第51話
(三割か・・・・・・。)
竜人がレスタルク勲章を授与することに対して、明らかに不快な表情を浮かべた臣下たちの割合であった。
平民の出と思っての事だろう。皇帝の手前、反対意見は述べなかったが。
(この中の何人が、エグバードの考えに同調しているのか。いや、まだ分かりやすいだけましか。問題なのは、表に感情を出さずに陰で今回の一件を画策しているやつの方がよっぽど厄介だな。)
竜人はそれとなくに周囲の観察を行っていた。
やがて、受賞を終えた竜人は謁見の間を退室して、みんなの待つ応接間へと向かった。
「ベルナード、あの若者をどう見る? 本当にクラーケンを倒せるほどの実力はあると思えるか?」
皇帝は帝国最強の騎士にして、最後の守護者と言われるロイヤルガーディアンに話し掛ける。
「一見しただけでは分かりにくいですが、実力は本物かと。動きに隙はなく、かなり長い期間訓練をしてきた者でしょう。それに、シャローザ皇女殿下の話では何やらかくし球もあるとの事。それだけでなく周囲の状況を冷静に観察し、己の敵となりうるものを伺っておりました。恐らく、今回の皇女殿下を襲った者の首謀者は、帝国内にいると踏んでいるのでしょう。」
ベルナードは答えた。
「ほう、それは面白そうな若者だな。武闘技大会に出場するために来たということだし、いずれお主と戦うこともあり得るかもしれんな。」
「どうやら彼はそのつもりのようです。私を見たときに一瞬ですが喜びの感情が出ておりました。」
皇帝の言葉にベルナードが言う。
「はっはっはっ。お主の実力を感じて、なおそんなことを思えるとはなかなかに剛胆なやつだな。」
「ええ、私も楽しみです。」
(ほう、こやつのこんな表情は久々に見るな。出来るならば、あの若者には帝国に着いて欲しいのだがな。それに、仲間たちの実力もあり、彼の妹の回復魔法はすでに最上級クラスのものと聞く。さて、どうしたものか・・・。)
ベルナードが楽しそうに浮かべた笑みを見て、皇帝はそう思っていた。
応接間に着いた竜人は部屋へと入る。
「兄さん、大丈夫でしたか?」
部屋に入るなり、心配した様子のエリスが話しかけてきた。
「大丈夫だよ、何も問題はなかった。なんか勲章まで貰うことになったんだけど。」
竜人はエリスを安心させるように頭を撫でると、勲章を取り出してみんなに見せる。
宝石が設えられたそれは、見る者を圧倒させる存在感があった。
「すごいですね、竜人様。この勲章を持つものはアルパリオス帝国の臣下の中でもそうはいません。まして、外部のものに授与することなどほとんど聞いたことがありません。」
ラビアは驚いた様子でそう言った。
「やっぱりか。どうやらシャローザからクラーケンの件を聞いて、帝国に唾をつけられたみたいだな。」
成る程とみんなが頷いていた。
「そんなことよりみんな、皇帝に直接お願いしてラビアたちの家族たちの捜索の協力を取り付けられたんだ。それと、奴隷解放の手続きも帝国でやってくれるという話だ。」
竜人がそう言うとエリスとミーナが、ラビアたちによかったと言って喜びあっていた。
「聞き取り調査はこの後呼び出しがあると思う。奴隷解放は明日の予定だから、今日は城に泊まっていくように言われている。」
「竜人様、本当にありがとうございました。」
ラビア、リジィー、ティーナは揃ってそう言うと、竜人にお辞儀をしてそう告げていた。
竜人は気にすることはないと照れるように言った。
その日は、城の客室に泊まり翌朝シャローザからの呼び出しに応じた竜人たちは、奴隷解放の準備が整ったとの知らせで教会まで馬車を走らせた。
「それでは、お三人がた中へどうぞ。」
そう告げた司祭の後に着いていき、竜人たちはその場に残った。
「竜人様たちは、これからどうなさるのですか?」
「そうですね、一応冒険者ギルドに行くように言われているので一旦そちらに向かいます。後は武闘技大会の出場の手続きをしたいと思ってます。」
シャローザの問にそう答えた竜人。
「竜人様ならば優勝も狙えるでしょう。ですが、油断は禁物ですよ。大会では、時にダークホースが現れることもこれまでに何度もありましたから。」
「ありがとうございます。肝に命じておきます。」
しばらく話をしていた竜人たちのもとに、儀式を終えたラビアたちが戻ってきた。
「竜人様、エリスお嬢様、ミーナお嬢様、本当にありがとうございました。」
「これで私たちは、ようやく人に戻ることができました。」
