第47話
竜人は事の成り行きについて皇女に聞くことにした。
「申し遅れました。私は冒険者をしております柳竜人と申します。こちらは私の仲間たちでございます。皇女様、少しお話を伺いたいのですがよろしいでしょうか?」
竜人はお辞儀をして、仲間たちの紹介をした後にそう尋ねた。
「無礼者。皇女殿下に向かって冒険者ごときが・・・。」
「控えろと言ったはずよ。
「い、いえ、そんなことは・・・。」
皇女殿下の言葉に、怒鳴り声をあげていた近衛騎士の一人が言葉を止める。
「誠に申し訳ありません。この者の非礼は私の責。どうかご容赦ください。」
皇女が頭を下げて来たため、竜人は慌ててそれを止める。
「いえ、失礼を言ったのは私の方ですから、どうか頭をあげてください。」
竜人の言葉にようやく頭を上げる皇女殿下。
『おお~!』
そんな時、怪我人の手当てをしていたエリスたちの方からどよめきが起きる。
そちらを確認すると、腕や足を失っていた負傷者や重傷の傷が瞬く間に回復していく様子が伺えた。
その光景を目の当たりにした皇女殿下も、さすがに目の前で起きていることに驚いているようであった。
「これは一体。」
「私の妹のエリスは回復魔法の使い手で、欠損の回復も可能です。おそらく数日もすれば以前のように動けるでしょう。」
竜人の説明に、皇女殿下や近衛騎士たちは驚きの表情を浮かべた。
重傷の回復や、まして部位欠損の修復など十代の若者が行えるものではない。
才能と長い期間の修行でようやく可能になるものであった。皇女殿下も、この年でそれが行えるものなど見たことも聞いたこともなかった。
「竜人様、貴殿方は一体何者なのですか?」
思わず皇女殿下が聞いてくる。
「私たちは、ただのCランクの冒険者パーティーですよ皇女殿下。私たちは武闘技大会に参加することために、メルクヌス大陸からアルパリオス帝国へとやって来ました。」
「竜人様、私のことはどうかシャローザとお呼びください。それにしても竜人様といい、妹さんといいとてもCランク冒険者の実力とは思えませんね。」
シャローザは率直な感想を述べた。
すると、それまで傍観していた近衛騎士の隊長がこれまでの情報と、竜人と言う名前からある噂が浮かんできた。
隊長はシャローザへとその情報を伝えると、シャローザは竜人に確認するように聞いてきた。
「大変不躾なのですが、ひとつお聞きしたいことがございます。竜人様は先ほどメルクヌス大陸から来たと仰いましたが、それは何時の事でしょうか?」
「二週間ほど前に船で参りました。」
竜人の言葉に確信を深めたシャローザ。
「竜人様が乗って来た船は、ウェンディー号と言う名前ではありませんか?」
竜人はシャローザがクラーケンの事件のことを知っていて、今までの情報から高確率で自分達のことについて当たりをつけていることを悟った。
「はい、シャローザ様の言うとおり私たちはウェンディー号に乗ってネクベティー大陸へと航ってきました。」
「やはり。では、クラーケン討伐に貢献したという冒険者パーティーは竜人様たちでしたか。」
シャローザは、納得するようにそう言った。
やがて、治療を終えたエリスたちが竜人の元に戻ってきた。
「出来る限りのことは致しました。申し訳ありませんが既に手遅れの方たちも多く、私ではどうすることもできませんでした。」
負傷した騎士たちは大小合わせて三十名程おり、エリスが治療をはじめた時には死者も十名を越えていた。
「いえ、エリスさんが謝ることはございません。それどころか、多くの騎士が辞めざるをえない程の傷を治療していただいたのです。本当にありがとうございました。」
シャローザがエリスにお礼を述べると、エリスが「いえ、とんでもないです。」と答えていた。
「さて、竜人様。私たちはこれから、アルパリオス帝国の首都へと戻ることになります。竜人様方には是非お礼をしたいのですが、ちょうど目的地も一緒のようですし共に参りませんか?」
シャローザはそう竜人に提案する。
(うっ、これは断れないか? 断ったら断ったで騎士たちが怒りそうだし、仮にもこれから武闘技大会に出場する身だしな。本当は、余計なトラブルは勘弁してほしいんだけどな。さっきの連中どう考えても普通じゃなかったし・・・・・・。)
「そうですね。是非ご一緒させていただきます。」
結局断りきれなかった竜人は、承諾することにした。
騎士たちは仲間の遺体を荷馬車へと乗せると、出発の準備が整ったことをシャローザに報告する。
「竜人様、お待たせ致しました。出発の準備が整いましたので、竜人様には是非私の馬車のなかでお話を伺いたいのですが?」
シャローザが自分の馬車へと竜人を促す。
竜人はエリスやラビアたちと話をし、念のためにクーを一緒に連れていくように提案された。
不測の事態には、ミーナの護衛にはラビアとアルが付くという事で話はまとまった。
「どうぞ、こちらへお座り下さい。」
シャローザは、竜人に自分の目の前の席を指定する。
「失礼します。」
そう言うと竜人は座る。
シャローザの隣には近衛騎士隊長が座っていた。
「竜人様、改めてお礼をさせてください。この度は危ないところを助けていただきありがとうございました。」
シャローザが再度頭を下げてお礼を告げてくる。
「いえ、本当に気にしないで下さい。偶々通りかかっただけですので。」
竜人は答えた。
「それにしても、先程の山賊風の男たちは一体何者だったのでしょう。偽装してまで襲ってくるなんて、なにか心当たりは在りませんか?」
シャローザは少し考えるように間を置くと、やがて話はじめる。
「心当たりは無いどころか、いろんな可能性がありすぎて逆に分からないというのが事実でしょう。」
(なるほど、第一皇女ともなると敵もそれなりに多いということか。)
「それにしても皇女殿下はどうしてこの時期にこの様なところにいたのでしょう? もし差し支えがなければでいいのですが?」
竜人は、もうすぐ武闘技大会が始まるという時期になぜここにいたのか疑問に思っていた。
「いえ、別に隠すことでもないのですが、私の友人の誕生日パーティーに招待されましたので出向いていただけなのです。」
シャローザは特に深い理由はないと答えた。
「竜人様。私からも質問があるのですが、竜人様とエリスさんはその、こう言ってはなんですがあまり似ておりませんよね。それに、パーティーメンバーに奴隷の獣人を三人連れておりますが、一体どのような関係なのでしょうか? もしよろしければお聞きしたいのですが。」
今度はシャローザが竜人に質問する。
(そうだよな。髪の色も違うのに兄妹とは、確かに疑問に思うよな。それにアルパリオス帝国では、獣人の差別は表向き禁止されてるし、まして奴隷だからな。)
竜人はこれまでの経緯を簡単に説明した。エリスとミーナの奴隷の事。解放してからは義理の兄妹になったこと。ラビアたちを迷宮で助け、前任が死亡したため竜人が新たに奴隷契約をしたこと。クラーケン討伐による報酬で三人の奴隷解放の目処がたち、アルパリオス帝国でその手続きをしようと考えていること。
すべてを聞き終えたシャローザは、笑顔を竜人に向けた。
「竜人様はお優しいのですね。エリスさんもこんな優しいお兄さんと一緒で幸せでしょう。」
「いえ、自分の都合で危険な旅に連れ回している不甲斐ない兄ですよ。」
シャローザの言葉に照れたように答える竜人。
それからも、お互いにさまざまな話をしたシャローザと竜人は今夜の夜営場所に馬車が止まると、竜人は馬車を降りエリスたちのもとへと戻っていった。
~クー語り~
僕の名前はクー。三人兄弟の末っ子。
僕がご主人様に初めて会ったのは、野犬に襲われていたところを止めに入って貰ったときだ。僕を襲った野犬は、ご主人様に怒られると気まずそうに逃げていった。
ご主人様に救われた僕は、それからずっと一緒にいることになった。
そして、竜人様がご主人様を眷族にされると、僕はカーバンクルのクーとして新しい力が宿った。
それは結界の力だった。アルお兄ちゃんやピピお姉ちゃんのような戦う力は無いけど、二人にご主人様たちを僕の力でお守りするようにと言われた。
それから、片時も離れずにご主人様をお守りしてきた。
そして、キマイラとの戦いでみんなを守った僕をご主人様や竜人様が誉めてくれた。
でも、力を使い果たした僕はそのあと現れた魔族に何もできずに、ご主人様は竜人様が死んでしまうと嘆き悲しんでいた。
その時は、竜人様の姉上が助けてくれてご主人様は再び笑顔を取り戻すことが出来た。
でも、僕は自分の役目を果たすことができなかったことが悔しかった。もう、ご主人様が哀しむところは見たくない。
僕はカーバンクルのクー。もっと強くなって誰も傷つかない力を身に付けてやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます