第49話
竜人たち一行は、アルパリオス帝国首都を目指して馬車を走らせていた。
シャローザたちと合流をしてから二日ほどが過ぎたが、襲撃者もなく平穏な旅が続いていた。
竜人の馬車は一団の最後尾を走り、魔物たちとの遭遇では互いの馬車を守るようにして持ち場からは離れないように取り決めをしていた。
連携が取れない者同士では、戦闘時にかえって足を引っ張り合ってしまうとのこともあり、竜人もそれに同意した。
「お兄ちゃん。前の方から大きな人型の魔物が接近してくるって。」
ミーナの報告に、竜人はシャローザたちに魔物の接近の報告をする。
「それは本当ですか? 一体どうやって察知したのですか?」
シャローザは当然の疑問を口にする。
「私の仲間のスキルのひとつです。それにより、私たちは今までの旅で魔物からの奇襲を受けたことはありませんでした。」
シャローザは竜人の言葉を聞き、少し考えてから近衛騎士の隊長に指示を出す。
「すぐに馬車を止めて戦闘準備をしなさい。念のため前方には偵察部隊を出すように。」
「はっ!」
近衛隊長はシャローザに敬礼をすると、部下たちにそれぞれ指示を出す。
「信じていただきありがとうございます。」
「いえ、竜人様が嘘を言う理由もないですから。それに、害をなそうと企んでいるのなら、昨日のうちにそれは出来たでしょう?」
竜人の言葉にそう答えるシャローザ。
(昨日はただ遊びに来ていただけではなかったか。)
シャローザは、竜人たちが信用に足る人物たちなのかを確かめに来たのだった。
確かに、あの時間はシャローザにとっても楽しいものだった。
だが、第一皇女としての責務を持つものとして、敵味方の判別は決して怠ることのできないものであった。
その結果として、竜人たちはとりあえず信用に足る相手であると判断されたようであった。
敵が前方からやって来るということで、竜人たちはどうすれば良いか尋ねる。
「偵察の報告を待ちましょう。もし我々だけで問題なく対応できる場合は、竜人様たちは自分達の持ち場でお待ちいただけたらと思います。」
「そうですね。分かりました。」
竜人は、一旦自分の馬車へと戻ると仲間たちにそう伝えた。
やがて偵察部隊が戻ってきたとの連絡があり、竜人はシャローザの元へと向かう。
「竜人様、偵察部隊の報告から前方一キロ先でオーガの軍勢を発見しました。数は二十体。真っ直ぐこちらに向かっております。」
「オーガですか。二十体とはやけに多いですね。」
○オーガ・・・体長約三メートルの人型の魔物。頭に角を生やし通称鬼と呼ばれている。討伐ランクはBとされている。魔法を使わないかわりに、強力な物理攻撃を主体としている。
(オーガか。確かに、二十体は多いかもしれないがそれほど強い魔物でもないか。物理攻撃さえ注意していれば、苦戦するほどでもないな。)
竜人が考えていると、シャローザから気になる情報が追加された。
「ただ、このオーガ。偵察部隊によると普通のものよりも体が一回り大きいようなのです。」
(異常種か? まさか、裏に魔族が絡んでいる?)
「シャローザ様、少しお話ししておきたいことがあります。」
竜人はそう言うと、以前ベレノスの迷宮で起こった魔族による魔物たちの騒動について説明した。
「竜人様は、オーガの件は裏に魔族が関わっていると考えているのですか。」
「分かりません。ですがシャローザ様を襲った男たちといい、何か良くない予感はしていますが。」
シャローザは目を閉じて思索したのち竜人に申し出てきた。
「竜人様。勝手ではございますが手を貸して頂けますか? 既に十名を越す被害が出ております。これ以上の人的被害は極力避けたいのです。お願いします。」
「行動を共にしているのですから、もちろん協力させていただきます。」
竜人はシャローザに了承する。
竜人は近衛隊長と対応について話し合う。
戦闘に入る前に、ティーナによる先制攻撃で様子を見たいと告げ許可がおりることとなった。
竜人たちの馬車は中央に配置して、ミーナとエリスはそこで待機してもらい、負傷者が出たら即座に手当てが出来るように準備する。
オーガとの接近戦闘の際は、竜人、ラビア、リジィーの三人でチームを組んで戦うことに決まった。
「ティーナ、先制攻撃をかけたらエリスたちの護衛を頼む。エリスたちは念のため馬車から出ないようにしてくれ。アルとクーは二人を頼むな。ピピは索敵に専念してくれ。」
