第48話
夜営の準備を始めた竜人たちは、食事担当と、テントの設営、馬たちの世話係に別れるとそれぞれが動き始めた。
竜人は料理担当になり、エリスと共に調理に取りかかった。
今日は魚料理にポワレで調理したものと、照り焼きを作ってみて、あとはパンの代わりにお好み焼きをチャレンジしてみた。
似たような材料を駆使して作ったわりに、出来映えはなかなかであった。
あとはサラダと飲み物を用意すると、テーブルの上に並べていく。
夕食の準備が終わる頃には、ミーナやラビアたちも集まってきて食事を始めることにした。
すると、騎士たちの夜営場所からシャローザが護衛を二人連れてやって来た。
「あら、とてもいい匂いがしたから来てみましたけど、美味しそうな料理ですね。初めて見ました。私も頂いてよろしいでしょうか?」
シャローザがそう言うと、護衛の騎士たちが驚いて何とか止めようとするも、シャローザに「下がりなさい。」と言われると背後に控えるように移動する。
竜人は「シャローザ様の口に合うか分かりませんが?」と聞くも、微笑んで何も喋らなくなってしまったので仕方なく予備の椅子を出すとシャローザに座ってもらい、新しい皿を数枚出しお好み焼きを切り分けて、魚料理とサラダを乗せていく。
あとはナイフとフォークを用意して食事の準備を整える。
そして、改めて『いただきます。』とみんなで言うと食事を始めた。
「まあ! 初めて食べましたが本当に美味しいですね。これはなんという料理なのですか?」
シャローザが、お好み焼きを口に入れると驚きながら尋ねてくる。
「これは私の故郷の料理で、お好み焼きと言います。その名のとおり好きな具材を使い作るものでして、故郷と似た食材を使って再現したものです。」
竜人がシャローザに説明をする。
「こちらのお魚も美味しいです。皮はパリッとしてるのに身は丁度良い焼き加減で不思議な食感です。」
シャローザが魚のポワレを食べた感想を述べる。
「皆さんは変わった道具で召し上がっていますのね。」
シャローザは竜人たちが箸で食べているのを見て聞いてきた。
「これも私の故郷の道具で箸と呼ばれるものなんですよ。扱うまでには時間がかかりますが、使いこなせればこのように色々な使い方が出来て便利なんですよ。」
竜人は見本を見せるように箸を扱う。
その後もシャローザの質問は続き、竜人がそれに答えていくという感じで夕食は過ぎていった。
「とても美味しかったです。ありがとうございました竜人様。」
食事を終えるとシャローザがお礼を述べてきた。
「いえ、お口に合って良かったです。」
竜人は笑顔で告げた。
「アル、ご飯美味しかった?」
ミーナがアルたちと戯れはじめると、シャローザが話しかける。
「ミーナちゃんでよかったかな? 動物をたくさん飼っているのね。」
「うん。この子がアル、こっちの子がピピで、この子がクーって言うの。」
「よろしくね。ふふふ、とてもかわいい子達ね。」
シャローザはアルたちの頭や体を撫ではじめると、目を閉じて気持ち良さそうにするアルたちを見て笑みがこぼれる。
背後に控えた護衛の人たちがヒヤヒヤしていたが、特に口出しをしてくることはなかった。
「シャローザさまも動物が好きなの?」
「ええ、家でも犬を飼っているのよ。」
ミーナがシャローザと話はじめると、エリスもヒヤヒヤした様子で見ていた。
「シャローザさま。この後みんなでゲームをして遊びませんか?」
「あら、楽しそうね。是非お願いしたいわ。」
ミーナの言葉にシャローザが同意すると、さすがの竜人も動揺をしはじめる。
「どんなゲームで遊ぶの?」
「あのね、お兄ちゃんが考えたゲームでオセロとトランプっていうものがあるの。あと、将棋っていうゲームもあるけど難しくてよくわかんない。」
シャローザの問にミーナが答えた。
