第57話
第二ブロック戦も終わり、予選は第三ブロックに入っていた。
第三ブロックは、ティーナとマリアナが出場することになっていた。
竜人は、観戦席でミーナと共に(エリスが恐いので)応援することにした。
闘技場にティーナの姿を見つけた竜人たちは、「ティーナ」「ティーナお姉ちゃん」と声援を送る。
ティーナも兎獣人なだけに聴力は非常に良く、竜人たちの声を聞き取ると手を振って応えた。
「さあ、試合も第三ブロック戦に入ります。このブロックでは、比較的に女性の出場者が多い模様です。」
解説者の説明通り、女性選手の割合が他よりも多く見受けられた。
「それでは予選第三ブロック、試合開始!」
試合開始の合図と共に、選手たちの戦いが始まる。
事前の話し合いの通り、ティーナとマリアナはチームを組んで戦っていた。
予選での殺傷武器の使用禁止により、弓矢を使えないティーナは対複数戦に有利な棒術で戦うことにしていた。
竜人の武器の特性を知り弱点を突く訓練により、みんなも一通り武器を扱って貰っていたので、ティーナも一応近接戦は可能になっていた。
二人は、互いの死角を補うように立ち回り見事予選を通過していた。
「やった、ティーナお姉ちゃんも勝ったね!」
ミーナが嬉しそうに笑っていたので、竜人は「よかったな。」と言ってミーナの頭を撫でた。
そして、予選は続き遂にミロが出場する第七ブロックとなった。
闘技場に現れたミロ。
「兄さん、頑張ってー。」
コーリーの声援に手を振るミロ。
(それほど大きな声でもないのに、良く気が付いたな。)
竜人は自分のことは棚に上げて、感心するようにその様子を見ていた。
試合開始の合図で、最初に動いたのはミロだった。
ミロは竜人と同じく、素手での戦いをしていたが竜人よりも早く戦闘不能者を出していった。
「何だこの選手は? 手当たり次第に攻撃を仕掛けては、ものすごい勢いで敗者を量産していく。今大会は一体どうなっているのか。前代未聞の状況になっているぞ!」
ペース配分など考えないミロの戦いに、複数で掛かる者、距離をとって逃げる者とに別れていたが、結局ミロが半数以上を倒して試合は終わった。
「兄さん・・・。」
エリスは、少し不安な表情で竜人を見ていた。
竜人は、エリスの頭を撫でると落ち着かせようとする。
「大丈夫だよ。確かにあいつの強さは本物だ。今の戦いも半分も実力を出してはいないだろう。だが、それは初めて会ったときから分かっていたことだ。勝算もなく、あんな賭けを受けることはしないよ。」
竜人の言葉に、エリスはホッとして落ち着きを取り戻した。
(確かに、格闘戦ではあいつに分があるだろうな。ある意味、本選で当たることになったのは運が良かったな。)
素手では不利なことは察していたが、本選では暁が使える。もちろん、殺さないように武器の威力は抑えて戦うつもりだが、刀を使う戦いでは誰であろうとそう易々とはやられるつもりはない竜人だった。
例えそれが、あの帝国最強のベルナードであったとしてもだ。
そして、続く八ブロックのリジィー、最終ブロックのラビアの戦いも終わり竜人たちのパーティーメンバーは無事予選一回戦を勝ち抜くことができた。
「おめでとうございます、竜人様。全員一回戦突破ですね。流石です。」
「ありがとうございます、シャローザ様。長々とお邪魔してしまいすみませんでした。仲間たちも待っていますので、ここで失礼させていただきます。」
竜人たちは、シャローザとパトリックへとお礼をするとラビアたちの待つ場所まで移動することにした。
「あっそうだ、エリスさん、ミーナちゃん、コーリーちゃん。もしよかったら、明日からもここで一緒に観戦しましょう?」
シャローザの問い掛けに、エリスがどうしようかと竜人を見つめていたので、「よろしくお願いします。」と竜人が答えるとシャローザとミーナが嬉しそうに喜んでいた。
竜人たちがラビアの元に向かい、「おめでとう」と言い合っているとコーリーのところにミロとマリアナもやって来た。
コーリーも二人に「おめでとう。」と伝えて、ミロがコーリーの頭を撫でてから竜人の元にやって来た。
「よう! ちゃんと俺の戦いは見ていたか?」
「ああ、なかなかのものだったよ。少し戦いかたは荒っぽいところがあったがな。」
竜人はミロを睨み付けるとそう述べた。
「まあ、あんなのはウォーミングアップみたいなものだからな。早く本選に進んで、手応えのあるやつとやりあいたいぜ。」
ミロは嗤いながらそう言っていた。
「あまり油断していると、思わぬところで足元を掬われるぞ。」
竜人は、一応の忠告はしておいた。
「心配してくれてありがとう。だが、エリスちゃんとのデートがかかってるからな。こんなところで負けるつもりはない。」
ミロの不敵な発言と、エリスに狙いを定めた視線にエリスは竜人の体の後ろに隠れた。
竜人は、エリスを庇うように視線を遮る。
「だといいがな。そろそろ俺たちは宿に戻ることにする。マリアナさん、コーリーちゃん、それじゃあ気を付けて帰ってね。」
竜人たちはコーリーとマリアナに別れを告げると宿に帰っていった。
「お帰りなさい皆さん、お疲れ様でした。」
宿に帰ってきた竜人たちを出迎えたのは、リリアーナであった。
『ただいま。』
竜人たちはそう言うと、既に夕飯の用意が出来ているということなので早速食堂に向かった。
「それで、竜人さんたちの結果はどうでしたか?」
リリアーナの問に、ミーナが嬉しそうに応えた。
「あのね、みんな一回戦突破したんだよ。すごいでしょ!」
ミーナの返事を聞いて、「あら、皆さんすごいですね。」と率直に感心するとミーナに「良かったねミーナちゃん。」と頭を撫でていた。
しばらくして、出された夕食に舌鼓を打っていた竜人はみんなに話始める。
「今日は本当にお疲れ様。明日もまた試合があるから、ゆっくりと体を休めてくれ。」
「はい、ありがとうございます。」
みんなを代表してラビアが答える。
「目下の問題はティーナのブロックだな。明日のくじの結果次第ではマリアナさんと戦うことになるが、ティーナはどうする?」
「そうですね。正直、接近戦で戦うのは少し厳しそうです。まあ、当たってしまったときに考えます。」
ティーナは楽観的に答えた。
「それもそうだな。」
(マリアナさんのレベルになると、スキルを使わなければラビアかリジィーで互角、ちょっとかじった程度ではどうにもならないだろう。身体能力に差があればまだなんとかなるんだが、どうみても互角かわずかに劣る位だからな。)
竜人は冷静に分析した評価を出していた。
それでも、勝負はやってみなければ分からないものだし、そう気持ちを切り替えて夕食を終わらせた竜人。
今日かいた汗を流すように、お風呂に入る。
(そういえば、ねーちゃんは今頃どこで何をやっているんだろう。)
竜人は、そんなことを考えて湯船に浸かっていた。
~柳舞サイド~
「あらあら、竜人ったらエリスを取り合った勝負をするなんて。男らしく成長してきたみたいね。それにしても、ライバルの登場か。これは、竜人の成長に役立ちそうなキャラが出てきたじゃない。」
舞は、竜人の入浴シーンを覗きながらそんなことを呟いていた。
竜人のプライバシーなど無いようなものであった。
せめてもの救いは、竜人が気が付いていないことくらいか。
こうして、竜人たちの武闘技大会一日目の夜は更けていった。
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