竜人はそう告げると、ラビアたちと前線に出て待機する。
魔物の到来を待つこと数分、竜人たちの視界にオーガの軍勢が姿を表す。
距離にして三百メートルほどになると、竜人はティーナに合図をする。
『遠矢射る』
ティーナの放ったミスリルの矢はオーガの軍勢へと真っ直ぐ飛んでいき、そのうちの一体の頭部へと命中をする。
この距離から正確に矢が命中したことに、近衛騎士たちは驚きの声をあげていた。
「すみません竜人様。やはり遠距離からではオーガを仕留めることは出来ませんでした。」
ティーナは竜人に謝罪を告げる。
竜人は矢の命中したオーガを観察する。
頭部に刺さった矢はオーガに確実にダメージを与えており、出血も直ぐに止まるということはなくどうやら回復スピードはさほど高くないように思えた。
「いや、十分だティーナ。知りたかった情報は分かった。馬車へ戻りエリスたちの護衛に入ってくれ。あとは俺たちの方で方をつける。」
「分かった竜人様。ラビア、リジィー十分に気を付けて竜人様を頼みましたよ。」
「ええ。」「任せて。」
ティーナはラビアたちに言うと、馬車へと戻っていった。
やがてオーガとの距離はなくなり、ついに戦闘が始まった。
「喰らいやがれ!」
騎士の一人がオーガに向けて剣で攻撃を仕掛ける。剣はオーガの体を斬るが、皮膚が固く刃が止まる。
そこをオーガのこん棒が騎士に襲いかかる。
バゴン!
盾で攻撃を防いだ騎士だったが、衝撃を吸収しきれずに吹き飛ばされる。
「オーガの体は通常よりも硬い。無理に斬ろうとせずダメージを蓄積させるんだ。攻撃は複数で受けるようにしろ。」
隊長からの指示が飛ぶ。
竜人たちのもとにもオーガは襲いかかる。
ラビアはオーガの振りかぶってきたこん棒を盾で往なすと、『斬鉄剣』を使い体を上下に斬り裂いた。
『四元素の槍(嵐)』、リジィーの槍はラビアが倒したオーガの後方にいたオーガの頭部を弾き飛ばす。
竜人は接近してきたオーガの拳の攻撃を見切ると、体を最小限の動きで躱すとそのまま『暁』で頭部を切断する。
僅かな間に三体を片付けた竜人たち。騎士の方の様子を見るとオーガ一体に対して四、五人で対応している。
オーガと対等に渡り合っているのは近衛隊長と数人の騎士のみだった。
(一般の近衛騎士たちには異常種のオーガ相手は少し厳しいな。このままだと犠牲がまた出てしまうかもしれない。)
竜人としても、戦いを生業としている者はそれなりに覚悟をもって要るべきだとは思っていた。
ましてや、近衛騎士ほどの身分になると冒険者に助けられることはプライドが許さないということも考えられる。
だからといって、目の前で死ぬことを見過ごすこともまた出来なかった。
さらに二体のオーガを倒した竜人は、騎士たちの援護に向かうことにした。
その時だった。オーガたちを異変が襲う。
『ぐぅおおおおー』
オーガたちが頭を抱えるように唸り声を上げると、その体は黒く染まっていった。
○オーガ(凶化)・・・全身を黒く染め凶暴化した個体、暴走状態となり周囲を攻撃する。
能力値
○力S+ ○魔力B ○俊敏S- ○賢さA- ○生命力S++ ○魔法防御S-
ドゴン。
「なんだこいつらは?」「うわあー!」
五人で盾を構えていたのに吹き飛ばされる近衛騎士たち。
「一旦引いて体制を建て直せ!」
吹き飛ばされた騎士たちの援護に入る近衛隊長。
ドン!
「ぐう!」
凶暴化したオーガの攻撃をなんとか防ぐ。
(まずい!)
柳竜人(気闘陣使用状態)
○力S ○魔力S++ ○俊敏S+ ○賢さS- ○生命力S- ○魔法防御S-
竜人は気闘陣を使うと『暁』に『火産霊』を使用し凶暴化したオーガたちを次々と斬り裂いていく。
「すごい。これがクラーケンを倒した力・・・・・・。」
その様子をシャローザは離れた馬車から見ていた。
ラビアとリジィーも陣形の崩れた騎士たちの援護へと向かう。
なんとか体制を整えることができた騎士たちも、再び戦線に復帰しはじめる。
そして、最後の一体を討伐した竜人たちは負傷者は出したものの、死者を出すことなく戦いは終わった。
竜人は直ぐにエリスに負傷者の治療を指示した。
(これは本格的にきな臭くなってきたな。)
竜人は高確率で背後に魔族か、それに類するものが絡んでいることを確信したのだった。
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