だ。
自分が世話をした子供が成長して巣立つのは、寂しさも有るが嬉しさも大きいと思う。
修平は時々、現状を描いた手紙と東京のお菓子を送って来て、施設の事を心配しているのがよく判って嬉しい順子だ。
年末のクリスマスには例年と同じく近藤夫婦が悠斗と一緒に施設を訪れて、新しい仲間の俊太にアニメのおもちゃを持参してご機嫌を取って、他の子供達にはお小遣いを配っていた。
年に一度だが、長い期間続ける事は非常に困難な事だと、順子を始め河野も小島も感謝に絶えない喜びだった。
年が改まると直ぐに、美由、結衣は受験に合格して、朱音は就職で三月の末には送別会が行われて、修平の時とは異なり、順子が知り合いの不動産屋に話して、施設の近くのワンルームマンションを借りて用意したのだ。
誰も身寄りの居ない朱音にはこの施設が両親の様な物で、施設のみんなは兄弟以上の関係だったから、いつでも会える場所が必要だったのだ。
隣町の工場の事務に勤めるから、朝夕会えるし休みには施設に顔を出してみんなと話が出来るので、朱音も安心なのだった。
結衣は高校生に成って女らしくなると、悠斗は益々結衣に何度も会いたくなる。
デートもバイクで遠方まで出掛けて、夜遅く帰る時も有った。
そんなある日、別れて自宅に帰る前に二人は始めてキスをして、悠斗は結衣の甘い香りに嬉しさを感じ、結衣は悠斗に男の匂いを感じる様に成っていた。
子供の恋から大人の恋に変わりつつ有ったのだ。
施設のみんなが二人の恋愛を応援していた。
それは子供の心にもお金持ちの近藤の家の息子と、施設の子供が結ばれる夢の様な出来事だったからだ。
両親の居ない環境の子供が、大きな会社の社長夫人に将来は成れるのだとの、期待と希望も施設のみんなには有ったのかも知れない。
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