「竜人様、お嬢様、これからもどうかよろしくお願いします。」
ラビア、リジィー、ティーナはそれぞれが告げてくる。
竜人は三人のステータスを確認すると、奴隷の文字は消え眷族の表記だけが残っていた。
「うん、本当に良かったよ。こちらこそ、これからもよろしくな。」
エリスとミーナは、ラビアたちと抱き合って喜びあっていた。
流石に竜人はそこに混ざることは出来なかったので、そう三人に答えていた。
「本当に良かったです。」
「ありがとうございます。シャローザ様の口添えがあったので、ここまでスムーズに儀式を行うことができました。」
シャローザの言葉に、竜人がお礼をする。
「大したことではありません。竜人様方には命を救われたのですから、このくらいは何てことはありません。それでは、私はそろそろお城に戻ることにします。この後、今回の事件の調査や事後処理などをしなくてはなりませんので。」
「それは大変ですね。シャローザ様、どうかお気をつけください。相手はかなりの手練れ揃いでした。次にどんな手を打ってくるか分かりません。」
竜人はシャローザへと忠告をする。
「ええ、承知しています。竜人様たちも気を付けてください。巻き込んでしまったことは申し訳ありませんが、相手に顔を知られた以上、竜人様たちにも危害が及ぶかもしれません。」
「はい、ありがとうございます。」
そう言うと、シャローザは城へと帰って行った。
「さてと、それじゃあ冒険者ギルドに向かうとするか。」
「はい、兄さん。」「よーし、みんな行くよー。」
エリスとミーナがそう言うと、アルたちが元気に返事を返しミーナは馬車へと走り出し、その後を追うようにラビアたちも続く。
そんな様子をしょうがないなというように、竜人も追いかけた。
竜人たちは、帝国の中心部にある冒険者ギルド本部へと向かった。
そこは、帝国のギルドを統括するだけありかなりの広さを誇っていた。
馬車を所定の場所に停めると、竜人たちはギルドの中へと入る。
受付に並んだ竜人たちは、周囲の様子を伺っていた。
「やはり、本部だけあって広いな。」
「そうですね、これだけ人が多いとはぐれたら大変です。ミーナは手を離さないようにね。」
「はーい。」
エリスとミーナは仲良く手を繋ぎ、その周りにラビアたちが護衛のように立っていた。
「お待たせしました。ご用件はなんでしょうか?」
「エルテユス商業ギルド長のダニーさんに、帝国に着いたら冒険者ギルドに行くように言われてきたのですが。」
竜人が用件を告げると、受付嬢はギルドカードの提出を求めてきた。
言われた通りに渡すと、何やら確認を取っていく。
「えっ! まさか、あなた方がクラーケンを討伐したといわれているパーティーなのですか?」
その声はよく響き、ギルド内の喧騒がピタリと止んでいた。そして、周囲の視線は竜人たちへと注がれていく。
(ギルド職員が冒険者の個人情報を洩らしてどうする。しかもこんな衆人環視の中で。)
竜人は頭を抱えたくなってきた。
「おい、今クラーケンの討伐と言っていたか?」
「ああ、あの噂のパーティーはあいつらなのか?」
「だが、それほど強い風には見えないがな。」
周囲がざわめき始めた。
「あなた、何冒険者個人の情報を洩らしているの。代わりなさい!」
「すみません、サリーさん。」
そう言うと受付嬢が交代する。
「申し訳ありません、竜人様。こちらの不手際でした。後で先ほどの職員は処罰をいたします。竜人様方にはギルド長室へ通すように言われておりますので、どうぞ中へお入り下さい。」
そう言うと、サリーは竜人たちを奥の部屋へと案内をする。
竜人たちが居なくなった後も、ギルド内はざわめいていた。
そんな中のひとつのテーブルでは、三人の獣人が会話をしていた。
「相手の実力も計れない素人どもが多いな。それにしても、クラーケンの討伐をした冒険者か。面白くなって来やがったぜ。」
「ミロ、お願いだからやたらと喧嘩を吹っ掛けないでよね。大変なのは私とコーリー何だから。」
「お兄ちゃん、あんまり無茶しないでね。マリアナお姉ちゃんが可哀想だよ。」
三人は冒険者パーティーのようであった。
「分かってるって、大丈夫だよ。それに、このタイミングでここに居るってことは、武闘技大会に出場するはずだしな。遅かれ早かれ戦う機会はあるだろうさ。」
ミロと呼ばれた狼獣人は、不敵な笑みを浮かべていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます