第46話
それからいくつかの町に寄りながら、竜人たちの旅は続いていた。やはり、魔王復活への影響からかネクベティー大陸に来てからも魔物の襲撃は変わらずに続いていた。
クリムゾンやハーピーといった、メルクヌス大陸では遭遇しなかった魔物も姿を見せていた。
飛行タイプのハーピーについてはランクBと高く、動きも早かったため、ティーナの簡易魔造矢とピピが特に活躍していた。
そして、旅も二週間が過ぎてそろそろアルパリオス帝国へとたどり着く頃だとみんなが思っていたときに、上空より偵察を行っていたピピから異常を知らせる報告が入る。
「ピィーー!」
「お兄ちゃん、ピピがこの先で戦闘をしている集団を見つけたって。ひとつは騎士の格好をした集団で、その集団を山賊のような格好をした集団が襲っているみたい。」
「そうか、分かったミーナ。ありがとう。」
竜人はすぐに指示をする。
「俺とティーナで先行する。ラビアはこのままのスピードで馬車を走らせてくれ。あまり戦闘している集団には近づきすぎないようにな。ピピは上空から引き続き偵察をしてくれ。もし何かあれば馬車への連絡係を頼む。他は馬車で待機していてくれ。」
そう指示すると、竜人とティーナは先行するために走り出す。
「ティーナ、一応俺一人で状況を確認してくる。まだどちらが被害者かは分からないからな。ティーナは離れた場所で待機して、俺が攻撃をしたらそちらの集団を『遠矢射る』で狙撃してくれ。」
「分かりました、竜人様。どうかお気を付けて。」
そう言うと、竜人はさらにスピードを上げるとやがて戦闘をしている集団へとたどり着く。
ザザザー!
竜人は地面を擦るようにしてスピードを落とす。
突然現れた一人の男に、両陣営は警戒度を上げた。
「なんだ貴様は!」
山賊風の男の一人が竜人に話しかけてくる。
竜人は両陣営を鋭く観察をしながら告げた。
「俺は冒険者だ。戦闘が行われているのに気が付いてここに来た。両者に問う。これは一体どういう状況だ?」
竜人は大声で誰何した。
(一見すると山賊に襲われている騎士という状況だが、騎士の方が数も少ないし旗色が悪いな。それに、この山賊の集団なにか引っ掛かる。)
竜人の誰何に先に反応したのは騎士たちであった。
「我々はアルパリオス帝国に仕える近衛騎士だ。現在山賊の襲撃を受けている。この馬車の中には然るお方が乗っておられる。奴等はそのお方を狙っているのだ。」
騎士の話を聞き、竜人は山賊の方に視線を移す。
「ということだが、そっちはなにか弁明はあるか?」
竜人が問いかけると、山賊たちは嗤いながら答えた。
「いいや、別に言うことはないさ。それよりもいいのか。そいつらの劣勢は見ればわかると思うが。お前はどうするんだ? もしこのまま逃げるのなら見逃してやってもいいが?」
竜人はその男の答えに少し考えるようにすると、『暁』を抜き放つ。
「そうか。そういうことなら遠慮はいらねぇようだな。」
山賊は竜人の行動にそう告げると構えをとる。
「ひとつ確認したいんだが?」
竜人の言葉に、山賊はなんだというように聞き返す。
「お前たちはどうして
竜人の言葉を聞いたとたん、周囲の空気は緊迫した。
「はっ、何を言ってるんだお前は?」
山賊が問い返した。
「一人二人なら分からないでもない。身を落とすやつはどこの世界にもいるからな。だが、お前たちの動きは、全員何らかの戦闘訓練を受けたことがあるそれだ。それもかなり高度のな。そんな偶然があるわけがない。それだけの実力のある集団ならば、そもそも山賊に身を落とす必要がない。しかも、その目的がこの馬車ってのは出来すぎだろ。」
竜人が説明をすると、山賊たちの表情が明らかに変わった。
「お前ら、こいつを絶対に逃がすな。この場で必ず始末しろ。」
ひとりの山賊がもう隠すつもりがないのか、指示を出した。
「なるほど、口封じか。どうやら余程知られたくない何かが後ろにありそうだな?」
竜人の言葉に応えたのは山賊の剣であった。
竜人は剣の刃の部分を『暁』で斬ると、その刃は真っ二つに切断される。
○神刀「暁」封印解放Lv.1
攻撃力1800
クラーケンの討伐により『暁』の攻撃力は、さらに進化を遂げていた。
「なっ!」
剣を折られた山賊風の男は驚愕の声を上げる。
ドン!