「オセロなら私も遊んだことがあるわよ。あれはお兄さんが考えたものだったの?」
最近になり、アルパリオス帝国にもメルクヌス大陸から入ってきたオセロは貴族から市民まで幅広く遊ばれていた。
それを竜人が考えたものと聞き、シャローザは驚きの声を上げた。
竜人はシャローザとミーナの元へ向かうと説明をはじめる。
「これは私の故郷のゲームでして、まだこちらには無かったものですから、商会を通して作ってもらったものです。」
竜人の言葉に成る程と頷くシャローザは、トランプや将棋についても竜人に尋ねてくる。
「これはカードを使った遊びでして、これひとつで何十という遊びができるものです。こちらがその遊び方を書いた説明書になります。将棋はルールが少し難しいのでまたの機会にしましょう。まだ、首都までは時間もありますし。」
竜人はトランプと説明書を取り出すと、シャローザに渡してそう説明した。
「面白そうですね。是非皆様とご一緒したいですわ。」
シャローザの言葉で、片付けを終えた一同はテーブルの上でトランプ大会を開始した。
ババ抜き、ポーカー、大富豪、神経衰弱、ブラックジャックなどさまざまな遊びに、シャローザは夢中になって遊んでいた。
やがて日も落ち暗くなってきたところで、騎士たちが「そろそろお休みになりませんと。」と告げてきて、残念そうにしていたシャローザだったがゲーム大会を終わることになった。
「こんなに楽しい時間を過ごしたのは久しぶりだわ。ありがとう竜人様。それに皆さんも。」
シャローザがお礼を告げる。
竜人は、予備に作っておいたトランプと説明書を取り出すとシャローザに渡す。
「自分の手作りなんであまり良いものではないですが、もしよかったら貰ってください。」
「良いのですか? ありがとうございます。大切にしますね。」
シャローザはそう言うと、騎士たちと野営場所へ戻っていった。
「楽しかったね、お兄ちゃん。またシャローザさまと遊べるかな?」
ミーナがそんな感想を言ってきた。
「もう、ミーナったら。もしシャローザさまに粗相でもしたらどうなってたか、お姉ちゃん心臓に悪かったんだからね。」
エリスがミーナにそう言うと、竜人やラビアも内心で同意していた。
「大丈夫だよ。シャローザさま優しいもん。」
そう無邪気に答えていた。
(さすがはミーナ。こんなに純粋無垢だからこそ動物たちにも好かれるわけか。しかし、さすがに皇女殿下相手には勘弁してほしい。)
竜人は下手な戦闘よりも疲れたと感じていた。
気疲れした竜人たちは(ミーナを除く)、その日はぐっすりと寝ることが出来た。
夜間の警戒はアルたちにお任せすることにした。特に魔物の襲撃もなく落ち着いて過ごすことが出来た竜人たち。
そして、日が上り朝食と野営の片付けを終えた竜人たちは、シャローザたちと合流をして一路アルパリオス帝国首都へと出発した。
昨日の一団がまた襲ってこないとも限らないので、対応については昨日の段階で話しておいた。
まず、アルたちの正体を明かせないことからアルとクーにはミーナと馬車で待機。エリスも対人戦では迷いが出るかもしれないので、特にプロ集団では致命的になりかねないため馬車に居てもらうことにした。
ピピは上空で、これまで以上の警戒を頼んだ。
戦闘に出るのは、竜人とラビアたち四人でティーナに馬たちの護衛に入ってもらうことにした。
さすがに、一度失敗をして再度同じように襲ってくることはプロならしないだろうとは思ったが、何事にも絶対はないと竜人は最大限の警戒をすることにした。
その竜人の警戒は、別の形で的中することになるのだった。そして、その事が今回の一件をただの帝国内でのゴタゴタだけでは済まないのだと竜人に知らしめていた。
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