第50話
オーガを討伐し終えた竜人は、シャローザがいる馬車まで来ていた。
「竜人様、重ね重ねありがとうございました。お陰さまで騎士たちに新たな死者を出さずにすみました。」
「いえ、差し出がましいとは思ったのですがオーガたちの様子が明らかにおかしかったものですから。」
竜人はシャローザに対して忠告をすることにした。
「シャローザ様、今回のオーガの件は先ほど話した魔族の一件と酷似しております。襲撃者の件といい何者かが差し向けたものと考えた方がよいと思います。」
「ええ、わかっております。私も偶然こんなことが重なったなどと楽観視はしておりません。しかし、魔物を操ることができる相手とは、少々厄介ですね。」
シャローザはどうしたものかと思案をしていた。
今は悩んでいてもしょうがないと先へ進もうということになり、調査のためオーガの死体を数体回収し残りは焼却する。
そして、再び馬車は走り出した。
「あのオーガどもでも手に負えないとは、とんだ邪魔が入りましたね。出来ればこの場で始末を付けておきたかったが、まあいいでしょう。どのみち結果は変わらないのだから・・・・・・。」
水晶玉でオーガたちの戦闘の様子を伺っていたローブの男は、魔力の発動を止めると水晶玉に写し出された映像が消えた。
その後も警戒を怠らずに移動をしていた竜人たちだったが、特に襲撃や魔物が来ることもなく平穏な旅が続いていた。
そして、竜人たちはようやくアルパリオス帝国の首都へと到着を果たしたのだった。
馬車が向かっているのは一般の検問所とは別の、要人専用の検問所だった。
「これはシャローザ皇女殿下、ご無事の帰還お喜び申し上げます。」
検問所にいた守衛の隊長はそう言うと、竜人たちの馬車を見て近衛隊長に尋ねる。
「ところで、あの者たちは誰なのですか?」
「彼らはシャローザ皇女殿下のお客人たちだ。我々近衛騎士もいろいろ世話になってな。」
近衛隊長がそう言うと、守衛は納得し竜人たちは軽い荷物チェックだけで通される。
竜人たちはシャローザの申し出により、城まで着いていくことになっていた。
「お兄ちゃん、お城ってどんなところかな?」
「ミーナ、お願いだから大人しくしていてね。何かあったら牢屋に入れられちゃうかも知れないんだからね。」
ミーナの気楽な様子に、エリスはストレスで胃に穴が開きそうな様子で注意していた。
「分かってるよ、お姉ちゃん。」
「ほんとかしら?」
ミーナはアルたちと戯れながら返事をしていた。
そして、馬車は城に到着すると召し使いの者がやって来て、厩舎の方へと連れていった。
「竜人様、皆さんも中を案内しますのでどうぞ着いてきてください。」
シャローザはそう言うと、近衛隊長と数名の騎士を連れて城の中へと入っていく。
竜人たちも、シャローザに着いていくように入り口を潜っていく。
城の中は広い廊下が続いており、その脇には高そうな装飾品や絵画が飾られていた。
「うわぁ、すごい綺麗!廊下もピカピカだね。」
ミーナが驚いて声を上げる。他のみんなも圧倒された様子で周囲を見回していた。
(流石はアルパリオス帝国首都の城だけはある。これだけの財力を見せつければ、周辺諸国もおいそれと戦争など仕掛けられないだろう。)
廊下を進んでいくと、前方から数人の男たちが向かってくる。
「おや、誰かと思ったらシャローザじゃないか。今回は近衛騎士たちに死者を出して大変だったそうじゃないか。」
「あら、お耳が早いのね。エグバード兄さん。」
どうやらこの男はシャローザの兄であるようだ。
「こんな時世に呑気に出掛けているからだ。まあ無事で何よりだった。」
「ありがとうございます。」
そう言うと、エグバードは再び廊下を進みはじめる。
竜人たちは脇へと避けて頭を下げる。
「お前たちが妹を助けた冒険者か。たかが冒険者にしてはよくやったな。」
(こいつ・・・。)
そう言ってエグバードは去っていった。
「ごめんなさいね、竜人様。兄が不愉快な思いをさせて。」
「いえ、気にしないで下さい。」
竜人はそうシャローザに告げた。
シャローザの話によると、今の男はエグバード=ハーキム=アルパリオス第二皇子だそうだ。パトリック=アーノア=アルパリオス第一皇子とシャローザ第一皇女のことを目の敵のようにしているそうだった。
どうやら後継者問題もはらんでいるようだ。
だが、そんなことよりも竜人には気がかりなことがあった。
「みんな、あのエグバードという男には気を付けろ。あの目、ラビアたちを明らかに侮蔑していた。以前会った人族至上主義の男たちと同じだ。」
「分かりました、竜人様。」
ラビアが答えると他のみんなも頷く。
「くそっ。あいつら余計な真似しやがって。折角の邪魔者を消すチャンスが台無しだ。お前も、調子の良いことを言ってこの様か。」
「申し訳ありません、エグバード様。ですが計画に支障はございません。」
ローブの男はエグバードにそう告げる。
「本当だろうな。次に失敗したら承知しないからな!」
「かしこまりました。」
ローブの男は頭を下げ、それを見たエグバードは「ふんっ。」と言うと供を連れて城を出ていく。
「竜人様、こちらが応接間になっております。私はこれから父に今回の件の報告に行かなくてはなりませんので、しばらくこちらでおくつろぎください。」
そう言って応接間に竜人を案内する。
するとそこへまた男がひとりやって来た。
「おお、シャローザよく無事に帰ってきた。兄さんは心配したぞ。」
そう言うとシャローザを抱き締めた。
「パトリック兄さん。お客人が見ています。もう!」
「はっはっはっ。恥ずかしがることはないじゃないか。」
どうやらこの男がパトリック第一皇子のようだ。
竜人たちは、想像したのと全く違うもうひとりのシャローザの兄弟に唖然としていた。
(というか、これがほんとにこの国の第一皇子なのか。借りにも後継者だろうに、大丈夫かこの国。)
竜人はパトリックのシスコンぶりに不安を感じていた。
親友が見たら「お前も同類じゃねぇか!」と言われること間違い無しだが、この場に突っ込める人はいなかった。
「君たちが妹を助けてくれた冒険者だね。私はパトリック。妹を助けてくれて本当にありがとう。私にできることがあったら何でもするから、遠慮なく言ってくれ。」
パトリックの申し出に答える竜人。
「ありがとうございます。何かあれば相談させていただきます。」
「ああ、是非そうしてくれ。ただし、妹に手を出したら承知はしないからな。」
何言ってんだこの人と竜人は思ったが、端からはどう見ても同類の二人であった。
「もう、パトリック兄さん。いい加減ふざけてないで、私は父のところに行きますからね。」
そう言うとシャローザは応接間を出ていき、「それじゃあまたね。」と言ってパトリックも出ていく。
残された竜人たちはメイドにソファーへ座るように促され、出された紅茶とお茶菓子を食べながら待つことにした。
シャローザが居なくなってから一時間、その間応接間でくつろいでいた竜人を呼び出しがかかる。
ラビアたちは奴隷の身分で皇帝の謁見は叶わないが(本人たちもほっとしている。)、エリスとミーナも辞退することになった。
結局竜人だけが謁見の間へと向かう。
(ああ、胃が痛い。早く終わらないかな。)
竜人はそう思いながら謁見の間に入ると、皇帝の前まで進み膝をつき礼をする。
「良い、面をあげよ。余がアルパリオス八世である。この度はシャローザの件、誠に大義であった。その方が居らねば娘の命は危なかったと報告を受けておる。竜人と言ったな。その方何か望みはあるか?」
顔を上げた竜人は、皇帝の隣に立っている騎士を見て一瞬だが体が震える思いだった。
(この人は強い。今まで会った人の中ではねーちゃんを除けば一番だ。恐らくこの人が帝国最強の騎士。この人と戦ってみたい!)
年のころは四十代半ばの男を見てそう思った竜人は、思わず頬が緩みそうになっていた。
・ベルナード・・・アルパリオス帝国最強の騎士、ロイヤルガーディアン。
○力S++ ○魔力S+ ○俊敏S++ ○賢さS ○生命力S+ ○魔法防御S
竜人は皇帝に願い事を告げる。
「ありがたき幸せ。実は私の仲間がこの大陸の出身なのですが、故郷を魔物に襲われ家族と離ればなれになり、メルクヌス大陸へと奴隷として連れてこられました。是非、家族の捜索にご協力いただければと思います。」
「分かった。その件はこちらで調べさせよう。娘からも話は聞いておる。奴隷解放の手続きもこちらの方で手配しておこう。」
皇帝の言葉に竜人は頭を下げてお礼をする。
「ご配慮感謝いたします。」
「ふむ、だがこれだけではちと足りないな。あれを持って参れ。」
皇帝がそう告げると、騎士の一人が竜人の元に勲章と白金貨五十枚を持ってくる。
「その方には報奨として白金貨五十枚とレスタルク勲章を授与する。」
レスタルク勲章・・・アルパリオス帝国でも特に高い功績を上げたものに贈られる勲章。
アルパリオス八世は、シャローザからクラーケン討伐者を竜人たちが行ったと聞き、またその実力が本物であることも聞かされたことで、他国への牽制のためレスタルク勲章を授けることを決めていた。
(これは断れないよな。まあ、他国からの御守りがわりにはなるかな。)
「謹んでお受けいたします。」
竜人は諦めて授与することに決めた。
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