その僅かな隙に竜人は蹴りを放つと、男はそのまま十数メートルを吹き飛ばされる。
「油断するな!」
リーダー格の男が指示を飛ばす。
「ぐわあ。」「うぐ。」
山賊風の男たちに次々と矢が刺さると、倒れていく。
「くそっ!伏兵か?」
リーダー格が気付くも、遠距離からの正確な狙撃に躱すのがやっとで反撃に出られないでいた。
「くそー。」「ぎゃあー。」
竜人はその隙を逃さずに次々と男たちを戦闘不能にしていく。この機を逃すまいと近衛騎士たちも反撃に転じてきた。
「まずい、このままでは・・・。くそ、引くぞお前たち。」
リーダー格が指示をすると、山賊風の男たちは距離を取りはじめる。
シュッ!ドス!ドス!
「何を。」
竜人は声を上げた。リーダー格の男が、戦闘不能になった仲間たちを次々と投げナイフで攻撃する。
「ぐわああああ・・・。」
山賊風の仲間たちが次々苦悶の声を上げると絶命していく。
(くそ。口封じの毒か!)
リーダー格の男は、全員の始末を終えると竜人たちにもナイフを投げて追撃を防ごうとする。
やがて男たちが完全に退却をするが、竜人は追撃をしなかった。
(さすがに地の利がある相手に追撃は危険か。どんな罠があるか分かったもんじゃないからな。それにしても、奴ら完全にプロフェッショナルだな。)
退却から口封じまで、なんの迷いもなく行った動きに竜人はそう考える。
竜人は『暁』を鞘へとしまうと、騎士たちのもとへとやってくる。
騎士たちは近づいてくる竜人に対して剣を向けた。
「控えなさい。恩人に対して失礼でしょう。」
豪華な馬車の入り口が開くと、中からはドレスを纏った女性が降りてくる。
騎士たちは、剣を納めると膝をつき臣下の礼を取っていた。
「失礼しました。私はアルパリオス帝国第一皇女、シャローザ=メロディー=アルパリオスと申します。この度は、危ないところを助けていただきありがとうございました。」
馬車から降りてきた女性はそう言うと、竜人に対してお辞儀をする。
(まさか皇族のしかも第一皇女とはな。なんだかきな臭くなってきたな。あまりトラブルには巻き込まれたくはないのだが。)
「いえ、たまたま通りかかっただけですから気にしないで下さい。それよりも怪我人が多くいる様子ですね。私の仲間が回復魔法の使い手ですので、治療いたしましょうか?」
竜人の問に「もしよろしければ。」と頼まれたので、ピピに馬車へと連絡を取ってもらった。
しばらくすると、竜人たちの馬車が到着する。
「エリス、すまないが騎士の方たちの治療を頼めるか?」
「分かりました、兄さん。」
そう言うと、エリスは治療のため怪我人のもとへと向かう。
竜人は念のため、エリスにラビアとリジィーを護衛兼手伝い役に着けた。
竜人の元には、ミーナとティーナ、アル、クーが残り、ピピは上空で待機していた。
そして、竜人は事の成り行きについて聞くことにした。
~ピピ語り~
あたしの名前はピピ。アル兄さんと弟のクーの三人兄弟である。
産まれたときに巣から落ちたあたしは、アル兄さんに見つけてもらいご主人様に育てていただいた。
アル兄さんは、ご主人様のために薬草を見つけたりとお役に立てていたけれど、鳥であったあたしには何も恩返しが出来なかった。
ご主人様が奴隷にされた時も、何一つ出来ることはなかった。
それが、竜人様の力でご主人様に備わった能力によって、あたしはフェニックスのピピへと生まれ変わった。
それからは魔物と戦う力を得て、そして、空を飛べるあたしは偵察の任務を与えられることとなった。
やっと自分にも恩返しをすることが出来ると思った。そして、ご主人様にこれまでの感謝の気持ちを伝えることが出来た。
竜人様には本当に感謝をしている。
あたしはフェニックスのピピ。ご主人様に仇なすものは私の炎で焼き尽くしてあげましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます