第3話悩みの種

18-3     悩みの種

妹の由奈も地元の高校の一年生、修平程勉強が出来ないので同じ高校には行けなかったが、小玉朱音、時田昴と同じ公立高校に通学出来て、三人は揃って通学出来て満足をしていた。

相対的にこの施設の子供は勉強が出来た。

順子はこれも渋谷修平君の影響だから、何とか東京大学に進学させたいと思ってはいたが、分け隔ては出来ないのが順子の性格だった。

近藤の申し出は順子にも修平にも天の助けだったのだ。

翌日からの修平は元気がみなぎって、学校に行って担任に「奨学金を貰って、東京大学を目指します」と晴々とした顔で話していた。


悠斗は誕生日が待ち遠しい、バイクの免許が欲しいのだ。

両親には受験の時に許しを貰っていたから、早く免許を取って結衣の処に来たい。

そして、結衣とドライブがしたいが、今の楽しみはそれ一点に成っていた。

悠斗の誕生日は七月七日、七夕の日で子供の頃から誰と巡り合うのだろう?織姫はどんな女性だろうと空想を描いていた。

それは、母の美代が悠斗によく話をして聞かせていたから、そう思う様に成っていたのかも知れない。

今現実に悠斗は、自分の織姫が結衣だと思い始めていたのだ。

思い込みはやがて現実と成って、恋をしている悠斗なのだ。

中学二年のクリスマスに始めて結衣に会ってから、無性に惹かれる悠斗、その悠斗の熱意に同じく引き摺られて、徐々に好きに成ってきた結衣、男性を好きに成るには余りにも幼かったのだろう。

中学二年に成って、ようやく恋が芽生え始めた結衣だった。

誕生日を待ちかねた様に、試験に向かう悠斗、六月に成って土日の開いた時間に二輪車講習に行って、実地試験は既に終わっていた。

勉強は楽々と合格して、七月の二十日迄には250CCのバイクが届く事になる。

結衣の夏休みに合わせた様に、バイクで施設を訪れた悠斗に施設のみんなが、真新しいバイクを見て、感嘆の声をあげる。

だが、修平を始め高校生達には羨ましい情景だった。

言葉には出さないが、両親に買って貰ったバイクで、免許も十六歳で直ぐに取得して、何も苦労の無い生活を羨ましく思っていた。

二人乗り違反を承知で結衣にヘルメットを差し出して「乗せてやるから、行こう」と言う。

新品のバイクに恐々乗る結衣を乗せて、悠斗のバイクは学園を走って出て行った。

恐い結衣は悠斗の背中にしがみついて「ゆっくり、走って、恐い」と言うと「大丈夫だよ、捕まって」と速度を上げる。

少し走ると結衣も慣れて、夏の暑さを吹き飛ばす風を感じていた。

十六歳の少年と十三歳の少女はお互いが惹かれていった。

悠斗はそのまま施設に二日間宿泊して、他の子供達もバイクに乗せて公園の近廻りを走って喜ばせて、三日目に自宅に帰って行った。

でも、又夏休みの間に施設にやって来た。

八月の終わりが結衣の誕生日だったから、祝いの品を持って再びやって来たのだ。

施設の友達に会いたい気持ちも悠斗にはあった。

結衣に人形を持参して、施設の女の子にはぬいぐるみを持ってやって来て、再び一泊の予定で来て、翌日には結衣を載せて、町に食事と映画を見に行こうと誘った。

映画は何度も行こうと誘われたゴーストの映画だったが、以前の物とは異なって、恋人が亡くなって、ゴーストに成って現れる物語だった。

恋愛映画で、二人は見終わると早めの食事に行って「先程の映画良かった?」と聞く悠斗に「現実的ではないわ、死んだら終わりだもの、私のお兄ちゃんも、お母さんも、お父さんも一度も現れた事無いもの」と冷めた表現をする。

「僕は、もしもあの映画の様に、出来るなら結衣の側で教えるよ、側に居るよってね」

「どうやって教えるの?話せない、姿は見えないでしょう、あれは映画だから見えたけれどね、霊が彷徨事何て考えられないわ」と冷静な結衣。

「もしも、僕が先に死ぬ様な事が有れば、教えるよ、はいは右の耳に、いいえは左の耳に」

「何よ、それ?と結衣が言うと、悠斗は結衣の右の耳に吐息を吹きかけた」

「いやーくすぐったいわ」と笑う結衣。

「判った!判ったけれど、そんな事考えられないから忘れましょう」と食事を始める二人。

結衣を施設まで送ってから「夜遅いから、気を付けて帰ってね」と結衣の見送りを受けて、夜の道を帰って行った。

九時頃に自宅に到着したよと電話が掛かって、安心する結衣は貰った人形を大事そうに、部屋の枕元に置いて眠った。

「お母さん、そこに居るの?」と昼間の映画を思い出して独り言を言いながら涙ぐんでいた。

昼間の映画の影響で、信じられない事を信じてみたい気持ちに成っていたのかも知れない結衣だった。

悠斗は高校一年の秋にはもう大人の体格に成って、百七十五センチの身長、バイクに乗る姿は大人に見える。

結衣も胸が少し大きく成って、女性らしさが出て来て、お互いが会う度に男と女を感じる様に成っていた。

クリスマスには例年通り三人でやって来て、みんなが大きく成って、品物よりもお金が必要だろうと、お年玉も兼ねて各人に手渡す近藤社長。

「君たちの成長は私の喜びだ、特に来年渋谷君が東京大学に入学出来れば私の誇りでも有る。頑張ってくれたまえ」と修平に握手を求めた。

「兄貴頑張って下さい」と悠斗も握手をして声援を送った。

和やかにクリスマスパーティの食事が終わると、三人は夕方自家用車で帰って行った。

今日は珍しく三人は車でやって来ていた。

今からそのまま家族旅行に出掛けるのだが、流石に施設ではその事は話せなかった。

順子にはこっそりと、哲二は話していた。

両親の愛に飢えている子供達に、それは言えない事だと順子も近藤夫婦も心得ていた。

息子の通う学校の有るオーストラリアに三人は新年まで過ごして、五日に戻る予定なのだ。

長男哲斗は、そのまま向こうの大学に進級する予定なのだが、勉強が出来なくて落第の危機に成っていた。

両親はその事も有って、学校にお願いも兼ねての家族旅行だったが、哲二夫婦の悩みの種の長男哲斗なのだ。

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