第2話進学
18-2 進学
楽しい春休みが終わると、悠斗は受験勉強で忙しい三年生、結衣は中学生に成る。
遊びに来られない悠斗、両親から「高校生に成ったらいつでも会えるわよ、勉強頑張って良い高校に行くのよ」そう言われて、電話を時々する悠斗に変わっていた。
結衣も中学に成って、勉強を一生懸命にして、お兄さんとか、お姉さんの様に公立の高校に行かなければ、就職に成ってしまうので頑張るのだ。
一般の家庭の様に、私立、専門学校の選択肢は無かった。
この施設の子供達も修平の姿を見て育っていたから、同じ様に勉強を頑張っていた。
今年は修平の妹由奈と時田昴が受験の三年生を迎える。
高校二年生の修平が分け隔てなく二人に勉強を教えるのだ。
それでも悠斗は夏休みには我慢出来ずに、施設に二泊三日で遊びにやって来た。
本、ゲーム機とかを土産に持って結衣に会いに来たのだ。
両親は毎年クリスマスには来るのだが、その他は毎月の寄付をするだけで、施設の事には一切口を挟まない。
理由は昔順子の夫克彦に世話に成ったのと、克彦の主旨に感動をしたからで、それから以後毎月寄付をしていた。
結衣に会った悠斗が開口一番「映画を見に行かない?」と結衣を誘った。
「どんな映画なの?私一度も映画は見た事ないかな?」しばらく考えて「小さい時漫画映画を家族で行ったかな?」結衣は遠い記憶を探していた。
それは、同時に過去の恐ろしい記憶も蘇る。
ひとりぼっちの記憶だったから、急に暗い顔に成る結衣「ごめん、昔を思い出させたな、ごめんよ」と謝る悠斗だ。
「ゴーストの映画だよ」
「えー、近藤君初めて会った時もそんな話ししてなかった?」
「あの映画とは違うのだ」と微笑む。
「私、気乗りしないわ、違う映画なら行くけれど」
そう言われて悠斗は仕方がないので、ロボットの活躍する映画を二人で明日見に行く事にした。
楽しみに来た二泊三日は直ぐに終わって、悠斗は見送られて施設から帰って行った。
その後の悠斗は勉強に集中して、結衣に連絡は週に二、三度に減って、結衣も修平達の指導で学力をのばしていった。
ある日「僕ね!高校生に成ったら、バイクの免許取るからね、そうしたら、直ぐに会いに行けるからね」と電話をしてきた。
確かに、バスに乗って駅に行って電車で来て、またバスでこの施設まで来るのは大変な時間がかかる。
夏休みに施設に来た時も、悠斗は汗だくでやって来たのだ。
悠斗は勉強していても、絶えず結衣の事を考えている。
何故?そんなに結衣に惹かれるのか、自分でも判らない悠斗、隣家の放火の影響で類焼に成って家族は結衣以外全員焼死、天涯孤独の身の上に惹かれたのだろうか?違う、何か引きつけられるものを感じる事が有った。
それが何なのか判らない悠斗、結衣と会って話しをしていたら、心が安らぐのは事実だった。
年末のクリスマスには例年と同じ様に、両親と一緒に受験勉強の最中にもかかわらず悠斗はやって来た。
結衣とデートを楽しむのと、修平に受験のアドバイスを聞いて両親も、この施設で一番勉強が出来ると順子に教えられて、同じ様なレベルの高校に行けると、修平に言われて安堵して帰って行った。
修平はこの施設から通学できるレベルの高い高校に通っていたから、修平の意見は大いに参考に成った。
今の修平の悩みは、国立の東京大学に進学する事だが、それには二つの難関が待っていた。
ひとつは、妹をこの施設に残して東京に行く事、そして学費と下宿代の心配だった。
施設には無理は言えない、自分以外に今も九人の子供達が次々と高校に進学して、お金が掛かる。
アルバイトで学費はどうにか工面出来ても、東京での生活費は半端で無い事は充分判る修平だった。
その話は順子から、近藤社長に話をされていた
「頭の良い子で、この施設も彼のおかげで助かっています、上の学校に進学させてやりたいのですが、彼だけ差別は出来ませんから、困っています」
「そうですか?そんなに勉強が出来るのですか?」
「はい、今の高校でも学年でトップにいつも居ますから、お陰で後の子供達も勉強が出来るので助かります」
その話を聞いていたので近藤夫婦は、悠斗も希望の学校に行けるだろうと期待を持って帰って行った。
受験の結果は修平の予想通りに近藤悠斗は地元の進学高校に見事合格、その喜びは真っ先に結衣に伝えられた。
近藤には悠斗の上に兄哲斗がいたが、勉強が出来ないので、高校も海外の高校に留学させて、世間体を保っていたので、悠斗の進学は大喜びに成っていた。
高校入学の後、近藤は一計を思い立って、順子に相談の為に息子悠斗を連れて施設を訪れた。
悠斗は嬉しくて早速、結衣を誘って近くの公園に出掛けた。
五月の公園には菖蒲が咲き誇って、二人の気持ちを和やかにしていた。
父哲二は、順子に有る提案をしていた、それは修平の下宿先を用意してあげるから、進学をさせてやって欲しいと云う話だった。
条件は、息子悠斗が東京の大学に合格したら一緒に生活をして、勉強も教えて欲しい。
もし悠斗が入試に失敗しても、予備校に東京で学ばせるから、面倒をみて欲しいと条件をだしたのだ。
哲二は息子悠斗の勉強が出来るので、出来たら最高学部で学ばせたいと考えていた。
その申し出を夜修平に伝えると、修平には暗闇の中の灯明の様に喜んだのだ。
半ば諦めていた東京に行ける希望が生まれたからだ。
十八歳でこの施設は出て行かなくては成らない規則に成っているので、妹の事も有って地元の大学に進学すると担任の先生には話をしていたのだ。
いつも担任は「渋谷!君の成績なら、東京大学に行った方が良い、この学校にも箔がつくから是非進学して欲しい」と説得をするのだった。
学費は政府の奨学金の補助金が出るが生活費は出ない。
修平の悩みは妹も高校には行けたが今後施設を出なければ成らないから、二人の生活を考えなければ成らなかったのだ。
成績は二年の後半からたえず学年でトップに成っていたから、担任も力が入った。
塾に行けるわけもなく、下の子供達の勉強を教えながらの勉強での成績に担任も驚くのだった。
何度か今年に成って施設を担任が訪れて順子に面談をして、何か手立ては無いのでしょうか?と話していたのだ。
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